マグ拳ファイター!!

西順

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 ドンッ!

 噴き上がる水柱。いきなり湖に水柱が立ったので、そこを注視したら、水面に浮かぶ人影があり。
「誰かいる?」
「お母様!」
 はあ!? あそこ、塔とここの中間くらいだぞ? 船も見えないし、泳いであそこまで行ったのか!?
「おい! 何か襲われてないか!?」
 とはアキラ。マジか!? よくよく見れば、巨大魚が集団の周りを何匹もうろうろしており、お母様は火魔法でそれらと対抗している。
「と、とにかく助けるぞ!」
 オレはオーロ王女をマヤに預けると、水辺まで駆け寄り、ファラーシャ嬢と二人で援護射撃をする。それによって魚は離散。オレたちに気付いたお母様たちが、こちらに泳いでやってくる。これはホントに泳いであそこまで行ったと思わせる泳ぎっぷりに、タフだなぁ、と舌を巻いた。

「ファラーシャ! 何故ここにいるの!?」
 驚くヤースープ公妃閣下。ファラーシャ嬢とは違って緑色の髪が、ファラーシャ嬢と同じようにドリル巻きになっている。湖を泳いでいて何故髪型が崩れないの? 天然モノなの?
 オレが不思議なモノを見る目で公妃閣下を見ていたからだろう、マヤに肘打ちを食らった。
「ぐふっ」
「どうかしたの?」
 ファラーシャ嬢からこちらに視線が移る。
「いえ、何でもありません」
「あなたたちがファラーシャの冒険仲間ね」
 自らが冒険者風の装いをした公妃閣下は、腰に手を当ててこちらを見定めたあと、やおらオレの手を取ると、痛いほどギュッと握りしめ、
「娘をよろしく頼むわね!」
 と爛々とした目で詰め寄ってくる。顔近いッス。
「もう、お母様! リンとはそんなんじゃないって!」
 とファラーシャ嬢がたしなめてくれるが、こんな時、男はどんな対応したらいいのか分からないよな。いや、こんな経験初めてだけど。とりあえず、
「コンフサー公はオレたちが持ってたエリクサーで回復しましたから、外酷城に挑む必要はもうありませんよ」
「まあ! そうなの!? ありがとう!!」
 と更に手を強く握られた。痛い。
「よっし! これで心置き無く外酷城に挑戦できるわね!」
 は?
「いや、ですからコンフサー公は……」
「そんなの口実よ! 私、前々から外酷城に挑戦してみたかったの!」
 何だこの人? 対応に困ってファラーシャ嬢を見ると、首を横に振っている。ああ、もう止められないのね。ハァー、仕方ない。
「分かりました。その外酷城挑戦、オレたちにも手伝わせてください」
「まあ、ありがとう! 歓迎するわ!」
 と今度は力いっぱい抱き締められる。
「お母様! はしたないですよ!」
 とそれを引き剥がそうとするファラーシャ嬢も一緒に公妃閣下に抱き締められてしまった。
「とりあえず、今日はもう休みません?」
 オレはもうぐったりなので、ヤースープ公妃お付きの神父さんに聖典に記帳させてもらい、さっさとログアウトさせてもらった。

 しっかり休んで体調を整え、マグ拳にログインすると、皆まだテントでぐっすりお休み中だった。
 そんなテントを出て、朝日に輝く湖の周囲を歩く。偵察を兼ねた散歩である。
 ヤースープ公妃閣下は、もしかしたら今日も外酷城まで泳いで行く、と言い出しかねないが、オレにはそんなの絶対無理であるなんとか他の方法を考えなければならない。
 と思案していると、ガサガサギチギチとどこから何やら音が聴こえてくる。音のする方へ気配を忍ばせ近付くと、それは蟻の集団だった。
 ただの蟻じゃない。一匹一匹が大人と同じくらい大きい蟻の集団が、象を担いで運んでいた。
 うわあ、象より蟻が強い、なんて迷信をこの目で見ることになるとは。オレは象よりヤバい蟻に見付からないようにその場を退いた。しかし蟻か。

「蟻の巣に突入する?」
 何言ってるんだ? とマヤとアキラが首を傾げるが、恐怖に顔をひきつらせているのはこの国の精鋭たちや神父、そしてファラーシャ嬢だ。ヤースープ公妃閣下は面白そうとでも思っているのだろう、目が爛々としている。他のメンバーはよく分かっていないようだ。
「その蟻とは、ジャイアントアントのことでしょうか?」
 精鋭の一人が恐る恐るといった感じでオレに聞いてくる。それに頷いてみせるオレ。
「無理です!」
「何で? 面白そうじゃない!」
 すぐさま否定した精鋭に反論したのは公妃閣下だ。
「でもさすがね、あんな死地に自ら飛び込むなんて、正気の沙汰じゃないわ!」
 それは感心してるのか? 馬鹿にされてるのか?
 ただルベウスの皆さんの反応から、オレが他の皆もヤバいことを考えているとは勘付いてきたようだ。
「オレもこのままでは、待っているのは全滅だと思っています」
「ふむ? ではどうするというのかしら?」
 あくまで楽しそうな公妃閣下。この難局をどう乗り越えるのか、試されている感じがする。まあ、正面突破するだけど。そのためには、少なくとも象を殺す蟻と比肩する攻撃力が必要になる訳で。
「ブックマン」
「えっ?」
 完全に聞き役に徹していたブックマンは、いきなり自分の名前を呼ばれてびっくりしていた。
「あの、刃先が光るヤツ、教えてくれない?」
「えっ?」
 まあ、カラクリは何となく想像ついてるけどね。

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