マグ拳ファイター!!

西順

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「ブックマンか?」
『どうかしましたか?』
 試合後すぐ控え室に引っ込んだオレは、アダマスにいるブックマンにパスで連絡を入れる。
「こっちにチート使いが出た」
『そっちにもですか!?』
 声だけだが相当驚いているのが分かる。突発的な事態に対応しきれないのは相変わらずらしい。
「ガンドールって言う大剣使いだ」
『ガンドール……』
「アダマスのことを口にしたら、どうもそっちと繋がりがあるような雰囲気出してたよ。どうせ、そっちは進展してないんだろ? ここから首魁にたどり着けるかも知れないぞ?」
『ふぐっ、とりあえず、会社には連絡しておきます。警察に突き出す前に、できるだけ情報が引き出せればいいんですけど』
ここから先はマグ拳の運営に任せるしかないな。
『貴重な情報、ありがとうございました』
「たまたまだし、いいよ」
 パスでの通話はそこで切れ、オレは控え室から舞台袖まで移動する。
「ブックマン何だって?」
 オレの顔を見るなりマヤがそう聞いてくる。どうやらマヤもガンドールのおかしさに気付いていたようだ。
「上に連絡してくれるとさ」
「これで奴の悪事もここまでのようじゃな」
 とは烈牙さん。
「一網打尽といかないのが焦れったいですけどね」
 これには二人とも大きく頷いてくれた。
「何の話?」
 そこにカルーアが割り込んでくる。
「真っ当なプレイヤーには関係のない話だよ」
 オレの説明では納得できないのだろう、マヤや烈牙さんの方を見るが、答えてはくれない。
「それよりも、もうすぐ獅子堂くんの試合じゃぞ?」
 とカルーアの気を舞台へ向ける。舞台ではさっきの闘いで壊れた石畳の補修が終わり、獅子堂くんとハーチェルが向かい合っている。
 茶髪のポニーテールが良く似合うハーチェルは、その両手にブルースが扱うような拳銃(オートマチック)を握った女性ガンマンだ。
 ガンマンと言うと語弊があるか。スタイルとしては映画などで披露されるガンカタが当て嵌まる。
 元来、銃は鈍器に向かない。何故なら一発それで叩けば、中の機構に狂いが生じ、簡単に照準が狂って銃本来の命中精度が落ちるからだ。
 だがマグ拳の世界では銃は近接武器として成立する。何故なら魔法があるからだ。バフが使えるだけで銃の強度は何倍何十倍にも跳ね上げられる。例え銃身が曲がり照準が狂ったとしても、エフェクトで銃を柔らかくして簡単にクイッと直せるのだ。だから案外銃を鈍器にする者は、プレイヤー、NPC問わず少なくない。
 ハーチェルも、予選を見た感じプレイヤーとして一流なのが分かるが、相手は獅子堂くんだ。銃対拳なら普通は銃が優るが、あの烈牙さんと拳で引き分けたって話が本当なら、勝てなさそう。
「リンタロウ殿は、ワシを「神速」と評してくれたが、ならばワシの獅子堂くんに対する評価は、「神拳」じゃな」
 ほう、それほどまでか。

 開始の銅鑼が鳴らされる。
 するとハーチェルはポーチから連なる薬莢を取り出す。ブルースが銃を撃つときに使う無限薬莢。あれは相当バールド族と懇意にしてないと造ってもらえないはず。予選では使っていなかったから、本選での隠し玉か。
 ハーチェルはそれを自身の拳銃にセットすると、容赦なく獅子堂くん目掛けて撃ち始めた。
 それを一足飛びで横にかわす獅子堂くん。狙いを外れた弾丸が客席目掛けて飛んでいく。がそれは客席に張られた防御結界によって弾かれる。さらに弾かれた弾丸が、獅子堂くんに迫る。これも余裕でかわす獅子堂くんだが、そこにハーチェルが追撃の弾丸をお見舞いする。しかも避けた弾丸も跳弾してまた獅子堂くんの元へ。

 ダダダダダダンッ……!!

 撃ち込まれた弾丸は、しかし獅子堂くんを傷付けることは叶わなかった。
 獅子堂くんがギュッと握られた手を開くと、そこには多数の弾丸が握られていた。あの一瞬で音速を超える弾丸を全て握り込むとか、人間業じゃねえ! ああ、獅子堂くんも烈牙さんと同列の化物か。会場は盛り上がっているが、オレは冷や汗が止まらない。

 試合は長期戦となった。跳弾を使い、四方八方、360度、全方向から弾丸を撃ち込まれては、さすがの獅子堂くんも防御に徹するしかなかった。
 しかし哀しいかなハーチェルの弾丸は鋼鉄をも凌ぎ音速を超える獅子堂くんの手技足技によって、弾かれ、流され、避けられ、握り潰される。
 弾丸は充分に用意されているのだろう。弾切れは起こさなそうだが、ハーチェルの顔には焦りがあった。獅子堂くんがジリジリと牛の歩みよりも遅く、迫ってきているからだ。
 ならば、とハーチェルは一部戦法を変える作戦に出た。跳弾に近接格闘を組み合わせてきたのだ。それに受けて立つ獅子堂くん。
 雨あられもかくや、と言うほどの弾丸密集空間で、獅子堂くんとハーチェルは、まるで二人で踊っているかのように互いに攻撃を休めない。
 突き、蹴り、手刀、足刀、肘、膝、頭、肩、あらゆる身体部位を使って互いを攻撃し合う二人。しかもそれが弾丸の雨の中で行われていると言うのに、いまだに決定打が出ない。そしてさらにヒートアップする会場。と、
「はああああああッッ!!」
 獅子堂くんの気合いの咆哮。いや、それに類する何かだ。その絶叫はまるですぐ目の前に雷が落ちたかのように空気を震わせ、その振動によってなんと弾丸を全て叩き落としたのだ。
「う、そだろ?」
 思わずそんな声を漏らしていた。それは舞台上のハーチェルも同じ、いやそれ以上に感じていたのだろう。呆然と立ち尽くし、動くことができない。そこに、
「せいやあッ!!」
 獅子堂くんの渾身の正拳突きがハーチェルを捕らえる。
 
 ボンッ!

 獅子堂くんの正拳突きが決まったかと思ったら、ハーチェルが爆散した。そして二つに割れる舞台。ハーチェルが爆散した地点を中心に、バカリと10メートルは割れた。
「な、なんじゃありゃあ……!?」
「ふふん。驚いたかしら? あれがくらっちの必殺技、「ただの正拳突き」よ!」
 どこが、「ただの正拳突き」やねん! 相手爆散してるんだぞ!?
 疑わしいものを見る目で、カルーアと烈牙さん、獅子堂くんを順番に見ていると、烈牙さんが、
「本当じゃよ。何でも、山に向かってひたすら正拳突きの稽古を続けた結果、あのような至高の傑物が出来上がったそうじゃ」
 舞台から帰って来た獅子堂くんは、驚愕で何も語れずただ異様なる偉容を見るオレを、首を傾げて不思議そうにしていた。

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