マグ拳ファイター!!

西順

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 コンフサー公の待つ領地へ、皆揃って帰る道。マーチさんはお怒り中である。
 自身が大事にしていた人形が、ついぞ戦闘で跡形もなく焼失してしまったので、プンプンなのだ。
 そんなマーチさんの周りを、一羽の真っ赤な小鳥が飛び回っている。まるで申し訳なく謝っているような小鳥は、実際に謝っていた。
「ごめんなさい。すみません。ごめんなさい。すみません」
 とそれが鳴き声であるかのようだが、そうではない。小鳥の正体が不死鳥さんだから謝っているのだ。
「マーチ、そのくらいで勘弁してやったら」
 思わず不死鳥さんに助け船を出してあげたら、
「別に怒ってないし」
 とマーチにちょっとキレられてしまった。まあ、オレが出会ったときにはすでに使っていたものだし、愛着なり因縁なりがあったのだろう。不死鳥さんガンバ! と心の中で応援していると、
「人形がいるなら私が工面してあげるわ」
 とのオーロ王女の申し出に、
「ホントに!?」
 と目を輝かせるマーチ。
「ええ。サブルムの件の報酬もまだでしたしね」
 ガッツポーズのマーチ。案外因縁は薄そうである。よかったね不死鳥さん。
「って言うか不死鳥さんはいつまでついてくるの?」
「ええ!? 私たちもう仲間じゃないんですか!?」
 衝撃の事実発覚である。アキラ曰く、解放したら仲間になるパターンはあるそうだ。そういうものだろうか?
「あり得ない」
 とボソリと呟く男が一人。ブックマンである。
「今の段階で不死鳥を倒してしまうこともあり得なければ、さらには不死鳥を仲間に? あり得ない。あり得ないあり得ないあり得ない! 今後のストーリー展開どうしてくれるんですか!?」
 そんなのオレに言われても困る。そっちの上司と相談してくれ。

「そう言えば、不死鳥さんって名前なんて言うの?」
 ずっと不死鳥さん不死鳥さんと呼んでいた。オレって失礼だな。
「不死鳥ですが?」
 さも当たり前のように答えられてしまった。
「そうじゃなくて、個有名っていうのかな? オレならリンタロウ。で今まで謝っていたのがマーチ。とか、そういうの」
「…………不死鳥ですね。不死鳥はこの世に私一羽しかいないので、種族名が個有名です」
 なるほど。不死だもんね。繁殖とかしなくていいもんね。
 だが仲間となったからにはそれでは不都合である。街中で「不死鳥さん不死鳥さん」と語り掛けていては、要らぬちょっかいを吹っ掛けられてきそうだ。
「無いなら名前を付けよう」
「良いわね」
 とはマヤ。こうして不死鳥さんの名付け大会となった訳だが。
「ゴンザレス」
 何でだよ?
「マルコメ二十三世」
 二十三世どこから来た?
「ライオン」
 違う生き物だね。
「ゼバスチャン・カトリーヌ・アプリコット・ジャンジャック・シルベスター・美穂」
 長いよ!
 中々決まらない中、
「カナリア」
 とマーチがボソッと一言。
「歌が上手だからカナリア」
 満場一致で不死鳥さんの名前はカナリアに決定した。

「命の恩人に、何のもてなしもできず申し訳ない」
 マーチがすぐにでも人形が欲しい、と言うので、オレたちはグラキエースの軍艦でとんぼ返りすることになった。
 その見送りにコンフサー公一家が来てくれたのだが、何のもてなしも、と言っておきながら、宝箱10箱の宝石を持たせてくれるとは、さすが宝石の一大産地である。これが下手に市場に出回ったら、値段の低下が人工宝石のときの比じゃない気がする。
「では、オレたちはもう行きますね」
「今度こそさよならだと思うと寂しいわ」
 女子組は全員で抱き合って泣いている。
「この国はもうあなたたちの故郷も同然。またいつでもいらっしゃい」
 とはヤースープ公妃閣下だ。
「ではまた。さようなら」
「さようなら」
 こうしてオレたちはルベウスと別れを告げた。

「ここは?」
「王宮の武器格納庫よ」
 オレたちはアウルムに戻った後、王都でアキラと別れ、オーロ王女とともに王宮に来ていた。
「この中に、新武器開発室というものがあるの」
 武器庫の扉を開けながら、オーロ王女が語るにはその新武器開発室で今までに無いものを開発中で、それがマーチの求めるものに合致するのだそうだ。何だろう? ロボットが出てきてもオレは驚かないぞ。
「これよ」
 それは金属の球体だった。何これ? 少なくともロボットでも、ましてや人形でもない。
「ファースト曰く、形状想起合金というものだそうよ」
 形状想起合金? 形状記憶合金なら知っているが、初耳である。
「これはね。使用者の思う通りに形を変える不思議な金属なの」
 王女がその合金にパスを通すと、まるで生き物のようにうねうねと動きだし、それは不恰好な人形へと姿を変えた。
「スゴい」
 とマーチがポツリと呟く。その目がキラキラしていた。
「これなら、あなたの思うようにできるんじゃないかしら?」
 オーロ王女の言に何度も頷くマーチ。
 形状想起合金へのパスが王女からマーチに移行すると、マーチは早速人形にその姿を変えてみせる。さすが馴れたものと言うべきなのか、王女が造ってみせた人形などよりもしゃんとして、格好いいデザインだ。
「でも、こんな国の機密みたいなもの、もらっちゃって良いんですか?」
「良いのよ。だってあのファーストが開発に関わっているんだもの」
 とオーロ王女。なるほど。
「では遠慮なくいただきますね」
 こうしてマーチは新たな人形? を手に入れたのだった。
 これもブックマン曰く、「あり得ない」だそうだ。

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