マグ拳ファイター!!

西順

102

 その日、オーロ王女が難民のキャンプに来た。
「何しに来たの?」
「ヒドイ言い方ね」
 王族専用の馬車から降りてきた王女にオレが掛けた言葉に、王女は腰に手を当て憤慨している。
「まさかここにいる人たちに出ていけ、って言うの?」
 マヤの言葉に難民たちの顔に警戒色浮かぶ。
「そんなことしないわよ。元々ここには誰も住んでいなかったもの。良いのよ、ここを定住の地に選んで」
 王女の言葉に、難民たちに喜びの歓声が上がる。
「ただし条件があるわ」
 王女と難民の間に緊張が走る。

 話の場は長老のテントだ。そこにオレたちパーティー、長老とその護衛、王女とその護衛、という少人数での会談だ。
「単刀直入に言うわ。この国のために銃の製造をして欲しい」
 長老たちの顔に警戒色というより、怒気が見える。
「拒否したらどうなるのですかな?」
 長老は冷静だった。
「拒否、ですか?」
「まだ時期が早いってだけだ」
 首を傾げる王女にオレが口を挟む。
「どこでバールド族のことを聞き付けたのか知らないが、この人たちは銃(それ)によって国を追われたんだ。今はまだどことも銃の取引をしたくないらしい」
「どことも?」
 オレは力強く頷く。デマカセだけど。王女が長老の方を見ると、長老も力強く頷いていた。オレの言葉に合わせてくれたらしい。
「まだ誰もサブルムの傷が癒えんのです。ここに来てから奇病にも罹りました。銃製造はまだできません」
「奇病?」
 オレは水銀中毒の話をした。
「なるほど。確かに昔からこの地の水には毒が含まれている。と言われていましたが、水銀(それ)が原因だったのですか。治るのですか?」
「知り合いの魔女に特効薬を作ってもらってる」
 心配そうにオレに尋ねる王女は、それを聞いて安心したような笑みを浮かべた。
「ではこの話はあなたたちの傷が癒えたらにしましょう」
 すっくと立ち上がるオーロ王女に、長老の方が驚いて声を掛ける。
「え? 本当にそれで良いのですか? 今、力ずくで言うことをきかせることもできるのに」
 これには首を横に振る王女。
「それは私の、この国のやり方に反します」
 ちょっと見ない間に変わったなあ、オーロ王女。あんな死罪死罪いってたのに。
「ただし監視の人間は付けさせてもらいます。他国に武器が流れては厄介ですから」
 これには長老たちも反論しなかった。

 パァンッ!

 これで会談も落着し、オーロ王女がテントから出ようとした時、その炸裂音は響いた。
 すぐさま王女と長老の護衛が二人を囲み、オレたちは音のした方へ走り出す。

「くくくっ、こんなところに隠れていやがったか」
 手に短銃を持ったデザートカラーの軍服の男が一人。その後ろには、兵隊が整列している。
「シャララちゃん!」
 マヤが叫ぶ。男が踏みつけているのは、フュンフヴェステンでオレにありがとうと言ってくれた少女だ。血溜まりの中でグリグリと踏みつけられる少女に、オレは一気に血が沸騰するのを感じた。だが、
「うおおおおおおおッ!!」
 オレより速くマヤが大盾を構えて突っ込んでいく。
「何だ貴様は!?」
 動揺する軍人はそれでも後方に控える兵隊に指示を出す。
「ブルース!」
 オレが声を掛けるより早くブルースが角笛を鳴らすが、兵隊たちにはまるで効かない。
「ハッハッ、催眠か! 悪いが我々は軍人だ。そのような蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)にほだされたりはしない! グフッ!?」
 言ってるそばからマヤの大盾にぶっ飛ばされた。
「大丈夫!? シャララちゃん!」
 抱き上げてシャララちゃんをこちらまで連れてくるマヤ。それに対して兵隊たちは容赦なく発砲してくる。催眠も効かず、命令を忠実に実行する。鋼の精神だな。
 こちらも岩影から礫弾やマーチの人形で応戦する
「ブルース!」
 岩影にたどり着いたマヤにシャララちゃんを預けられたブルースが、すぐさまポーションをシャララちゃんにぶっかける。
「うっ? うう……」
 生きてた。オレたち全員安堵するが。それで怒りが収まる訳じゃない。
 マヤはすぐに踵を返すと、兵隊たちに突っ込んでいく。それに続くオレとマーチ。ブルースはシャララちゃんの見張りだ。
「やれ!やってしまえ!」
 いつの間に戦線を離れたのか、おそらく隊長なのだろう男はすでに兵隊たちの後方にいた。

 ダンッ!

 まずそいつを撃ち落とす。命令系統がいなくなればバラバラだろうと思ったら、
「兵は三班に別れ各個撃破せよ! 」
 副官らしき男によってすぐに三班に別れる。ホントによく訓練されてやがる。だが実力はそうでもなかったようだ。
 多勢に無勢であっても、オレたちの方が押していた。それを素早く察知した副官が、
「撤退!」
 そう叫ぶと兵隊たちはすぐさまその場を立ち去っていったのだった。
「何だったの? あれ」
 兵隊たちがあまりに見事に撤退していくので、オレたちは追撃するということを忘れてポカーンとしてしまったほどだった。

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