マグ拳ファイター!!

西順

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 ドンッ! ドンッドンッ!

 空を飛ぶ時計塔が、無数の目玉に向けて砲撃を続けている。どうなってやがる。時計塔が飛ぶなんて報告、オレは受けていないぞ、
 機甲騎士団の騎士たちも、その威容が空を飛んでする様に、地上の悪魔たちとの戦闘を止めてポカーンと見上げていた。いや、騎士たちだけじゃない。窓の隙間から、市民たちもその光景を見守っている。

 ドンッ! ドンッドンッ!

 時計塔の砲撃は目玉、おそらくセカンドにかなり有効であるようだ。これも砲手が天使だからだろう。

 民衆が一斉に議事堂から立ち去った後、脱天集会のメンバーが悪魔へと変わり、大量の目玉(セカンド)が現れてからこちらは防戦一方だった。
 目玉に何ができるのか? と思っていたが、奴ら体当たりのほかに、瞳から熱光線を発射してきやがる面倒な敵だった。
 その上いくらガトリング銃で撃ちまくっても、あまりその数を減らせていないと言わざるえなかった。それは機甲騎士団も同様だったのだが、
「なんか、ドロドロ溶けて気持ち悪いわね」
 一人だけ攻撃が有効な人物がいた。四子だ。
 天使と悪魔は天敵同士とはよく言ったものだ。同じくガトリング銃を撃ちまくっているのに、四子が撃つ弾に当たった目玉は、当たった先からどんどん溶けて消滅していく。
 が、天敵同士なのだ。四子の方も目玉の熱光線がかすっただけで、血が噴き出し止まらない。くっ、マヤがいれば大盾で覆ってもらいこちらがアドバンテージを取れるというのに。
 オレは後悔はその場で捨てて、あまり効果はないと分かっていても、四子を護るため四子の周りでガトリング銃を撃ちまくった。
 だがそれも限界、と言うほどに周りを目玉に囲まれた時だった。

 ドンッ! ドンッドンッ!

 砲撃音が鳴り響き、中空を飛び回る目玉に砲弾が直撃する。
 やっと来たか、と地平の方を見遣っても、時計塔のあの特徴的な時計盤は見当たらず、されど砲撃音は響く。音に耳を澄ませれば、上空から砲撃音が聴こえてきていた。
 上を見上げると、巨大な軍艦が翼を生やして空を飛んでいる。それは何が起きているのか、理解が追い付かない光景だった。その異様な光景に、騎士団のメンバーが一様に膝を付いて祈りを捧げたことからも、それが日常でも非日常でもあり得ない光景なことが分かる。
 しばらく呆然とその光景を見ていると、空飛ぶ軍艦の中から天使たちが現れて、目玉と戦い始めた。その姿に機甲騎士団もそれを見守っていた市民たちも沸き上がる。
 天空で行われる天使と目玉の戦いに奮起した機甲騎士団は、地上の500体の悪魔をどんどんと狩りはじめ、いつの間にやら500体の悪魔は全て倒されていた。
 オレたちを囲っていた目玉も、それどころではなくなったらしく、天空の他の目玉たちの応援に駆け付けたが、天使と悪魔の戦いは、ほどなくして、形勢を覆させることなく、時計塔擁する天使たちによる悪魔セカンドの殲滅によって幕を下ろした。

 悪魔との戦闘を終えた時計塔は、議事堂前の広場に静かに着陸する。するとそれまで戦っていた天使たちが、時計塔の入り口から議事堂に向けて整列した。
 それだけで議事堂前が整然としたのは言うまでもない。天使がビッシリ整列して出迎えるのだ。中から出てくるのは天使たちの上位者で間違いない。全員の視線が入り口に傾注される中、扉が開き、中から出てきたのは、なんとも居心地悪そうにペコペコしたリンだった。

「や! 神様!」
 カルトランド新政府首長執務室に現れたマヤたち双翼調査団の面々。首長の執務机で大量の書類に囲まれているリンに向かって、マヤが開口一番言ったのがそれだった。
「誰が神様だよ」
 ジト目で睨み返すリン。
「ええ? 街の皆が言ってるじゃない。それとも英雄王の方が良かったかしら?」
 なんとも笑えないジョークを口にしながらズカズカ執務室に入ってくるマヤたち面々。
 天使を従えいたのだから神様。良く分かる。四方を囲っていた他国の軍隊が引いていったのだから英雄。良く分かる。だが本人としてはどちらも役者不足だと感じているのも良く分かった。
 あの後、他国による分割統治は免れたカルトランドだったが、政府機構は滅茶苦茶で、どの貴族もトップには立ちたくない、と尻込みし、民衆も脱天集会による扇動だったためにトップになろうなんて人間出てくるはずもなく、そんな中で何故か白羽の矢が立ったのがリンだった。
 救国の英雄に祭り上げられた憐れな生け贄は、断るに断りきれず、この一週間頑張って国の建て直しを断行している。
 元々、貴族断罪の資料は揃っていたこともあり、貴族に「貴族」という名誉職という名だけの役職と小さな土地を与え、政治から排除し、国民による国民のための政治をコンセプトに、民主政治をカルトランドに施政していった。
 一時的にだが、救国の英雄が首長として国のトップに立ったことで、民主制は上意下達トップダウンで素早く国中に広がり、一ヶ月後には国のトップを決める総選挙が行われる。
「リンさぁ、何がしたいの?」
「くっ、オレだって好きでトップになろうと思ってる訳じゃないんだよ」
「でもこれで二カ国目じゃん」
 リンが長になるのは、天使たちの浮遊島に続いてカルトランドで二カ国目。世界さえ救った男は、やることが大きい。付いていくのが大変だ。
「ああ、自由が欲しい」
 冒険者(プレイヤー)らしい発言だが、後一ヶ月はこの執務室に缶詰だろう。
 そしてリンは知らないが、今度の選挙候補に何故か「リンタロウ」の名前が公示されていたりする。逃げ場がないなあ。

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