マグ拳ファイター!!

西順

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 ガゴンッ ……ゴンゴンゴンゴンゴン……

 バトルロイヤル開始と同時に地が揺れ、オレたち以外のクランの面々が慌て出す。
 その内の一人が外へ確認しに行くと、遺跡が宙に浮いている、との報告。これももちろんチーターホイホイの仕掛けの一つ。中に入った者を外に出さないためである。
「大丈夫だよ。宝箱が開けば自然と元に戻る仕掛けだから」
 ニヤニヤしながらオレが言ったのが癪に障ったのだろうか? 何だかこちらを見る目がキツい。
「ああそうだな。まずはお前らに餌食になってもらおうか!」
 四クランが一斉に魔法を放ってくる。
 雷が迸り、炎が躍り狂い、竜巻が全てを巻き上げる。水流は龍の如く迫り、地面から岩の槍がそそり立つ。そんな天災の奔流のようなものがオレたちへと向かってきた。
 だがオレたちが動じることはない。マヤがその大盾を展開し、全てから護ってくれると分かってるいたからだ。
「新しい盾、調子良さそうだな」
 武闘大会後、修練場の師匠からマヤはミスリル銀の大盾をもらっていた。薄く紫掛かった銀の大盾は、薔薇の意匠が彫られている美しいものだ。
「ふふん。耐久力も以前のものの数倍は硬いわね!」
 とマヤ。天災の奔流を大盾一つで防がれた四クランを待っていたものは、ブルースを初め、五人の天使が手に持つガトリング銃による一斉掃射だ。

 ダダダダダダダダダダ……!!

 5、60人はいただろう眼前の敵は、見るも無惨な蜂の巣になって倒れた。
「いきなり一斉掃射って、皆容赦ないなあ」
 とオレはブルースの肩に手を置き労うが、皆の視線は倒れた敵から外れない。
「どうかしたのか?」
「どうか、も何もこれからだ」
 とブルース。どういうこと? と思っていると、まるでゾンビのように起き上がるプレイヤーたち。
「何あれ?」
「トップクランを語るような連中は、十中八九チートを使ってるってことだ」
 一回じゃ死なないのか。だがダメージは負ったらしく、皆ポーションで回復している。
「全く、愚か者の考えは、理解に苦しみますね。苦痛が増すだけだというのに」
 そう言ってマザーが両手を前に突き出すと、

 ボオオオオッッ!!

 と祭壇の間が青い炎に包まれる。青い炎は赤い炎より高温だ。大体500℃は赤い炎より熱い。それがマザーの怒りの炎なのだろう。
 生きたまま焼かれると人は炎の中で踊るというが、見たくなかった光景だ。
 オレはこれ以上は惨すぎると思ってマザーの手をスッと下ろした。
 炎が消えてそれでも立ち上がろうとするプレイヤーたち。何が彼らをそこまで駆り立てるのだろうか? マザーではないが理解に苦しむ。
 またもポーションで回復しようとするが、今度は動けなかった。オレが重力魔法(テレキネシス)でその場に固定したからだ。
 さて、ここからはオレの仕事だな。動けなくなったプレイヤー一人一人に、オレはナイフを突き立てていく。一人一人、心臓に、ズブリズブリと。そして体が溶けていくプレイヤーたち。
 いやぁ、60人は大変でした。
 すっきりした顔で戻ってくると、お前が一番酷いと言われた。解せぬ。

「トップクランと言ってもピンキリだ。今みたいな雑魚はもういないと思った方がいい」
 場所を祭壇の間から移し、オレたちは遺跡探索に出向いていた。
 実際遺跡には各所にお宝が配置されている。必要ないと思うのだが、運営もマザーも変なところで凝り性だ。なので、

 ガゴンッ

 オレは床の装置を起動させてしまい、大鎌が天井から堕ちてくる。
 それを真っ二つにしてみせたのは烈牙さんだ。
 烈牙さんは武闘大会優勝の褒賞としてトレシーの領主ジャズ氏から太刀を賜っていた。その名も「霹靂隼疾(へきれきはやと)」と言う。その刀身に雷と風を常に纏っている神速の烈牙さんにぴったりの太刀だ。
「な、なんかすんません」
 オレが助けてもらった礼をいっていると、
「プッ、クククククククッ、だっさ。自分たちのテリトリーで罠にかかるとかあり得なーい」
 と言う声が聞こえてくる。
 声の方を見れば、オレたちより一段高い場所から、甲冑を纏い、腰に剣を提げた弛くウェーブした金髪の女がこちらを見下していた。確かあいつは、ファルシフィックの一人だったはずだ。
「悪かったね。こちらもこの遺跡は初見でね」
「ふーん。そんなところで、こんな大会を開催ねえ。ゲオルギオスは何かある、って言ってたけど、ただのお馬鹿さんみたいね」
 余計なお世話だよ。
「まあ、私たちと遭遇したのが運の尽きだと観念するのね」
 私たち? 一人しかいないけど? オレたちが怪訝な顔で見ているのがよほど面白いのか、ニヤニヤ顔の女は、
「こう言うことよ!」
 と剣を床に突き立てる。すると剣から魔法陣が広がり、そこから甲冑を身に付けた騎士や兵士がゾロゾロと現れる。
「私はジャンヌ。さっさと私たちに殺されなさい」

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