マグ拳ファイター!!

西順

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「ほほう」
「やればできるじゃない」
 二人の前で、オレは斥力ブレードを展開しながら見事翼で飛んでみせた。ここまで10日掛かった。
「はあ、はあ、どうだ」
 ゆっくり翼を消して地面に立とうとして、蹴躓いて前につんのめってしまった。
「なに寝てんのよ。これからが修行の本番よ」
 マーチは容赦がない。オレができるだけ時間稼ぎをしようと、ゆっくり立ち上がるのと、目の端で烈牙さんが太刀を抜いているのが見えたのが同時だった。
 オレが慌ててその場を飛び退くと、オレのいた場所を烈牙さんの太刀が横薙ぎに通り過ぎる。
「あ、っぶねー」
「なんじゃ、まだ元気じゃないか」
 元気だったからってやって良いことと悪いことがあるよね? だがそんなことに聞く耳持ってくれる二人じゃない。

 ギイイイインン!

 金属音が林に響く。オレが斥力ブレードを展開して、マーチの小太刀を防いだからだ。
「っていうか、なんでその小太刀斬れてないんだよ!?」
 思わず不満が口を吐く。
「ふふ。この10日で強くなっているのはリンだけじゃないのよ」
とマーチは斥力ブレード並の切れ味の小太刀で、オレを攻撃してくる。
 右左上下袈裟逆袈裟と、縦横無尽とはまさにこのことだと言わんばかりに、小太刀の特性である小回りの良さで素早く攻撃を仕掛けてくるのを、オレは斥力ブレードで左右下上逆袈裟袈裟と受け止める。
 とさらにそこに参戦してくる烈牙さん。太刀だと言うのに烈牙さんの神速剣舞がマーチの小太刀より速いスピードで迫ってくる。それをいなしていくオレに、マーチがさらに小太刀を二刀にし、さらに人形まで加えてくる。
 二人は交代交代で攻撃してくるが、受けるオレに休む暇はない。
 オレは体の芯まで筋肉と魔力を搾りきり、ひたすらひたすらひたすらひたすら、二人の攻撃を受け続けた。倒れればポーションで無理矢理回復させられ、また攻撃を受けるの繰り返し。

 
 ギンッキンッギンギンギンッギガギギギギッ

 人形を加えた三者の攻撃を、オレの一振りの斥力ブレードが受け止めた。
「ほほう」
「やればできるじゃない」
 ひたすら二人と打ち合い稽古繰り返し、なんとかかんとか、たった一回、奇跡的に受け止めたられただけだ。
「じゃあ、ちょっと休憩しましょう」
 さすがに二人とも疲れたらしく、汗を拭いポーションを呷っている。いや、ポーションって、そんなグビグビいくもんじゃなくね? と思いながらオレは気絶したのだった。

 気絶中、あの真っ白空間でマインスイーパに熱中していると、体が揺れるのを感じて目を覚ました。
「うあ、なに?」
 体がバッキバキで痛いので、ポーションを飲みながら二人に尋ねると、二人とも神妙な顔をしている。
「今、その確認のためにカナリアに湖の方へ向かってもらってるわ」
 カナリアが湖に? 状況が飲み込めないところに、

 ズズンッ……

 地面が揺れる。
「地震か!?」
 と二人を見るが、二人とも先ほどから湖の方を見ていてこちらを向いてくれない。仕方ないのでオレも湖の方を向いて、気配察知を発動すると、
「何? 何かデカい気配があるんだけど?」
「分からないわ」
 相当デカい気配なのに、トレシー出身のマーチにも分からないと言う。
 そこにカナリアが戻ってきた。赤い小鳥はオレの差し出した腕に留まり、見てきたことを報告してくれる。
「亀だったわ」
 うん、端的過ぎてよく分からないな。
「どういうこと?」
「大きな亀が湖の端にいて、その大きな首を湖岸にドシンドシンと当てているの」
 詳しく聞いてもよく分からなかった。が、オレと烈牙さんには分からなくても、マーチには分かったらしい。何か思い当たる節があるらしい。
「もしかしたら、ヌシサマかも知れない」
「主様?」
「この湖の生態系の頂点に立つ巨大亀よ。ドラゴンよりも巨大で、その口で何でも食べてしまうと言うわ。それこそドラゴンでさえも」
 ドラゴンさえ食べる巨大亀ねえ。
「んで、なんでその主様は首で地面を叩いている訳?」
「求愛行動らしいわ」
 なるほど、発情期な訳ね。あれ? ってことは魔物じゃないのか?
「でもおかしい」
「何が?」
「ヌシサマは私が生まれるより前に倒されているのよ」
「そうなの?」
「ええ。トレシーの冒険者ギルドには、その偉業を称えて、ヌシサマの魔核が飾られいるもの」
 へえ。そんなのあるのか。今度冒険者ギルドに立ち寄ったら見てみよ。ん?
「魔物なのに求愛行動をするのか?」
「…………言われて見ればおかしな話ね」
 魔物は魔核と素体でできている。つまり繁殖などしないはずなのだ。いや、グラキエースのドラゴンは子育てしてたっけ。でも求愛行動? これは調べてみないといけないかも知れない。

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