マグ拳ファイター!!

西順

175

 時計塔の中に侵入すると、いきなり多脚機械やら機械兵やらが大量にお出ましになった。
「大歓迎ですねえ」
「そうじゃな」
 と言いながら腰の打刀を抜く烈牙さん。
「行くぞ、虎徹丸!」
 と2になってから新たに手に入れた相棒を、正眼に構える。しかし、
「やっぱり偽物っぽい名前ですね」
「それを言うな」
 虎徹自体偽物の多い刀剣なのに、なんだが偽物の偽物みたいだ。
「そんなことより、来るぞ!」
 機械たちが一斉に飛び掛かってくる。機械兵は両手に剣を持って振り回し、多脚機械は昆虫の口吻のようなギザ歯の口で迫ってくる。
 それに対してオレは銅貨をばら蒔き、礫弾で適当に数を減らしていく。それをすり抜けてこちらへきた機械たちは烈牙さんの虎徹丸が一刀両断だ。
 そうして多すぎるおもてなしををいなしながら、オレたちは一歩一歩着実に進んでいった。目指すは時計塔中心部の指令室だ。


 ダダダダダダダダダダ……!!

 丁字路の角を曲がったところにマシンガンがセットされていて、それをオレたちは寸でのところで避ける。オレは避け様に礫弾を放ってマシンガンを潰した。
「ハァー、中々先に進ませてくれないですね」
 とオレが壊れたマシンガンに不用意に触れた瞬間、

 ガチャン!

 と通路の四方八方からマシンガンが飛び出てくる。二段構えか! が、それをいち早く察知した烈牙さんが、マシンガンが現れた瞬間に全て切り落としてしまった。さすが神速。
「アダマスでもそうだったが、リンはもう少し注意力を鍛えた方が良いぞ」
 はい、気を付けます。なんと言うかこう言う無機質なモノは苦手な気がする。相手が魔物や人間なら気配で分かるんだけどなあ、こう言う風に。
 オレが通路の先、曲がり角のさらに先に礫弾を曲げて飛ばすと、

「ぐはっ!?」

 と声が聞こえてくる。オレの攻撃がヒットしたようだ。
 素早くそちらへ走っていくと、黒と黄色のツートンカラーのローブを着た、おそらく邪教徒が倒れていた。
 慎重にそちらへ近付こうと一歩踏み込むと、ぐるりとこちらを見返した女の目が光る。とオレたちは気絶させられてしまった。

 しばらく白い空間でソリティアをして暇を潰していると、頬に衝撃を受けて起こされた。
 オレと烈牙さんは指令室の天井から鎖で吊り下げられ、部屋には十人ほどのお揃いのローブを着た邪教徒がいた。
 さっきの女が拳を握ってこちらを睨んでいることから、きっとこの女がオレを殴って起こしたんだろう。
「おはようございます」
 エスプリ込めてそう言うと、女は歯軋りして、
「良い夢見れたかしら?」
 と逆の頬を殴ってきた。
「ええ、今、目が覚めました」
 あまり痛くはないが、他人に殴られる趣味もないので、ここは従順を装っておく。
 「何やっとるんじゃ」
 とオレより一足早く起こされていたらしい烈牙さんに窘められる。すんません。
「どうやら二人とも状況が分かっていないようだね」
 とスピーカーからそんな声が聞こえてくる。この声は甲板で聞いた奴の声だ。指令室でもスピーカーから声が聞こえてくるってことは、この時計塔にその"奴"はいないらしい。
「しかし君らは何者だい?」
「汚物と話すことはなかったんじゃないのか?」
「…………」
「…………」
「レディ」
 女がオレの目を見て睨むと、オレの体に電流が迸る。
「がはっ!?」
 痛い。自業自得だけど。そう言や、こんな能力の使い手が何かラノベに出てきてたな。確か邪眼使いとか何とか。
「もう一度聞こう、君らは何者だい?」
「ただの冒険者(プレイヤー)だよ」
 と正しく答えると、スピーカーの向こうからも、指令室からも笑いが起こる。
「レディ」
 またかよ。オレはそうはさせまいと目をきゅっと瞑るが、今度は無防備な腹我々のを殴られ、驚いて目を開いたところに邪眼を使われた。二連続はズルいと思う。
「冗談はよしなさい。冒険者(プレイヤー)に天使のような翼が生えるはずがない」
 こいつらは翼がどうやって生えているのか、理屈を知らないんだな。教えてやる気もないが。
「じゃあ、話はここまでだ」
「なんだと?」
 オレは鎖をエフェクトで柔らかく脆くすると、壊して床に降りる。烈牙さんは、強引に力ずくで鎖を壊していた。しかしこんなもので本当に拘束できると思っていたのだろうか?
「くっ! 皆の者、退散だ!」
 え? 逃げるの? 戦闘に突入するかと思ったら、邪教徒たちは指令室のあるボタンを叩き押すと、即行で指令室から退散していった。
 ポツンと取り残されるオレと烈牙さん。
「どうします?」
「そういわれてものう」
 と二人呑気にしていると、ガタガタガタガタと揺れ出す時計塔。
「これは……」
「ヤバそうじゃのう」
 オレと烈牙さんは顔を見合せ、邪教徒たち同様、即行で時計塔を後にした。


 ドドーーンンッッ!!!!

 大爆発だった。丘の上まで退避したオレたちのところまで、爆風と熱波と振動が押し寄せる。
 マヤの大盾がなければ、それなりの被害があったかも知れない。
 カルトランドの機甲騎士団もオレたち同様に丘まで避難していたので、爆発には巻き込まれなかった。あのままオレの忠告を無視していたら、と感謝された。謝ろうとしていた相手に感謝されるとむず痒い。
「しかし、自爆とは、結局奴ら何がしたかったのか……?」
 アルトアイゼン氏が爆風が止んで見晴らしの良くなった、時計塔のあった場所を見遣る。そこは巨大なクレーターになっていた。
「邪教徒の考えを理解できたら、自分まで邪教徒になっちゃいますよ?」
 オレの応えに、
「確かにそうだ!」
 とアルトアイゼン氏は大笑いしていたが、オレの心の奥では、まだ何かが警鐘をならしていた。

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