マグ拳ファイター!!
170
「ヤバいな」
「ヤバいのはあんたの頭の中よ!」
 カルーアに襟首掴まれてグワングワン揺すられ、世界が揺れている。いや、この揺れは世界振動だ。世界がブレブレになって、カルーアが、双翼調査団のメンバーが、二重に、三重になって見える。
「間に合わなかったのか?」
 マザーの方を見遣ると、首を左右に振るマザー。
「分かりません。今からできる限り修正を施します。願わくば、また皆さんに会いたいですね」
 そのマザーの言葉で、オレの意識はリアルに引き戻された。
「仲間との、別れの挨拶も無しかよ」
 オレにできるのは、椅子の背もたれにもたれ掛かることだけだった。
 その日から、マグ拳ファイターは長期のメンテナンスに入った。理由は不正データによるシステム改竄の結果、正常なゲーム運営ができなくなったから、と包み隠さない運営からの通達があった。
 これに伴い、この件に関わったとされる人物が次々と逮捕されていった。
 ファルシフィックの六人は当然のこと、彼らから不正データを買っていたプレイヤー、総勢1000人以上が逮捕送検されるという、日本ゲーム史上類を見ない大事件として、各種マスコミやネットで騒がれる事態となった。
 世間の衆目は今やマグ拳ファイターのことで連日大騒ぎとなり、RMTという実際にお金が動くゲームであったことから、誰々は何億稼いだ、という噂が、ネットではまことしやかに流れていた。
 そしてマグ拳ファイターの運営から、そのままサービス終了のお知らせが届くことになる。
 それが「伝説終了」とまた世間を騒がす事態となる。マグ拳ファイターはRMTである。ゲーム内で貯めた金はどうなるんだ!? となるプレイヤーが一部にはいたが、元々こうなった時には換金されません。と利用規約に明記されていたので、そう言ったプレイヤーは泣き寝入りするかと思ったら、チート使いたちが悪い、と1000人以上いるチート使いに集団訴訟を起こしたことで、また世間から色々と注目を浴びることになった。
 そして、マグ拳ファイターサービス終了は、新たな伝説の幕開けだった。「マグ拳ファイター2」のリリースである。
 セキュリティ面を大幅にアップし、有名になったことでスポンサーとなる企業も増えたことで、最初から全マップ開放というプレイヤーには素晴らしい仕様となって戻ってきたのだ。さらに望むのならば、マグ拳ファイターをプレイしていたプレイヤーは、「2」の一次プレイヤーとなる権利が与えられた。「2」から始めようと思ったプレイヤーより、三ヶ月も早く始められるのだ。
「ハァーーーーー」
「長いため息だな」
 オレが教室の窓に寄り掛かり、ボーッと空を眺める雲を見ていると、アキラが声を掛けてきた。
「嬉しくないのか? またマグ拳ができるんだぜ?」
「…………嬉しいよ」
「いや、全然嬉しくなさそうだな? まあ、マグ拳のサービスが終了した時に比べれば、いくらかマシになったけどな」
 そんなに落ち込んでいただろうか? いたかも知れない。オレは、オレの不甲斐なさで、世界一つを滅ぼしたのだ、と。
 何なら自殺まで考えた。冗談だけど。アキラやマヤはオレのせいではないと慰めてくれたが、オレはあの頃かなり思い詰めていたと思う。
 そこにマグ拳ファイター2のリリースの情報が流れてきた。オレは、何故かゾッとした。一つの世界が終了したというのに、それがまるで対岸の火事であったかのようで、モニターの向こうの戦争のようで、気持ち悪くて仕方なかった。
 情報が増えるにつれ、世界観はそのままらしいことは分かったが、それ以外はシークレットとされた。
 お楽しみとかどうでも良いのだ。オレはオレが今まで出会ったみんなが無事でいてくれればそれで良い。
 毎日毎日、何に対してなのか、オレは祈りを捧げていた。
 マグ拳ファイター2のサービス開始日は、奇しくもオレの誕生日だった。
 HMDを被り、またあの白い空間にやって来ると、マザーがにこりと微笑み挨拶してきた。
「こんにちは」
「…………お久しぶりです」
「ふふ、早く先に行きたくて仕方がない。そんな顔ですね」
「はあ」
「皆さんは、トレシーにいます」
 それを聞いた瞬間、全身の毛穴から歓喜の何かが迸った。
 教会を出ると、マヤと烈牙さんが待っていた。
「早いな二人とも」
「リンがいつも遅いのよ」
「まあ、良いではないか。こうしてまたマグ拳の世界に戻れたんじゃからのう」
三人とも初期装備の街人の格好だ。
「で? どうする?」
「行くに決まってるでしょ?」
 マヤの意見に烈牙も強く頷く。
「レベル1じゃ、途中で死ぬかも知れないぜ?」
「本気でそう思ってる?」
「だな。…………行くか」
 頷く二人とともに歩き出す。行き先はトレシー、仲間の元だ。
「ヤバいのはあんたの頭の中よ!」
 カルーアに襟首掴まれてグワングワン揺すられ、世界が揺れている。いや、この揺れは世界振動だ。世界がブレブレになって、カルーアが、双翼調査団のメンバーが、二重に、三重になって見える。
「間に合わなかったのか?」
 マザーの方を見遣ると、首を左右に振るマザー。
「分かりません。今からできる限り修正を施します。願わくば、また皆さんに会いたいですね」
 そのマザーの言葉で、オレの意識はリアルに引き戻された。
「仲間との、別れの挨拶も無しかよ」
 オレにできるのは、椅子の背もたれにもたれ掛かることだけだった。
 その日から、マグ拳ファイターは長期のメンテナンスに入った。理由は不正データによるシステム改竄の結果、正常なゲーム運営ができなくなったから、と包み隠さない運営からの通達があった。
 これに伴い、この件に関わったとされる人物が次々と逮捕されていった。
 ファルシフィックの六人は当然のこと、彼らから不正データを買っていたプレイヤー、総勢1000人以上が逮捕送検されるという、日本ゲーム史上類を見ない大事件として、各種マスコミやネットで騒がれる事態となった。
 世間の衆目は今やマグ拳ファイターのことで連日大騒ぎとなり、RMTという実際にお金が動くゲームであったことから、誰々は何億稼いだ、という噂が、ネットではまことしやかに流れていた。
 そしてマグ拳ファイターの運営から、そのままサービス終了のお知らせが届くことになる。
 それが「伝説終了」とまた世間を騒がす事態となる。マグ拳ファイターはRMTである。ゲーム内で貯めた金はどうなるんだ!? となるプレイヤーが一部にはいたが、元々こうなった時には換金されません。と利用規約に明記されていたので、そう言ったプレイヤーは泣き寝入りするかと思ったら、チート使いたちが悪い、と1000人以上いるチート使いに集団訴訟を起こしたことで、また世間から色々と注目を浴びることになった。
 そして、マグ拳ファイターサービス終了は、新たな伝説の幕開けだった。「マグ拳ファイター2」のリリースである。
 セキュリティ面を大幅にアップし、有名になったことでスポンサーとなる企業も増えたことで、最初から全マップ開放というプレイヤーには素晴らしい仕様となって戻ってきたのだ。さらに望むのならば、マグ拳ファイターをプレイしていたプレイヤーは、「2」の一次プレイヤーとなる権利が与えられた。「2」から始めようと思ったプレイヤーより、三ヶ月も早く始められるのだ。
「ハァーーーーー」
「長いため息だな」
 オレが教室の窓に寄り掛かり、ボーッと空を眺める雲を見ていると、アキラが声を掛けてきた。
「嬉しくないのか? またマグ拳ができるんだぜ?」
「…………嬉しいよ」
「いや、全然嬉しくなさそうだな? まあ、マグ拳のサービスが終了した時に比べれば、いくらかマシになったけどな」
 そんなに落ち込んでいただろうか? いたかも知れない。オレは、オレの不甲斐なさで、世界一つを滅ぼしたのだ、と。
 何なら自殺まで考えた。冗談だけど。アキラやマヤはオレのせいではないと慰めてくれたが、オレはあの頃かなり思い詰めていたと思う。
 そこにマグ拳ファイター2のリリースの情報が流れてきた。オレは、何故かゾッとした。一つの世界が終了したというのに、それがまるで対岸の火事であったかのようで、モニターの向こうの戦争のようで、気持ち悪くて仕方なかった。
 情報が増えるにつれ、世界観はそのままらしいことは分かったが、それ以外はシークレットとされた。
 お楽しみとかどうでも良いのだ。オレはオレが今まで出会ったみんなが無事でいてくれればそれで良い。
 毎日毎日、何に対してなのか、オレは祈りを捧げていた。
 マグ拳ファイター2のサービス開始日は、奇しくもオレの誕生日だった。
 HMDを被り、またあの白い空間にやって来ると、マザーがにこりと微笑み挨拶してきた。
「こんにちは」
「…………お久しぶりです」
「ふふ、早く先に行きたくて仕方がない。そんな顔ですね」
「はあ」
「皆さんは、トレシーにいます」
 それを聞いた瞬間、全身の毛穴から歓喜の何かが迸った。
 教会を出ると、マヤと烈牙さんが待っていた。
「早いな二人とも」
「リンがいつも遅いのよ」
「まあ、良いではないか。こうしてまたマグ拳の世界に戻れたんじゃからのう」
三人とも初期装備の街人の格好だ。
「で? どうする?」
「行くに決まってるでしょ?」
 マヤの意見に烈牙も強く頷く。
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