マグ拳ファイター!!

西順

124

 前門の虎、後門の狼とはよく言ったものだ。こちとら前門の女王蟻に、後門の蟻軍団である。こっちに一度に二方を相手にする余裕はない。
「皆、入り口から離れろ!」
 オレはそう叫ぶとぽっかり空いた女王の部屋の入り口に、爆弾岩を放り投げる。

 ドンッ!

 爆発が起こり崩落する入り口。これで多少は時間稼ぎができるだろう。
「持って5分10分だ。その内に倒すぞ!」
  と皆が武器を構えて巨大な女王蟻に向き直ったところに、

 ドババッ!

 と女王が天井いっぱいに神経毒を吐き出し、広がったそれが雨のように降ってくる。
 それをマヤが大盾を展開して皆を守ろうとするが、間に合わなかった二人の精鋭が神経毒で動けなくなってしまった。
「くっ」
 オレが二人を盾の影に引き込みながら、次策を考えていると、マーチが飛び出し、女王蟻に一撃与える。が、

ガキンッ!

 金属と金属がぶつかったような音とともに弾かれるマーチ。どうやら女王蟻の強度は、普通の蟻より上らしい。
「どうする?」
 と皆の視線がオレに向けられる。オレの斥力ブレードなら斬れるだろうが、リーチが違い過ぎる。オレが斥力ブレードを当てる前に女王蟻の前肢や牙でイチコロだろう。
 何かないだろうか? 硬いのなら、柔らかくすれば良いのだ。女王蟻に取り付いて、エフェクトで柔らかくできればいいが、そんなの自殺行為だ。他に柔らかくする方法……お酢とか。馬鹿かオレ。いや、良い考えかもしれない。
「ブルース、回収した蟻の素体を見せてくれ」
 ブルースがポーチから取り出したのは蟻鉄と呼ばれている鉄鉱石と何故か瓶に入っている神経毒がほとんどだったが、やはり蟻酸も全体の二割ほど、瓶に入って混じっていた。
 オレは蟻酸を蟻鉄に少量振り掛けてみる。するとじゅうっという音をさせて、煙が上がる。そのあとの蟻鉄を触ると、若干だが柔らかくなっていた。
「良し! いけるな! 若干でも柔らかくできれば、オレたちの光子剣で倒せるはずだ」
「いけそうなのね? 早くしてよ? 女王の攻撃が強すぎて、守り切れないかもしれない!」
 と今まで女王の攻撃を抑え込んできていたマヤだったが、大盾を持つ腕がプルプルし始めている。これは早くしなければ、とオレは蟻酸の入った瓶をドンドン女王に撃ち出していく。と蟻酸を嫌がり苦しみ出す女王蟻。
「これで最後!」
 オレが最後の蟻酸を女王にぶつけたところで前衛たちが動き出す。アキラが剣に火と光を纏わせザクリッ。
「良し! 斬れるぞ!」
 これに続けとばかりにファラーシャ嬢とヤースープ公妃閣下のライトニングスピアーが突き刺さり、マーチが先ほどのお返しとばかりに小太刀で舞い踊る。精鋭たちがそれに続き、六本の足は斬り捨てられ、身動きできなくなった女王蟻は、上に登ったアキラが突き刺した一撃でがトドメとなり、ビクンッビクンッとした後、動かなくなり、魔核と素体に分解されたのだった。
 素体はあれだけの硬度と神経毒を持っていたので、蟻鋼という鉄鉱石に神経毒の入った瓶。それともう一つ、物凄く甘い香りを漂わせる瓶が皆の注目を惹いた。
「蟻蜜だな」
「蜜なの?」
 首を傾げるマヤにオレは頷いて答える。
「疲労回復に良さそうだし、ちょっと飲んでいくか」
 オレの言葉に反対意見は出なかった。皆疲れていたし、甘いものを欲していたのだ。
 蜂蜜よりさらっとしていた蟻蜜は、ごくごくいける爽やかな味わいだった。そして、
「うお!? 何か体が軽くなった感じがする!」
 とその場で跳び跳ねるアキラ以外の皆も、先ほどまでの疲れがぶっ飛んだような顔をしている。
「これならいけそうだな」
 とアキラが部屋の入り口の方を見遣る。そこでは入り口で崩落した土砂を取り除いた蟻たちが入ってこようとしていた。
「皆が戦う前に試したいことがあるんだけど、いいかな?」
「まーた何か作戦を思い付いたのね?」
「作戦というか、ね。皆は鼻と口を押さえといてくれ」
 言ってオレはこの部屋を埋め尽くしそうな何百という蟻に向かって、神経毒の入った瓶を撃ち放ったのだった。

「まさか蟻たちが使っている神経毒のが、蟻にも効果があるなんてな」
 とはアキラ。
「オレもまさかな、とは思ったけど、女王蟻に蟻酸が効いたからな。試す価値ありだと思ったんだよ」
 そして成功した。その後の戦闘ではまず神経毒の瓶を蟻に当てる(オレの仕事)、その後動けなくなった蟻を殲滅。といった流れができ、戦闘が楽になったことで、オレたちの移動範囲、移動速度は上がり、
「あれって外じゃないか!?」
 通路の先に明かりを見つけ、駆け出すオレたち。出先で門番蟻を倒すと、そこは確かに天を貫く外酷城のある湖の中心地だった。
「やっと出られた……」
 日は傾き真っ赤に染まり、空には一番星が輝き始めていた。

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