マグ拳ファイター!!

西順

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 主様の引き起こした地震によって、街は多大な被害を被ったと言うのに、トレシーでは当然のように武闘大会が開かれた。いや、復興の意味を込めて、むしろ規模が大きくなった気がする。
 そんな過去例の無い大大会でオレは何をしているのかと言えば、肉を売っている。
 先の大会でもそうだったように、何故かオレは当然のようにオペラ商会の供する屋台で、自分が考案した塩胡椒を振った、鹿やら猪やら兎やらの肉を売っていた。オレ、出場者なのに。
「別にいいんじゃない? 予選の予選は免除だし」
 とはオレと同じく店の前で大道芸を披露しているマーチだ。
 オレとマヤは先の大会で優勝、準優勝をしていたので、大会本部から予選の予選を免除されていた。
 なのでオレたちクランメンバー勢揃いで肉売りに精を出している。
「これはこれで中々楽しいのう」
 とはガマの油売りみたいに、太刀で紙切りパフォーマンスをしている烈牙さんだ。
「いや、烈牙さん予選あるでしょ!?」
 あまりにも普通に大道芸してたから、スルーするところだったよ。
 オレたちはオペラ商会の人にその場を任せ、大会会場に駆け込んだ。

「せ、セーフ……!」
 ギリギリで烈牙さんを送り出すことに成功したオレたちは、そのまま烈牙さんの予選の予選を観戦したのだが、結果から言えば、200人ほどがひしめき合うバトルロイヤルで、一撃だった。比喩ではない。居合で横一文字に一閃したと思ったら、200人が斬り裂かれた装備を残して消えたのだ。
「あの人さ、絶対ディメンション系の魔法使えるだろ? でなきゃこの現象は説明できないぞ?」
「私もそう思う」
 とオレの言に、マーチだけでなくクランメンバー全員同意してくれた。
「さすがはじいじね!」
 と舞台から降りてくる烈牙さんに、オレたちより先に声を掛ける者がいた。カルーアだ。
「なんだ、予選の予選で敗けたカルーアさんじゃないですか?」
「敗けてないわよ!」
 冗談なのにひどく怒られた。
「やっぱりじいじは私たちのクラン「マギノビオン」に入るべきよ!」
 まだ言ってるよこの人。後ろのクランメンバーが苦笑しているが、目が笑っていないので、チャンスがあれば引き込もうと画策しているのかも知れない。
「そうかのう? 屋台で肉を売っておるのも面白いがのう」
「いや、ホントに何やってるの?」
 それについてはなんかごめんなさい。
「まあいいわ。本選ではリンタロウ! あなたに吠え面かかせてあげるからね!」
 とビシッと指差されてしまった。
「その前に予選があるし、他人を指差すのは礼儀としてどうかと思うぞ」
「ぐっ、予選なんて通れて当然なのよ! 私たちプロなのよ? このゲームに人生掛けてるんだから!」
 人生掛けてるものをゲームと呼ぶのだろうか? あれか、ゲーム理論でも研究してるのか? 囚人のジレンマでも起こしてるのか?
「何よ?」
「別に」
 獅子堂くん、こんなじゃじゃ馬の制御、ご苦労様です。と一同で頭を下げておく。
「だから何なのよ?」

「ぶっちゃけた話、獅子堂くんが強いのは聞いてますけど、カルーアはどうなんですか?」
 あれから数日、予選の日がやって来た。
 舞台にはカルーアの他、30名ほどの選手が上がっている。
「強い。彼女が持つ奇剣「千王(タウゼントケーニヒ)」は、扱いの難しい武器だが、カルーアはそれをまるで手足のように扱ってみせる。性格は猪突猛進じゃが、戦い方は技巧派なんじゃよ」
「へえ。にしては何か苦虫噛み潰したような顔してますけど?」
 あれほどやる気満々だったのに、今は乗り気じゃないって顔だ。
「それは同じクランメンバーが舞台にいるからだよ」
 と話に入ってきたのは獅子堂くんだ。
「なるほど。本選枠を仲間同士で取り合うことになるとは、不運だねえ」
 ま、それも含めて、どんな戦い方をするのか見せてもらいましょうか。

 銅鑼が鳴ると同時に背負った大剣を抜き放つカルーア。その見た目は柄が二つあることもあって、大きなハサミのようだ。
 その大剣で襲い掛かってきた片手剣の戦士を頭から一刀両断するカルーア。
 しかしカルーアは有力選手と目されているのか、一息吐く暇もなく、四方八方から選手が押し寄せてくる。と、
「なんだありゃ!?」
 思わず声を上げていた。何せカルーアの大剣が二つに別れたからである。柄と柄がワイヤーで繋がれた双剣と化した千王を舞うように操り近付く敵を薙ぎ払っていくカルーア。
 そこに遠距離の炎魔法が飛び込んでくる。それをサッとかわしたかと思うと、カルーアの手には弓が握られていた。あの一瞬で双剣はワイヤーのピンと張られた弓へと変貌していたのだ。
 ポーチから矢を取り出し素早く炎使いを討ち取るカルーア。なるほど、確かにやるなあ。
 その後も大剣、双剣、弓を巧みに使い分け、カルーアは戦いを有利に進めていく。そして残ったのはマヤのような大盾使いの男とカルーアであった。
「彼も同じクランのメンバーです」
 と獅子堂くんが言っていた通り、大盾使いは大剣、双剣、弓のどれにも対応し、その大きな盾で防いでみせる。きっと普段から戦い慣れているのだろう。だが、ハンマーのような近接武器しか持たない彼が、カルーアに近付こうとしないのが気になった。
 戦いは膠着状態が続き、観客席からヤジが飛ぶ。
 先に動いたのはカルーアだった。大盾で弾かれるのもものともせず、大盾使いに接近する。それをいやがり盾でハンマーで遠ざけようとする大盾使い。だが体が小さいのもあって的が絞りにくいらしく、接近を許してしまった。
 そこでカルーアが出したのは、千王の新たな姿、大バサミである。
 大きなハサミを敵に押し当てたカルーアはその頑丈な大盾ごと相手をジョキンと真っ二つにしてしまったのだった。
「強いな」
 それは誰に向けて言った訳でもなかったが、その場の全員が頷いていた。

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