マグ拳ファイター!!

西順

169

 さすがにマギノビオンのメンバーは全員死亡しただろう、と思いながらも、ピックポケットを回収しなければならないので、翼を広げ地上に降りたら、クレーターの真ん中で、獅子堂くんがメンバーを抱え上げて立っていた。超人っているもんだなあ。
「……凄いな」
 オレがそうゴチると、
「あんたの翼も相当よ? もしかして、双翼調査団ってメンバー全員翼が生えてるの!?」
 とカルーアから突っ込まれたから、適当に相槌を打っておいた。
「できれば全員遺跡に引き上げでやりたいところだが……」
 オレはパスで上空のメンバーと連絡を取るが、
『すまんが今戦闘中じゃ!』
 と烈牙さんとしか繋がらない。もしかして他のメンバーはやられたのか?
「悪いが、マギノビオンはここで脱落ってことで、ピックポケットを返してくれ!」
「何よそれ!?」
 オレは急いでいるのだが、カルーアの怒りを買ってしまった。だが、獅子堂くんがわりと冷静にピックポケットを差し出してくる。
「ここでリンタロウくんを倒したところで、オレたちにあの遺跡に戻る術はないからな」
「ありがとう」
 とピックポケットを受け取ろうとしたところで、それを取り上げられる。
「何人までなら連れていける?」
「ハァー、二人までだ」
 オレはカルーアと獅子堂くんを片手ずつ掴み、全速力で遺跡へと戻っていった。

 遺跡はすでに祭壇の間しか残っていなかった。そこではうちのクランメンバーと裏茶会が戦っている。
 ゲオルギオスはというと、槍を構えてドラゴンに乗り空を飛んでいた。
 とその槍がぐにゃりと伸びてオレに向かってくる。
「ちっ!」
 オレはとっさに両手の二人を祭壇の間に放り投げる。当然その分回避行動が遅れて、ゲオルギオスの槍がオレの脇腹を掠めた。
「ここにきて裏切るかよ!?」
 脇腹を押さえながら吠えるオレ。
「強者に属するのは定石だろう?」
 とゲオルギオスが勝ち誇った顔でこちらを見据える。
 そこへ烈牙さんが霹靂隼疾を肩に掲げて上段から斬り掛かる。

 キィン!

 甲高い音とともに跳ね返される烈牙さんの剣撃。
「フン。分からん爺さんだな。オレにはどんな攻撃も効かないと教えただろう?」
 なるほど、それで裏茶会は早々に見切りをつけて裏切ったのか。
「烈牙さん、裏茶会は?」
「蔵之介とカルーアが助勢してくれたのでな」
 チラリと見れば、裏茶会対双翼調査団・マギノビオン連合になっている。
「二対一なら勝てると思ったか!?」
 と伸縮自在のゲオルギオスの槍の連続攻撃。そのどれもが避けようとも必ず一発入れてくる。あの槍も多分絶対当たる、みたいなチートなのだろう。
 さらにドラゴンが紫の霧を吐いてくる。
「それは吸うな! 毒だ!」
 烈牙さんに言われて、毒霧が届かない上空まで退避する。
「何かないか? 奴も聖人になぞらえたチートを使っているのだろう?」
 その通りだ。ドラゴン退治で有名な聖ゲオルギオスは、当時のローマ皇帝に捕まり、あらゆる拷問を受けても傷一つ付かなかったと言われている。
 そんな男も、最期は斬首で死亡したと伝えられている。
 「もしかしたら、首なら攻撃が通るかもしれません」
「やってみよう」
 オレと烈牙さんはゲオルギオスの攻撃方向を定めさせないようにジグザグに飛行しながら、左右から挟撃を仕掛ける。狙うは首。

 キィン!

 しかし、首への一撃はまるで効かず、跳ね返されたところに、槍をカウンターで受けてしまった。
「そんな、誰でも分かる弱点、設定している訳ないだろ?」
 オレと烈牙さんは祭壇の間に叩き付けられた。
「大丈夫ですか二人とも?」
 カナリアが近寄ってくるのを、手で制しながらオレと烈牙さんは立ち上がる。

 チラリと裏茶会との戦いを見ていると、
「あなたたち分かっているのですか? 今、世界は無くなるかどうかの分水嶺に差し掛かっているのですよ!?」
 それを効いても裏茶会の面々はニヤニヤしている。壊れる前に逃げ切れればオーケーってところか。だったら、

 ズドン!

 オレのエネルギー波が宝箱を破壊した。全員の視線がオレに集中する。
「悪いけど、今は裏茶会(お前たち)にかかずらわっていられないんだよ」
「本気みたいですねえ」
 とシャークが恭しくこちらに一礼すると、その後ろに扉が現れた。
「では、我々はこれにて退散させていただきます」
 こうして裏茶会は扉の向こうに消えていった。
「あ、あんた何したか分かってるの!?」
 怒鳴り込んできたのはカルーアだ。
「5000億を不意にしたのよ!?」
 そうだね。でも今はそれどころじゃないんだよ。オレはカルーアを無視して空中のゲオルギオスを見遣る。
「本当に、何てことをしてくれたんだ?」
 ワナワナと震えるゲオルギオス。一矢報いたみたいで溜飲が下がるな。
「ふざけるなあ!!」
 と空から槍の連続攻撃が雨のように降ってくる。それを、マヤの城塞がかっちり防いでくれた。
 荒れ狂い槍で、ドラゴンで何度も攻撃を仕掛けてくるゲオルギオス。
「どうするの?長くは持たないわよ?」
 マヤには応えず、オレは思案に入る。
 ゲオルギオスは「そんな誰でも分かる弱点」と言っていた。これは裏を返せば弱点自体は存在する、と言うことだろう。あいつらのよく分からない聖人チートなら、弱点も聖人に倣ったものだと思ったのだが? 違ったのか? 何か見落としがあるのか? …………もしかして!
「マヤ!」
「何か分かったの?」
「スマン!」
 と言いながら、オレはマヤを後ろから斬りつけた。
 飛び散る血飛沫がオレにかかり、盾が、城塞が解除される。
「な、何を……?」
 言いながらマヤは気絶した。
「何てことするんだ! 気でも狂ったか!? そんなことしたらゲオルギオスにやられるだけだぞ!?」
 一郎がそう声を荒げるが、ゲオルギオスは襲って来ない。やっぱりか。
「聖ゲオルギオスの死の前に、ローマ皇帝の皇妃がその姿に感銘してキリスト教に改宗を臨み出た。しかし皇帝はそれを赦さず皇妃を死刑に処したそうだ。この時、死の間際の皇妃は自分が洗礼を受けておらず天国に行けないことを嘆き、ゲオルギオスはそなたの流す血こそ洗礼だ、と告げたそうだ」
 どうやら図星だったらしい。ワナワナと震えるゲオルギオス。ゲオルギオスを討ち取るのに必要だったのは、女性の血だ。後でマヤにすっげえ怒られるだろうけど、全力で謝ろう!
「と、言うことで……」
 オレは全速力でゲオルギオスに急接近すると、マヤの血に塗れたピックポケットによってその首を胴から切り離したのだった。

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