マグ拳ファイター!!

西順

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 だがオレたちが第一機甲騎士団を助けるより早く彼らを助けに入った者たちがいた。緑の甲冑を着た一団である。
 第一機甲騎士団のように騎馬が牽く戦車に乗り、手には銃剣を持ち、カラスたちを撃ち落としていく。
「あれは第二機甲騎士団だな」
 ブルースがボソリと教えてくれた。なるほど、仲間のピンチに駆け付けたのか、と思っていると、指揮車らしき戦車が第一機甲騎士団の指揮車と横付けし、指揮官同士がなにやら話し始めたと思ったら、何か言い合いになっている。もしかして、あまり仲が良くないのだろうか?
 そう思っていると、時計塔の塔から黒煙が噴き出し、空一面を黒に染める。
 次の瞬間には暗雲から無数の雷が轟音とともに放たれる。
 それをもろに浴びて動けなくなる第一、第二機甲騎士団。
 黒雲はさらに第二陣の雷を落とすが、それは第一、第二機甲騎士団を覆う透明な球体によって阻まれた。
 そして駆け付ける黒い甲冑を着た一団。手には黒い杖を携えている。
「第三機甲騎士団だな」
 第三機甲騎士団は魔法によって竜巻を起こし、空の黒雲を晴らしてみせた。そして第三機甲騎士団の指揮車も第一、第二の指揮車に横付けし、言い合いをしている。
「何やってんだ? あいつら」
「さあ?」
 半眼で状況を見守っていると、今度は時計塔から紫のガスが放出される。十中八九毒ガスだろうと思っていると、案の定第一、第二、第三機甲騎士団がバタバタと倒れていく。
 こりゃ本当に介入しないとダメだな。と思っていたところに、白い甲冑を着た一団が現れる。
「あれが第四機甲騎士団だ」
 第四機甲騎士団は毒ガスをモノともせずに、第一、第二、第三機甲騎士団に接近すると、素早く魔法や薬で処置を施し、彼らを毒ガスの圏外に退避させた。
 第四機甲騎士団もロケット砲で時計塔の側面を削っていくが、時計塔の側壁が壊れ、内部が露になると、そこから人の膝ほどの多脚機械が何体も出て来て、第四機甲騎士団に取り付き自爆を始めた。
 それを助けたのは、少し遠距離から魔法や銃、弓で確実に多脚機械を撃ち抜く青い甲冑を着た一団だった。
「で、あれが第五機甲騎士団か?」
「ああ」
「いったいいくつ機甲騎士団があるんだよ?」
「第五までだ」
 などとブルースと会話していると、復活した第一、第二、第三機甲騎士団が、戦線に復帰、時計塔は色とりどりの騎士たちに取り付かれることになった。
 徐々に解体が進んでいく時計塔。しかし、

 ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 また鐘がなる。すると今度はブルースやマーチが苦しみ出した。
「大丈夫か?」
 オレと烈牙さんで二人を支え、マヤと天使たちのいる丘まで退却する。退却途中で振り返って見れば、機甲騎士団も苦しんでいた。

「どうしたの!?」
 マヤが心配そうに尋ねてきた。
「時計塔でまた鐘が鳴ったんだ。そしたらブルースとマーチが苦しみ出した」
 マヤは苦しむマーチの汗を拭ってあげている。
「リンと烈牙さんは大丈夫なの?」
「ああ、今のところは。多分、最初の鐘は天使に有効な鐘で、今のが現地人に有効な鐘だったんだと思う。もしかしたらプレイヤーに有効な鐘もあるかも知れないが、行かなきゃ機甲騎士団も全滅しちまうからな」
 そう言ってオレと烈牙さんは振り返ると、時計塔へと飛び立った。

 オレたちが到着したのは、時計塔の壊れた側壁から、機械の兵隊が今にも出てこようという場面だった。
 オレは素早くポーチから銅貨を取り出すと、機械兵に向けて礫弾を撃ち出す。ひしゃげて壊れていく機械兵たち。
「あんたら! さっさとこの場から退却するんだ!」
 とオレが声高に叫ぶも、
「リンタロウ殿! それでは我々の面目が立ちません!」
 と苦しみながらアルトアイゼン氏が声を上げ、他の機甲騎士団の指揮官も、
「そうだ! これは我々のお役目だ!」
 と引く気がない。そのうち周りの機甲騎士団の面々からも、
「これは我々がやり遂げねばならないのだ!」
「冒険者(プレイヤー)は下がっていろ!」
 と声が上がる。
「やかましい!!!!」
 オレはここまでのやり取りで積もりに積もったイライラしていたモノを、重力球に変え、時計塔の側面に叩き付けた。すると機甲騎士団が必死になって壊していた側壁が、オレの重力球でほぼ半壊する。
 シーンと静まり返る機甲騎士団。
「別にこっちはお前らの心配なんてハナからしてないんだよ! 単にここでお前らに死なれると、こっちの寝覚めが悪くなるからさっさと消えろ、って言ってんだよ! それともここで時計塔と一緒にぶっ壊されたいのか!?」
 オレに一喝されてシュンとなる機甲騎士団。
「分かったらさっさと消えろ。目障りだ」
 オレとの彼我の差を見せつけられ、さらには自分たちの身の保証もしないと言われては、機甲騎士団もその場を立ち去るしかなかったようだ。
 十分に彼らが時計塔から離れたのを見届けると、
「少し、言い過ぎましたかね?」
 烈牙さんに愚痴っている自分がいた。
「そうかも知れんが、ああでも言わねば、彼らも引き下がれなかったじゃろうて」
 そう言ってもらえるとありがたい。
「後で、謝っときます」
「それが良い」
 オレは気持ちを入れ替え、時計塔と向き直した。

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