ABEND
第一話
『おはようございます。朝のニュースです。昨夜、都内某所で廃墟と化していたビルが、爆発音と共に崩壊しました。消防と警察が原因の究明を……』
「悠さん、おはようございます」
「ああ、サクラ。おはよう」
挨拶を返すと、再び布団に潜り込む。
「寝ちゃだめです」
「深夜労働したんだ。許せ」
「因子のチェックだけはしないといけないんです」
悠は仕方がないと、体を起こし、端末をこめかみに当てる。
「因子活性度……正常高値。今日は非番ですから大人しくしていましょうね」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
悠はサクラの言葉を聞き終えるかどうかといったところで布団に潜り込んだ。
「悠さん、健康のためにも朝食を摂ったほうが……寝てますね」
サクラの音声と悠の豪快な鼾が、狭い部屋に空しくこだました。
防衛省 防衛装備庁 因子研究所
二人の男女が、暗い部屋で向き合っている。
「適合者の運用状況は?」
「現在、適合者は十二名。三名は訓練中です。残り九名はそれぞれ任務についております。なお、昨夜、一名が違法適合者討伐のため出動しました」
「分かった。引き続き管理を頼む」
「かしこまりました」
防衛省 適合者特別隊舎 三〇二号室
時刻は十四時。美作悠の自室には、相変わらず豪快な鼾が響いている。
「悠さん、そろそろ起きましょう。お昼過ぎてますよ」
サクラの叫びは虚しく、悠には届かない。
その時、緊急時を告げる警報が鳴り響く。あまりの騒音に悠も慌てて飛び起きる。
「サクラ! 何が起きた!」
「ちょっと待ってください……Sレートの因子反応が確認されたそうです」
「Sレートって、ドラゴンでも出たか?」
「分かりません。緊急出動です。急ぎましょう」
「はぁ……人遣いが荒いよ。仕方ないけど」
愛用のバタフライナイフをホルスターにセットしながら、悠は自分の住処を後にした。
防衛省 適合者特別隊舎前
短髪であごひげを少し生やした男性が、そこに立っていた。
「美作一尉、支度が遅いようだが?」
男の名は周防大毅。階級は一佐。適合者の物理的な管理監督を行っている。
悠以外の適合者は既に整列していた。
「昨日、夜間の出動があったため、自室で仮眠をとっておりました」
「分かった。支障はないな?」
「はい」
周防自身は適合者ではない。適合者だからと差別する者が多い中、この周防はそういったことをあまり気にせずに接している。その所為か、適合者からは好かれている。
「今回の任務は、突如発生したSレートの因子反応の調査だ。反応のあった場所は赤城山。現在は反応がないことから、反応は断続的なものと思われる」
反応のあった場所が、山と聞いて、適合者の間に緊張が走る。山には伝承が多く残されていたり山そのものが神格化されていることが多く、高レートの因子が発生しやすい場所であるからだ。
「あくまでも任務は調査だ。戦闘は極力避けろ。諸君らの命をかける必要はない」
周防は言う。本来の指示は、『捕縛または討伐可能であれば行動に移すこと』となっていたが、周防の判断で却下した。
「周防一佐。万が一戦闘になった場合は?」
一人が声を出す。
「すぐに応援を呼べ。なるべく複数で対峙し、隙を見て逃げろ」
了解しました、と全員の顔が引き締まる。
「それでは、状況開始」
周防の号令とともに、一斉に走り出す。
「悠さん、おはようございます」
「ああ、サクラ。おはよう」
挨拶を返すと、再び布団に潜り込む。
「寝ちゃだめです」
「深夜労働したんだ。許せ」
「因子のチェックだけはしないといけないんです」
悠は仕方がないと、体を起こし、端末をこめかみに当てる。
「因子活性度……正常高値。今日は非番ですから大人しくしていましょうね」
「そうか。じゃあ、おやすみ」
悠はサクラの言葉を聞き終えるかどうかといったところで布団に潜り込んだ。
「悠さん、健康のためにも朝食を摂ったほうが……寝てますね」
サクラの音声と悠の豪快な鼾が、狭い部屋に空しくこだました。
防衛省 防衛装備庁 因子研究所
二人の男女が、暗い部屋で向き合っている。
「適合者の運用状況は?」
「現在、適合者は十二名。三名は訓練中です。残り九名はそれぞれ任務についております。なお、昨夜、一名が違法適合者討伐のため出動しました」
「分かった。引き続き管理を頼む」
「かしこまりました」
防衛省 適合者特別隊舎 三〇二号室
時刻は十四時。美作悠の自室には、相変わらず豪快な鼾が響いている。
「悠さん、そろそろ起きましょう。お昼過ぎてますよ」
サクラの叫びは虚しく、悠には届かない。
その時、緊急時を告げる警報が鳴り響く。あまりの騒音に悠も慌てて飛び起きる。
「サクラ! 何が起きた!」
「ちょっと待ってください……Sレートの因子反応が確認されたそうです」
「Sレートって、ドラゴンでも出たか?」
「分かりません。緊急出動です。急ぎましょう」
「はぁ……人遣いが荒いよ。仕方ないけど」
愛用のバタフライナイフをホルスターにセットしながら、悠は自分の住処を後にした。
防衛省 適合者特別隊舎前
短髪であごひげを少し生やした男性が、そこに立っていた。
「美作一尉、支度が遅いようだが?」
男の名は周防大毅。階級は一佐。適合者の物理的な管理監督を行っている。
悠以外の適合者は既に整列していた。
「昨日、夜間の出動があったため、自室で仮眠をとっておりました」
「分かった。支障はないな?」
「はい」
周防自身は適合者ではない。適合者だからと差別する者が多い中、この周防はそういったことをあまり気にせずに接している。その所為か、適合者からは好かれている。
「今回の任務は、突如発生したSレートの因子反応の調査だ。反応のあった場所は赤城山。現在は反応がないことから、反応は断続的なものと思われる」
反応のあった場所が、山と聞いて、適合者の間に緊張が走る。山には伝承が多く残されていたり山そのものが神格化されていることが多く、高レートの因子が発生しやすい場所であるからだ。
「あくまでも任務は調査だ。戦闘は極力避けろ。諸君らの命をかける必要はない」
周防は言う。本来の指示は、『捕縛または討伐可能であれば行動に移すこと』となっていたが、周防の判断で却下した。
「周防一佐。万が一戦闘になった場合は?」
一人が声を出す。
「すぐに応援を呼べ。なるべく複数で対峙し、隙を見て逃げろ」
了解しました、と全員の顔が引き締まる。
「それでは、状況開始」
周防の号令とともに、一斉に走り出す。
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