マグ拳ファイター!!

西順

182

「そういうことだから、よろしく頼む」
 オレはパスを切って一息吐く。胡座をかいたオレの足元には、先ほど生まれたばかりのスライムが、大人しく鎮座している。
 オレがプルンとしたスライムをなでなでしていると、
「ブルースか?」
 と三郎が聞いてくる。
「ああ」
「そんなに急を要するに事態なのか? 脱天集会に資金が流れるのは大問題だが、それだけだろ?」
 三郎がまるで事態を把握していないことに嘆息する。
「資金が悪辣な邪教集団に流れる、だけの問題じゃないんだよ」
「そうなのか?」
「魔核屋に卸されたのは、言わば"生"の魔核だ。それが街の中に大量にあるとどうなると思う」
「ああ、なるほど、悪いオレの考えが甘かった」
 三郎がすぐに反省したように、事態はかなりヤバい。生の魔核が次々とそこら辺の物品と融合したら、街の中で大量の魔物が溢れかえることになる。魔物パンデミックだ。しかし、
「その柴犬どうした?」
 三郎の横には、ちょこんと柴犬がお座りしている。
「タマのことか?」
 猫みたいな名前だな。
「リンばかりスライムをなでなでしていてズルいからな。オレも創った」
「それで何で柴犬になるんだよ!?」
「それはオレに言われても分からん」
 そう言いながら三郎はタマの美しい毛並みをなでなでしている。くっ。
「いいもん。オレにはプリンがいるから」
 とオレが三郎に見せ付けるようにプリン(スライム)をなでなですると、三郎も負けじとタマ(柴犬)をなでなでしてみせる。
 そうして二人でなでなで合戦をしていると、ブルースからパスが入る。
「何? 今忙しいんだけど?」
『こっちはそれどころじゃねえよ! リンに言われて魔核屋に行ってみたら、魔物で溢れかえってるんだよ!』
 遅かったか。
「街には機甲騎士団も他の冒険者もいるから、そっちは任せて、ブルースは商業ギルドに向かってくれ」
『商業ギルド?』
「他にも生の魔核が出回っているかも知れない。商業ギルド経由で、国内外に通達してもらってくれ」
『分かった』
 ふむ。これで生の魔核での被害は最小限に抑えられるだろう。
「さて、オレたちもそろそろ行くか」
 オレと三郎は立ち上がると、ウーアへの再び向かい始めた。その傍らにはプリンとタマが付き従っている。
「三郎、タマちょっと触らせて?」
「嫌だ」
「ケチ」

 ウーアは星形をしていた。台形の土地に街をぐるりと囲うように城壁が建てられ、その外の堀には水が並々と湛えられている。デカい五稜郭と言った感じだ。
「本当に星形をしているんだな」
 空から降りてきた三郎が感心している。きっと浮遊島にもウーアは五角形の星形だと伝えられているのだろう。
「街の様子は?」
「特段何か起こっているようには見えなかったな」
 ふむ。ノルデンスタッドがあんなことになっているから、ウーアも何かしら起きていると想定していたが、当てが外れたか? まあ、そっちの方がありがたいが。

 街の中に入ってみても、日常が広がっているばかりだった。
 オレたちはホッと胸を撫で下ろしながら、早速発掘チームと合流するため、街のさらに西に向かった。
「どうも」
 ウーアの発掘チームのリーダー、ヒューマさんと握手を交わす。ヒューマさんは外で発掘に勤しんでいるからだろう、褐色でガタイの良い人だった。
「何でも発掘現場を見学なさりたいとか?」
 朗らかに受け答えしてくれるヒューマさんに連れられ、オレたちは西の城壁付近までやって来た。
 そこでは城壁の中、街の中だというのに、発掘が進められていた。ヒューマさんの話では、古代の街の上に街が造られているので、ウーアでは至る所で発掘がなされているそうだ。
「しかし、グッドタイミングでしたね」
「グッドタイミング、ですか?」
 ヒューマさんの言葉に、三郎と顔を見合せ首を傾げる。
「実は最近になって新たに発掘されたものがあるんです」
 へえ、なんだろう? オレたちがワクワクしながら連れて行かれたのは、2メートル四方の穴だった。覗いてみても、四角い穴である。
「何ですか? これ」
 とオレと三郎が振り返った時だった。発掘チームに押され、オレと三郎は穴に落とされてしまった。さらに蓋まで閉められる始末。
 真っ暗闇になったとたん、三郎が胸を押さえて苦しみだした。これはヤバそうだと感じていると、
「それは天使の棺桶と呼ばれるものだ」
 暗闇の向こう、地上からヒューマさんの声が聞こえてくる。棺桶とは安直なネーミングだな。
「天使のあらゆる活動を低下させると伝わっていたが、どうやら本当だったみたいだな」
 ヒューマさんの声が興奮している。まさかそのことを証明するために、オレたちを落としたのか? マッドサイエンティストならぬ、マッドアーキオロジストかよ。
 こんな見え見えの罠に落ちるとは、恥ずかしくて他のメンバーには言えないな。などと思っていると、地面が光り出した。魔法陣?
 それに三郎が触れると、地面がパカリと開き、オレたちはさらに地下へと落ちていったのだった。

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