マグ拳ファイター!!

西順

179

 そもそも、オレたちが対峙した時計塔とはなんだったのだ? あれには明らかに対天使用の兵器が装備されていた。
 オレはその疑問をアキジロー氏に尋ねた。
「それに対しては我々のチームでも疑問に思っていました。鳥や雷雲など、飛行する者をターゲットにした設計が、時計塔にはなされていました。終いには天使にしか効かない怪音波。時計塔はまるで創世神話に出てきた人天戦争を思い起こさせる、と皆で話し合っていたものですよ」
「人天戦争ですか?」
「はい。大昔、神の恩恵を忘れ尊大になった人間と、神の代弁者である天使とで戦争になった、と創世神話には語られています」
 人間対天使の戦争か。確かにあの時計塔は軍艦の様だったし、過去に戦争に用いられていたとしても不思議じゃないな。
「しかし、何で時計が付いていたんだ?」
「ああ、それは古代人が、時計をシンボルにしていたからです」
「はあ?」
「時計というのは、古今東西を問わず、人類の叡智の結晶とされていますからね。正確な時計はそれ自体人類讃歌の側面があるんです」
 ふ~ん、なるほどねえ。
「じゃあ、結構時計の出土って多いんですか?」
「ええ、多いですね。カルトランドだと、西のウーアという街の近くでよく出土されます」
 ウーアの街か。次の目的地はそこかなあ。でもその前に、

「本当に、ありがとうございました」
 オレはリアル時間にして二週間、ひたすら瓦礫の海と化した街の復興に尽力した。といってもひたすら瓦礫を片していただけなんだけど。そのお陰か、街の地面2/3が顔を出し、片したレンガなどを使い、新しい建物の建設も始まった。
 一先ず自力での復興に目処が立ったので、お役御免という訳ではないが、オレは街を離れることにした。
「いやぁ、本当に凄いですな。街のほとんどの瓦礫を、皆さんで片付けてしまうとは」
 まあ、オレとしては早く西のウーアに行きたい一心だっただけなんだけどね。
「これは、ウーアの発掘チーム宛ての手紙です」
 アキジロー氏はそう言って一枚の便箋をオレに手渡してくれた。
「これを見せれば、向こうも協力してくれるでしょう」
 それはありがたい。
 こうしてオレは街人たちの総お見送りを受けながら、一路西に向かったのだった。

「一路西に向かったのだった。じゃねえよ」
 ノルデンスタッドで再開したブルースに怒られた。解せん。
「何なんだ? その大所帯は?」
 ノルデンスタッドの飯屋で、オレと同じテーブルを囲っているのは、ブルースに三郎、そしてロックスにティナに娘次郎に田中Mk-2である。
「何かおかしなところあるか?」
「誰だよ、そいつら」
「ロックスにティナに娘次郎に田中Mk-2だ」
「いや、知らんから」
 だろうな。
「いや、時計塔の街で一緒に瓦礫を片付けているうちに、何か懐かれちゃってさあ」
「それでノルデンスタッドまで一緒に来たのか? バカなのか?」
「誰がバカだ!」
 ちなみに今、「誰がバカだ!」とブルースに食って掛かったのが、瓦礫の街でもオレに突っ掛かってきた戦士の少年ロックスで、
「止めなさいよ!」
 とそれを止めようとしている魔法使いの少女がティナ。
 オロオロと二人のやり取りを見ているの男の娘が弓士の娘次郎で、我関せずと食事を食べているのが盾使いの田中Mk-2だ。
 何故このパーティーがオレと一緒に行動しているかといえば、リアル時間で二週間前に遡る。つまりアキジロー氏に話を聞いた翌日だ。

 その日もロックスはブーブー文句を言いながら、だらだらと瓦礫運びをやっていた。
 前日までのオレだったら、そんなロックスも気にしていなかっただろう。だが目的が定まったオレは、早く次の街に行きたかったが、この瓦礫の街を放置しては行けない。
 なので彼らを使うことにしたのだ。
「なあ?」
「なんだよ? お説教かよ?」
 不貞腐れた目でオレを下から見上げるロックスにオレはこう提案した。
「勝負をしないか?」
「勝負?」
「漫然とこんな作業をやってても、飽きるだろ? オレと賭けをしよう」
「賭け、ねえ?」
 ロックスの目は胡散臭いものを見る目だったが、その奥に楽しみを見出だしていた。
「オレとそっちのパーティー四人で、どちらが多く瓦礫を片付けられるかの勝負さ」
「四対一って、勝てると思ってるのか?」
「ああ。負ける気がしないね。オレに勝てたら、500万ビットやるよ」
「500万ビット!?」
 その金額に、作業をしていた他の三人の手も止まる。
「いや、しかし、そんな大金、本当に持ってるのかよ!?」
「今は無い」
「おい」
「ノルデンスタッドにいる仲間が持ってる。それでどうする? この賭け、乗るか?」
 四人は話し合い、そして、
「いいだろう、その代わりオレたちが勝ったら、本当に500万払ってもらうからな!」
 こうしてオレと四人の勝負は始まり、街はたった二週間でかなり綺麗になったのだった。
「で、勝負に負けた訳ね」
「良い勝負だったんだけどなあ。あとちょっとでオレが勝ってたんだよ」
 とオレはブルースと三郎に向けてニヤリと笑う。
「残念だったなあリン。本当に、あとちょっとだったのになあ。でも勝負は勝負だからな。500万払ってもらうぜ?」
 高笑いをするロックスにため息をこぼすブルース。ブルースはポーチをまさぐり金袋を取り出すと、テーブルに大金貨を50枚並べていく。
「ほら、500万だ。とっととこれ持って消えろ」
 四人から喜びの声が上がる。ロックスはすぐさま500万ビットを自身のポーチに仕舞うと、
「じゃあな」
 と手を振って四人仲良く去っていった。
「お前何やってんだよ?」
「必要経費ってことで」
 オレは舌を出しておどけて見せたが、二人には不評で、ため息を吐かれてしまった。

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