マグ拳ファイター!!

西順

173

「逃がすか!!」
 時計塔のスピーカーからそんな声が発せられたかと思うと、甲板にいくつもの水晶球がせり出してくる。
 その水晶球が光り出したかと思うと、光線がオレたち目掛けて撃ち放たれた。
「くっ!」
 オレたちは空を飛び回って的を絞らせないようにするが、なにせ相手は光速である。捕らえられれば相応のダメージを受けるだろう。
 そう思って必死に逃げ回っていると、どこからかロケット弾が飛んでくる。
「はっ!?」
 そのロケット弾はオレたちの横を素通りし、後ろの水晶球に当たると、盛大に爆発した。
 訳が分からず呆けていると、次々ロケット弾が時計塔へ向けて飛来する。それらはオレたちを助けるように水晶球を狙い撃ちしていた。
「リン! 今のうちだ!」
 ブルースに言われてハッとしたオレは、すぐに皆とその場を後にした。

 オレたちが丘の上まで飛んでいくと、地上から手を振っている一団と出会った。
 一団からロケット砲が撃ち出されていることから、どうやら彼らにオレたちは助けられたようだ。
 赤い揃いの甲冑を着込んだ一団の側に降りると、救護兵らしき者と指揮官らしき者が近付いてくる。
「カルトランド第一機甲騎士団のアルトアイゼンです!」
 背筋をピンと伸ばして大声で自己紹介するアルトアイゼン氏。甲冑を着込んでいるので顔は分からない。
 同時に側までやって来た救護兵が、天使たちを診察し始める。迅速だな。その姿勢にホッと心の中で安堵してから、アルトアイゼン氏に向き直る。
「双翼調査団のリンタロウです」
 オレの返事を聞いてから、アルトアイゼン氏は膝を折り、
「この度は申し訳ありません。本来なら自国内で対処しなければならない問題に、あなた方の手を煩わせるようなことをしてしまい。なんと非礼を詫びればよいのか」
「全くだわ! 何で私たちがあなたたちの尻拭いをしなければならないの!」
 頭を垂れるアルトアイゼン氏に、マーチは強気だな。
「我々としても、どうしてこのような依頼があなた方の下に行ったのか目下調査中です。時計塔(あれ)はすでに調査・修復のために持ち込まれた街を一つ潰しており、その時点で国家上層部ではなく、あなた方に依頼が行っているのです」
 うーん、何か情報が錯綜してるな。
「こちらとしてはここであなた方には手を引いてもらい、我々に一任してくださると、面子の回復にもなるのでありがたいのですが」
「はあ!? 今さらどの口がそんなこと言えるのよ!?」
 マーチさんが怒っておいでです。アルトアイゼン氏もたじたじだな。
「オレはそれで良いですよ」
「リン!?」
「マーチ」
 オレは目で天使たちの方を見遣る。カルトランドの救護兵のお陰か、今は落ち着いているが、あの時計塔には明らかに対天使用の兵器が搭載されていた。天使たちをこのままにして良いかは考えものだ。
「……分かったわよ」
 マーチにもオレの意図は通じたらしく、この場は引き下がってくれた。
「ありがとうございます。この件に関する相応の謝礼は、後日冒険者ギルドを通して支払わせていただきます」
 そう言うとアルトアイゼン氏は踵を返し、第一機甲騎士団の下に戻ると、次々と指示を出していった。

 アルトアイゼン氏が指揮する機甲騎士団は中々の武力だった。
 鎧を着た騎馬に戦車を牽かせ、ロケット砲をバンバン撃ちまくる。
 近付けば巨大な斧や槍など、近接武器で時計塔の側面を削っていく。
「ほへー。中々やるなあ」
 とのんびり見ていられたのも、途中までだった。
 時計塔の甲板の中央部が開いたかと思うと、その中から無数の大ガラスが飛び出してきたのだ。
 カラスに取り囲まれ、その戦力を一人また一人と減らしていく第一機甲騎士団。
「これは、またオレたちが参戦しないといけない感じかな?」
「だろうな」
 ブルースと頷き合う。
「もう、放っといていいんじゃない?」
 マーチはやる気なさそうだ。
「そうも言っておられんじゃろう。例え憎き者であれ、その者を見殺しにするのは、仁道より外れること。その憎き者と同列に落ちると同じよ」
「……分かったわよ」
 烈牙さんに説得されてマーチも納得したらしい。
「マヤはこの場で天使たちを護っていてくれ」
「オーケー」
 オレたちはマヤに天使たちの護衛を任せ、時計塔へと飛び立った。

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