マグ拳ファイター!!

西順

163

「レディース&ジェントルメン」
 ジャングルの最奥にある遺跡の祭壇で、謎の照明に照らされたシャークが、MCをやっている。字面だけだと意味不明で笑える。
 この遺跡はつい最近発見された、と言う体でマザーと運営によって人工的? に造られた遺跡。その名も、チーターホイホイだ。
 この遺跡は、オレたちのクラン、双翼調査団が土地の権利を所有しているので、勝手に探検ができない、と言う設定になっている。
 どんなお宝があるのか、喉から手が出るほど欲しいだろう最前線のクランへ、オレから招待状を送り付けた。
 内容は全財産を賭けた、クラン対抗のバトルロイヤル。場所はここ、チーターホイホイ。
 そして集まったのがオレたち双翼調査団、アキラたち無双前線、シャークたちの裏茶会、何故かカルーアたちマギノビオン、その他諸々のクランに、お目当てのファルシフィックの面々。
「それでは、全財産総取りの、バトルロイヤルを開催したいと思います。では最初はマギノビオンの方からお願いします」
 恙無く司会進行を送るシャーク。シャークに名指しされたマギノビオンのカルーアは、重い金袋を持って祭壇に上がると、そこに用意されていた宝箱に金袋を入れた。
 すると、何故か宝箱に付いている電光掲示板に、金袋の中身の金額が表示された。
「おっと、いきなり億越え! 2億3千万ビットです!」
 会場となった祭壇の間から「おお~!!」と声が漏れる。
「続いて無双前線」
 星剣☆燎さんが金袋を宝箱に納める。
「1億7500万ビット!」
 そうしてどんどんと一億越えの金袋が宝箱に納められていく。
「裏茶会、150億2千万ビット」
 裏茶会の提供した金額にどよめきが起こる。しかし裏茶会的にはどうということもないかのように、皆澄まし顔だ。
 がその後のクランによって、さらに会場はどよめいた。
「ファルシフィック、320億1千万ビット」
 ざわめく会場。それを祭壇の上から気持ち良さそうに睥睨(へいげい)するのが、ブルースの資料にあったゲオルギオスだろう。
 肩まである紫の長髪の、一見すると優男といった印象だが、その人を見下した顔が内心を物語っていて残念である。
「では最後に、この素晴らしきパーティーの主催者、双翼調査団にも財産を納めていただきましょう」
 オレがゲオルギオスと入れ替わりで、祭壇へ。何だかゲオルギオスの視線が見下したものなのは気のせいだろうか。
 いや、オレが祭壇に上ると、「双翼調査団なんて聞いたことないぜ」とか、「ファルシフィックの後とか可哀想」 など、何だか会場から憐れみの視線を向けられているんですけど?
 それに構わすオレはお金の入った金袋を宝箱に納めた。
「え~、…………5020億8200万ビット!?」
 ふふふ、会場中の時を止めてやったぜ! はっきり言ってオレらの資産はそれまでのクラン全てを合わせたものより多い。
 オレは他のクランから遠巻きにあり得ないものを見るような目で見られながら、祭壇を降りていく。途中でゲオルギオスにニヤリとほくそ笑むのも忘れずに。
「リン、どんだけあこぎなことやったら、そんなに金額になるんだよ?」
「普通だよ。これでもトレシーにデカい宿屋建設してるから、資産としたら半分だ」
 オレのこの発言に、会場の時がまたもや止まる。
  オレを見て固まったままのプレイヤーたちに、オレは笑みを湛えたまま語る。
「ふふ。欲しいか? オレを殺せば、その金がお前らのものになるかもしれないぞ?」
 沸騰する祭壇の間。天へ吠え、地を踏み鳴らすプレイヤーを、シャークの言葉が制する。
「それでは、この宝箱に鍵を掛けます。不正はしないでくださいね。宝箱を壊すと、中身が溶けて消えてしまう仕様なので」
 会場に笑いが起こる。
「開けるには、特殊なナイフ「ピックポケット」が三つ必要です。それは主催者である双翼調査団と、我々裏茶会、そして無双前線が持っています」
 オレはピックポケットがどんなものか皆に分かるように掲げて見せる。プレイヤーの熱視線を感じながら、オレはピックポケットを懐にしまった。
「それでは皆様、各々何をすべきか理解しましたね? パーティー開始は10分後です」
 シャークはそう言うと、スッと闇に消えていった。見回せば、裏茶会の面々はすでに誰一人いない。
 無双前線のメンバーは全速力で祭壇の間を後にした。それを追ういくつかのクラン。
 マギノビオンもどこかへ行った。ファルシフィックも祭壇の間を後にした。残ったのはオレたち双翼調査団と、四つのクランだ。
「ブルースもマーチも来なくて良かったんだぜ?」
 オレの言葉を鼻で笑う二人。
「こんな面白いこと、オレたち抜きでやらせるかよ」
 NPCは死んだら終わりだっていうのに、豪気というか無謀というか。
「んで、あなたもそんな感じですか?」
 オレの横に立つのは、いつもの白いワンピースではなく、黒いワンピースに、変な仮面を付けたマザーだ。
「ふふ。確かに楽しそうな催しではありますけど、それよりも私、腸煮え繰り返っているんですよ? チート使いの皆さんには、是非とも心胆寒からしめる思いを、私自らの手で下したく思っていますの」
 なかなかに言っていることがエグい。まあ、チート使いをのさばらせるのは、自らの存在寿命に関わってくるから本気にもなるか。
「で、天使たちも?」
「フッ、マザーに刃を突き立てたこと、存分に後悔させてやる」
 そうですか。そう言って天使たちはマザーを囲うような陣形を取る。
「大丈夫ですよ、私がいますから。誰一人死なせません!」
 とはカナリアだ。頼りにしてます。
 さて、そろそろ10分経つかな。

「マグ拳ファイター!!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く