マグ拳ファイター!!

西順

99

 土下座された。難民に。感謝の土下座じゃない。謝罪だ。
 難民たちが故郷を離れやって来た火山。そこは思っていたより厳しい土地だった。草木は生えず、岩と土だけの赤茶けた場所だ。
 川には汚れた水が流れ、その川沿いに進んで行くと、難民たちのキャンプ地があった。

 先頭に立って土下座する長老の話では、故郷の戦火を逃れ、やっとの思いでたどり着いた土地で、仲間たちがバタバタと原因不明の病気で倒れていく。働きたくても動けない大人たちに代わり、子供たちが窃盗で食料を得る現状。このままではいけないと思いながらも、子供たちが持ってくる食料に甘えていた。
 そんなある日、子供たちが馬車に乗せられ帰って来た。脇を固めるのは冒険者とおぼしき男女四人。
 ああ、とうとう断罪の日が訪れたと、覚悟した大人たちだったが、せめて子供たちだけでも逃がしてやりたい、とオレたちがキャンプに着くなり襲い掛かってきた。訳だが、皆水銀でボロボロである。相手になるはずもない。さらには子供たちから話を聞けば、自分たちを助けるためにここまで来てくれた、との話。かくして全員で土下座という運びになったのだが、
「あの、姿勢を崩して楽にしてください」
 痛々しい。見てられないから。
「そういう訳には……」
「崩してくれないなら助けませんよ」
 皆ソッコーで楽な姿勢になってくれた。
「子供たちも言っていたように、川の水は飲まないでください。食料は後でオペラ商会が持ってきてくれますから」
「何から何まで、ありがとうございます」
 泣いて感謝された。なんだろう? 病人に泣かれると、逆に悪いことをしている気になる。
「じゃあ、オレたちはもう出ますね」
「頑張ってください!我ら一同、天に向かって成功を祈願しております!」
「あ、……はい」
 調子狂うなあ。でも他の三人はスゲエやる気になってるんだよなぁ。
「リン、ほら、行くよ!」
 いやマヤ、背中押さなくても行くって。

「はあ、はあ、はあ……」
 火山を登っているのだが、息が辛い。
「このマスク、取っちゃダメ?」
 前方を行くマヤも息苦しそうだ。
「ダメだ。多分このマスク、防毒マスクだ。危険な火山ガスを吸い込まないようにできてるんだと思う」
「うげぇ、また毒……」
 うんざりって声で分かるが、ここは我慢してもらうしかない。
「もうすぐ山頂だ。そこで一休みしよう」

 山頂からの見晴らしは良いものではありませんでした。
 当然だよね。火山ガスが常時噴出している火山だもん。辺り一面煙だらけさ。
「あっついーーーー!!」
 マスクでこもった声で、マヤが叫ぶ。同感だ。一分一秒も長居したくない。水蒸気を多分に含んでいるからだろう。服がからだに貼り付いて、不快指数100%である。まるでサウナの中を服着て歩いているようだ。
「それで? 硫黄ってどんなの?」
「そこら中にあるだろ。黄色い結晶だよ」
「確かに。ホントにそこら中にあるわね」
「とっとと採って、とっとと帰るぞ」
 とはブルースである。不機嫌丸出しの声で、へリングにもらった黒いグローブ付け直している。
「これ、どれだけ必要なの?」
 マヤの質問。
「知らないけど、難民のことを考えると、少量ではダメだろう」
「確かに」
 オレたちができるだけ大量の硫黄を持って帰ろうと決めたときだった。

 ドンッ!

 何の前触れも無く、目の前で火山が小噴火する。いや、噴火じゃない。
「ドラゴン……!」
 それは溶岩の体をした、首が二又に別れたドラゴンだった。
「姿を見せなくなったっていう、もう一体か!?」
「いや、違う」
 オレの疑問をすぐさまブルースが否定する。
「目撃されてるドラゴンは翼竜だが、こいつは多頭竜(ヒドラ)の幼体のようだ」
 つまり三体目のドラゴンってことね。
 ヒドラの幼体はオレたちを視認すると、大口を開けて襲い掛かってきた。だがそれまでだった。
 氷結小太刀を両手に持ったマーチの人形が、その大口をザクッと一閃する。それだけで斬り裂かれるヒドラ。やはりアウルムのドラゴンはグラキエースのゲローほど強くはないようだ。もしかしたら皆幼体なのかも知れない。
 などと思索にふけっていたら、ヒドラはマーチ一人によって八つ裂きのズタズタにされていた。よほど不快感が溜まっていたのだろう。ヒドラの素体は溶岩のような鉱物だった。
 その後は魔物が出ることもなく、オレたちはマジックボックスに詰め込めるだけ硫黄を詰め込んで、下山したのだった。

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