マグ拳ファイター!!

西順

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 陽光が川の水面に反射してキラキラ光っている。
 三月の快晴の中、オレは桜並木の道を走っていた。
 マーチに修行をつけられるようになってからというもの、リアルでのランニングとストレッチは日課になっていた。
 桜並木の道を抜けた交差点で、信号待ちをしていると、向かいにマヤの姿が見える。オレと同じように七分袖のランニングウェアだ。
 オレたちは信号が青になると、どちらからともなく合流し、リアルの街を駆け抜けていく。

「ぷはー」
 自販機で買ったスポドリを一気に半分ほど飲み干したマヤは、公園の背もたれ付きのベンチで空を見上げていた。空は雲一つない晴天だ。
「ねぇ、何が足りなかったのかなあ」
 空を見上げたまま、ボソリとマヤが愚痴る。オレもマヤの横に座り空を見上げる。
「何もかもだろ。でもやってきたことに間違いがあったとは思ってない。オレは烈牙さんと修行してたから、一番近くで見てたから分かる。あの人は何より自分に厳しく勤勉だったよ」
「それだけかなぁ?」
 それだけじゃない、と? そう言われ、烈牙さんのことを思い出す。烈牙さんと言えば、…………サムライ王キバ伝だよなあ。そしてマヤと言えば、
「何よ、こっち見て。私の顔に何か付いてる?」
「そうじゃねえよ。多分だけど、マヤもそうだけどさあ、烈牙さんとかマヤって、ロールプレイヤーじゃん?」
「そうね」
「オレとは違って、明確な目標があるっていうか、完成形がハッキリしていると思うんだよ。完成形がハッキリすれば、そこに近付く努力にも身が入る。その努力も、あのキャラはあれができるんだから、あれをすれば良い、これをすれば良い。って寄り道をせずに一直線にその山を登っていける。これは、どうなりたいのかいまだに良く分かってないオレでは、到達できない場所だと思うんだよなあ」
 オレの意見を聞いて、マヤは腕を組んで考え込んだ。
「それって、私より烈牙さんの方が、ロールプレイとしてキャラを作り込んでるってこと? いや、確かにかなりのなりきりっぷりよねえ。そういう人の方がマグ拳では強いってことなのかしら?」
「どうかなあ? オレらNPCと接触してばっかりで、他のプレイヤーとはあまり接触してないからなあ」
「確かに」
 と答えの出ない禅問答に二人で頭を悩ませたところでどうしようもない。
「うち着てサムキバ観てみるか?」
「良いわね。ついでと言ってはなんだけど、ホワイトナイトも見ましょう!」
 こうしてオレたちは貴重な春休みを、サムキバとホワイトナイトで潰したのだった。

「うええ、もう、何か腹一杯だあ」
「私も〜」
 アニメや映画の一気観は、体はどっと疲れるのに、脳が興奮してなんだか自律神経がおかしくなって困る。
「サムキバやばかったなあ」
「分かる」
「最終回のさあ、覇道 暗黒斎(はどう あんこくさい)との死闘……」
「あれはやばかったね」
「暗黒斎の攻撃を、倒されていった仲間の技を空牙が次々と出していくことで防ぎ、最後は全ての技を合体させた、超必殺技だもんなあ」
「思わずモニターに向かって叫んでいたわ」
「そして、烈牙さんが真似をしていた熱波 烈牙だよ」
「超やばい」
「生まれたばかりの空牙を暗黒斎の目から隠すためにわざと暗黒斎の軍門に下り、ことあるごとに空牙たちの前に立ちはだかるけど、それは実は空牙たちを成長させるためだった、という泣ける展開」
「最終回直前回での空牙対烈牙の死闘、やばすぎでしょ!?」
「分かる。あれで烈牙から空牙に最終奥義が伝授されなかったら、最終回は勝てなかったからな」
「さらに敵ボスの暗黒斎。国を思う気持ちの暴走がああさせたのは悲劇よねえ」
「暗黒斎と光明(こうめい)の親子対決は涙が止まらなかった」
「分かる」
「くう~、もういくらでも語れる気がする」
「ちょっと、ホワイトナイトのことも忘れないでよ?」
「ホワイトナイト、オレ、過去編好き」
「分かる。ヴィクトリアも最初から完璧じゃなかったのよね」
「カインは何だろうか、ちょっとイライラしたんだけど」
「同族嫌悪じゃないの?」
「オレ、あんなんか?」
 物凄く強く頷かれてしまった。オレの印象ではヴィクトリアの相棒のカインは、いつもヴィクトリアの周りをうろちょろしていて、戦闘でも漁夫の利を取っている感じなのだ。あ、似てるかも。もう少し自分から良くなる方へ行動するべきだろうか?
 と話が尽きない中、オレの端末にメールがきた。
「誰?」
「ブックマン。ガンドールから芋づる式に結構な人数捕まったみたい。オレも一応関わってるし、これから詳しい話できないかって」
「私も行って良い?」
「良いんじゃね?」
 ブックマンにその旨をメールで返信し、オレたちは指定された場所に向かった。

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