マグ拳ファイター!!

西順

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 ブックマンに呼び出されたのは、高級中華料理店の個室だった。
 濃いネイビーのスーツを着た、短髪眼鏡の男が、個室に入るとオレたちを待っていた。
「初めまして、が良いですかね?」
「そういうのは良いんじゃない?」
 オレのマヤは中華料理店独特の丸テーブルで、ブックマンの対面に座った。
「今回はありがとうございました」
 オレたちが席に着くなりまずは礼から。
「リンタロウくんのおかげで100人を超す不正者を炙り出すことに成功しました。皆警察に通報済みです」
「そんなにいたの!?」
 マヤが驚いていた。
「これでも普通のゲームに比べたら少ない方なんですよ。パラメータの不正上昇から始まり、アイテムやビットの不正授受、シナリオデータを読み出しや、ワンアクションスキル何てものまでありました」
「ワンアクションスキル?」
 オレは聞きなれない言葉に首を傾げていた。
「決まった動作をすることで、魔力を使わすスキルや魔法が発動するように細工していたんです」
 へえ~、なんともご苦労なことだ。
「でも、全員を捕まえきれた訳じゃないんでしょ?」
「そうなの?」
 何も分かっていないマヤは、オレとブックマンを交互に見るが、ブックマンの方は項垂れている。
「ええ、そうなんです。今回捕まったのは不正ツールを買った者と売った者の一部で、肝心の造った者が捕まえられませんでした」
「ってことはまた不正が行われる可能性があるわけか」
「ええ」
「その不正ツールって、どこで取引されてたの?」
 と尋ねると、
「ネット上で取引されているかと我々も思っていたのですが、どうやら奴らはマグ拳内で目ぼしい者に直接声を掛け、リアルで直接会って不正ツールを受け渡していたようです」
「なるほど。それだとネット警察の網には引っ掛からないか」
「はい」
 オレは腕を組んでしばし黙考する。マヤはその間に注文を頼んでいた。
「リン、どうする?」
「オレ、チャーハンと黒酢豚」

 テーブルにドンッと並べられる中華料理から、チャーハンを掬い取って一口口に入れれば、ホロホロほどける絶妙のパラパラ感に、噛めば噛むほど味が出る旨味。高級中華恐るべし。
「アダマスの方はどうなの?」
 オレは酢豚を頬張りながら尋ねる。
「無双前線ともう一つのクラン、裏茶会というクランが善戦していますが、やはり、良いアイテムは根こそぎチーターたちが持っていってしまうようです」
 ふむ。裏茶会ってクラン名だったのか。でもあいつらが本気になったら、チーター何て数にならないと思うんだけどなあ。この二つのクランとは、もう一度接触してみるべきかもな。
「ログからはたどれないんだよね?」
「はい。それらしき人物のログはたどりましたが、不正は見つけられないようにしています。今回ガンドールが捕まったのも、自宅に不正ツールがあったからで、ログには何もおかしなところはありませんでした」
「つまり不正ツールを使った後、証拠が残らないようにログを書き換えるツールも使われているのか」
「はい」
 めんどくさいなあ。
「ゲーム内で目視すれば、不正ツールを使ってる何て、すぐに分かるんだけどなあ」
「そうなのですか?」
「…………なあ、こんなことを試す訳にはいかないかな?」


「…………マザーの許可が要ります。それは確かに有効かも知れませんが、下手をするとマグ拳の世界が崩壊しかねません」
 頭を抱えるブックマン。だがその有用性は分かっているのだろう。本社に戻って、マザーを交えて相談してくれることになった。
 
 マヤを実家へ帰す道すがら、
「やると思う?」
 とマヤ。
 「どうだかな。オレの頭をじゃこれ以上のことは考えられん。やるかやらないかは運営次第だよ」
 上を見上げれば、すっかり夜となり、夜桜が綺麗だった。

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