マグ拳ファイター!!

西順

149

「じいじ!」
 仮住まいでだらーんとしていると、突然見物客からそんな声が飛んでくる。
 現在、新たな湖岸の宿屋を建設中。そのあまりに大規模な工事に、見物客が現れ、その見物客目当ての屋台が現れ、湖岸は祭りのような賑わいになっていた。
 そして、いち早く一郎が建てた仮住まいで生活しているオレたちは、良いデモンストレーターと言った感じらしい。建設中のところには、オペラ商会の音符印がデカデカと掲げられているので、あんな家を建てたい、という注文が、オペラ商会にはひっきりなしにやってくるらしい。
 そんな暮らしにも慣れてきた一週間目、柄が二つある変わった大剣を背負った、ピンク髪を耳の上でツインテールにした小柄な少女が、建設中と書かれた柵を乗り越えてこちらへやってくる。
「じいじ!」
「おお、カルーアではないか!」
 烈牙さんをジジイ呼ばわりして抱きつく少女。
「へえ、烈牙さんってお孫さんと一緒にプレイしてたんですね」
 だとしたらオレたちのクランに入れてしまったのは間違いだったかも知れない。そう思っていると、
「あんたバカじゃないの? ロールプレイに決まっているでしょ?」
 とカルーアと呼ばれた少女にお叱りを受けてしまった。ふむ。実際に血縁関係がある訳じゃないなら問題ないか。と思っているのに、少女はまだこちらを睨んでいる。
「カルーア、そう言う態度は良くない、といつも言っているでしょう?」
 と次に現れたのは、フード付きの迷彩色のローブに、黒い目隠しをした男だ。目隠しをしていると言うのに、柵をヒョイっと飛び越えるので、生活するのに問題ないのだろう。
「すみません烈牙さん。カルーアのやつ、この街で烈牙さんらしき人を見掛けたって情報が入ってもんで、ここまですっ飛んできたんですよ」
 熱烈なファンだろうか? まあ、あれだけ強ければファンの一人や二人、付いていても不思議じゃないな。
「じいじ、私たちクラン作ったのよ! 入ってくれるわよね?」
 と少女は溌剌とした笑顔で烈牙さんを勧誘する。が、それを聞いた烈牙さんの顔は曇ったものになる。
「すまんのうカルーア。じいじはもうクランに入ってしもうたのじゃよ」
「な!?」
 それがあまりにショックだったのか、膝から崩れ落ちる少女カルーア。と思ったらキッとオレの方を睨んでくる。
「じいじと一緒ににいるってことは、あんたのクランに入ったのよね?」
「まあ、そうですね」
 ゆらり、と立ち上がるカルーア。
「あんた、名前は?」
「リンタロウ」
「そう、リンタロウ! 私と勝負しなさい!」
「嫌です」
「いい? 勝負方法は、武闘大会でどちらがより上位に食い込めるかよ! どうせあなたも武闘大会に~~って、ええ!? 勝負しないの!?」
 そんなに驚かなくても。
「あんたたち武闘大会に出るんじゃないの!?」
「出ますけど?」
「じゃあ、勝負でしょ?」
「何で?」
 オレは自分の考え方がおかしいのか、クランメンバーを見回すが、皆不思議そうに首を捻っているので、オレがおかしい訳ではなさそうだ。
「すみません、こいつバトルバカなんです。何でもかんでもバトルすれば解決できると思ってるんですよ」
 え? あり得ないでしょ? 武力なんて解決手段として最下位だよね? 普通交渉とか搦め手から始めるんしゃないの?
「ご苦労お察しします」
 目隠し男に頭を下げる。
「むっきー! 私を無視するな! とにかく、私の中では決定事項なの! 誰の反論も受け付けないの!」
 うわあ、面倒臭い人だあ。オレはもう一度目隠し男に頭を下げる。
「大体、こんなNPCばかりのクラン、程度が知れるってものよ! じいじはもっとランクの高いクランにいるべきなのよ!」
 あ!? 今なんつった? カルーアの暴言に、うちのクランメンバーの怒りが一気に臨界点を越える。それは烈牙さんも同じである。
 そんなことにも気付かずカルーアは、
「うちのクランはねえ、皆最前線のトッププロプレイヤーで構成されてるのよ!」
 と自身のクランがいかに素晴らしいか朗々と語っているが、はっきり言って耳に入ってこない。目隠し男が「すみませんすみません」と謝っているが、もう遅い。
「何度でも言うわよ! じいじはこんなの名もない弱小クランで燻ってる人じゃないのよ! 最強である私のクランでこそ輝くの!」
 そう言ったカルーアの首を落としたのは烈牙さんだった。カルーアはその溌剌とした笑顔のまま、ゲームオーバーとなり、装備品をその場に残して消え去った。
「本当、すみません! バカなんです! あいつただのバカなんです!」
 と目隠し男はカルーアの装備品をかき集め、自身のポーチに仕舞う。バカにもほどがあるだろう。いや、嫌味を言う天才かも知れない。それほど見事にカルーアはオレたちクランの突かれたくないところをピンポイントで突いてきた。
「でも、オレも烈牙さんには、オレたちのクランに来てほしいと思っています」
 ああん!?
「NPCにも強いやつがいるのは知っています。烈牙さんが選んだクランだし、尊重もしたい。でも本音を言えば、烈牙さんには、表舞台で華々しく活躍して欲しいんです。それくらいオレたちは烈牙さんにプレイヤーとして惚れ込んでいるんです」
 それだけ言うと目隠し男はオレたちに一礼して去っていった。
「獅子堂 蔵之介(ししどう くらのすけ)。ワシと引き分けたほどの武道家よ」
 烈牙さんと無手で引き分ける!? あいつも武闘大会に出るのだろうか? 出ないで欲しいなあ。

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