マグ拳ファイター!!

西順

167

 オレは通路を駆けていく。遺跡に仕掛けられたトラップを、体の周りに浮遊させた幾本もの剣で、振り払いながら。
 矢が降り、槍が飛び出し、炎が噴き上がり、大水が雪崩れ込み、大岩がゴロンゴロンと転がってこようとも、全て跳ね除け前進する。例えマギノビオンが襲い掛かってこようとも。ってマギノビオン!?
 まず高台から千王で斬り掛かってきたカルーアを、剣で受け止める。
「千王、直ってたんだな?」
「新しく造り直したのよ!」
 そこに獅子堂くんが突きを繰り出してくる。そこに合わせて剣を突き出すが、体を捻って避ける獅子堂くん。
 さらには魔法使いのマホロバさんやらガンカタのハーチェルに大盾使いと、トレシーの大会出場者勢揃いだな。
 そんな一団の攻撃を、無数の剣で受け、いなし、鎬ぎ、なんとか相手になるものだな。
「全く、あんたと言い、あの双剣士の男と言い、何で中々死なないのよ!」
 弓に剣にハサミにと、千王を可変させて攻撃してくるカルーア。他のマギノビオンのメンバーとの連携で、その攻撃はまさに千変万化する。
 そのせいでこちらの剣も一本また一本と潰されていく。
「誰だよその双剣士って?」
「盲目にする魔法を使う奴よ。トドメ刺しても死なないって、どうなってるの!? お陰でメンバーの殆どをやられたわ!」
 チート使いのようだが、その戦い方が気になる。
「どうしたの? 足止めて?」
 オレがいきなり思考モードに切り替わり、マギノビオンはその攻撃を止めた。今のうちにオレのトドメを刺せば良かったのに。まあ良い。
「多分、マギノビオンが遭遇したのは、ファルシフィックのパウロだ」
「ファルシフィック……!」
 反応したのは獅子堂くんとマホロバさんだ。
「もしかして、奴ら、チーターか?」
 オレは肯定の頷きを返す。

「何よそれ!?」
 オレが今回の作戦の概要にマギノビオンに説明すると、カルーアが真っ赤になって憤慨している。まあ、そうなるわな。
「殺しても死なない、なんてどうすればいいのよ!?」
「そんな場合じゃないだろ? このままじゃマグ拳自体の存続が危うい」
 カルーアを宥める獅子堂くん。
「死なないチート使いに対しては、対処法を考えてある」
 オレはピックポケットをポーチから取り出した。
「これって確か、宝箱の鍵よね?」
「こいつで斬られたチート使いは、溶けてデータの復活もできなくなるんだ」
「それは良いわね!」
 引くか? と思ったけど、マギノビオンのメンバーはノリノリだった。
「チーターなんて天誅よ!」
 どうやらマギノビオンのメンバーは個人的? にチート使いと何かあったようだ。
「一本渡しておく」
「え? 確か無双前線と裏茶会が持っていたはず……?」
 と獅子堂くん。
「無双前線は全滅した。ファルシフィックのニコラスにやられた」
「それでオレたちにお役が回ってきた訳か」
「そう言うこと」
 オレは一時マギノビオンと共同戦線を張ることにした。

 通路をしばらく進んで行くと、
「何だよ、これ!?」
 そこには床に伏し悶え苦しむ双翼調査団のメンバーと、それを睥睨する筋骨隆々の男がいた。さらに男の手にはカナリアが握られ、苦しんでいる。
「てめえ……!!」

 ドスッ!

「ぐふっ!?」
 オレが攻撃に移る前に、男の拳がオレの腹にめり込んでいた。速い。腹を押さえ膝を付いたところに、男の膝が飛んできて、顔面をかち上げられた。
 オレがやられたところでマギノビオンの面々が攻撃に移ろうとしたところを、先んじて攻撃していく男。
 速い。が烈牙さんとは違う。違和感がある。これもチートだ。
「お前、ファルシフィックか?」
「ほう? まだ声を出せるか?」
 男はニヤニヤしながら床に伏すオレを踏みつけてくる。
「ああそうだが? それがどうした?」
 オレはチラリとマギノビオンの面々を見るが、首を振っている。どうやらパウロではないようだ。となると、
「ヨハネ……か?」
 男のオレを踏む力が強くなる。
「ヨハネ様だろ?」
「ハン、チート使いが吠えるなよ」
 気に障ったのだろう。腹を蹴飛ばされた。
「もういいや。宝の鍵を持ってるから生かしておいたけど、死ね」
「先出しの権利か」
 オレのうわ言にトドメを刺そうとしたヨハネの足が止まる。
「何故分かった?」
「聖ヨハネはキリスト教においてイエスの先駆者として位置付けられている。ヨハネの名がバレた時点でお前のチート能力も見当が付くんだよ」
「ふ、そうだ。オレのチートは「絶対先手(フォーリナー)」だ。オレより先に攻撃できる者はいない。だからどうした? それを見破ったところでお前らに何ができる?」
「そうだな……。宝の鍵ならオレのポーチの中にある」
 オレが観念してピックポケットを差し出そう、と考えたのだろう。ヨハネは暗い笑みを浮かべ、オレのポーチをまさぐり、ピックポケットを取り出した。
「ふふん、ナイフ型ってのが、良いよなあ!!」
 そう言ってオレの頭にピックポケットを突き刺すヨハネ。
 が逆にオレは突き刺されたところで奴の手首を掴んで捕まえる。
「な!? 何故死なない!?」
 驚いてピックポケットを放したヨハネから、それを取り戻すと、素早くオレはヨハネに一撃与えてみせた。
「これはこうやって使うんだよ」
 そうしてヨハネは溶けて消えていった。

「どうなってんの?」
 不死鳥であるカナリアが、自死の炎でオレたちを回復してくれてすぐ、カルーアが詰め寄ってくる。
「言ったろ? ピックポケットは対チート使い用だって。チート使ってないやつには効かないんだよ」
「なるほど」
 納得してくれたようだ。カナリアの方は気にならないんだな?
 これでファルシフィックも三人倒した。後三人。

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