マグ拳ファイター!!

西順

88

 その後オレたちはドラゴンの脅威が去ったとの報を受け、女王から退室の許可が出たので王宮を後にした。
 向かったのは教会だ。幸いこの街にも教会は存在した。まあ、そうでないとオレたちプレイヤーはフィーアポルトの教会に戻されてしまうし、マーチにブルース、ファラーシャ嬢はこの街に取り残されてしまう。どちらにしても大事である。
 教会でまずしたのは記帳、ではなく併設されている治療院でのオレの腕の治療だ。両腕ダメにしてしまったから、記帳ができないのだ。
 そして治療、記帳が終われば、宿探しである。巨人の国だし、女王やフリオとか言う戦士の態度から、あまり人間を受け入れてくれてないかと思ったが、宿はすんなり見つかった。宿的には金さえ払ってくれれば、種族は何でも良いそうだ。
「で、いつものようにオレの部屋で今後の打ち合わせか」
 思わず嘆息してしまう。別にオレの部屋でなくてもいいだろう。女子部屋はちょっとあれだが、ブルースやアキラの部屋でもいいはずだ。
「何だろう? 集まりやすいその人の雰囲気ってあるよね」
 全員頷いているが、オレには全く分からん。
「さてと、まずは何から話したものやら……」
 とオレが頭を掻いていると、ビシッとアキラが手を上げる。
「はい、アキラ君どーぞ」
「ドラゴンが凄かった!」
 うん、そうだろうね。一人でドラゴン見るために突っ走って行ってたからね。
「白とグレーのドラゴンでさ、何か液体を吐いて人を一瞬で凍らせるんだよ!」
 人を凍らせる程の液体って、何? 液体窒素か何かか? それとも過冷却水かな?
「大きさは体高は、あのフリオってやつと同じぐらいだけど、体長はその三倍はあったな」
 高さ五メートルに横幅が十五メートルか。さすがドラゴンデカいな。
「フリオってやつも含めて、50人ぐらいの編成で戦ってたけど、追い返すのでやっとだったな。 以上!」
 フリオ50人で追い返すのがやっとって、オレら何の役にも立たないんじゃないか?
 次に手を上げたのはブルースだ。
「この国のことを少し聞いてきた」
 この短時間に、ブルースって本当に優秀だよね。
「この国の名前はグラキエースと言うそうだ」
 グラキエース。あのフリーギドゥスの航海日誌に書かれてたあれ、国の名前だったのか。オレがやっちゃたパターンだなぁ。
「グラキエース? カルトランドではないのですか?」
 そう質問したのはファラーシャ嬢だ。そういえばアウルムの北はカルトランドって国だったな。
「それも聞いてみたが、カルトランドはグラキエースよりもっと南だと言っていて、ここより北に国は無いそうだ」
 北限の国か。まあオーロラが見えるぐらいだしな。北極圏にあるんだろう。いや、その前に丸いのか? この世界。
「この世界って丸いの?」
「何言ってんだリン?」
 ブルースとマーチから馬鹿な発言してるって顔された。
「でも私も見たことあります。丸い世界地図」
 フォローしてくれたのはファラーシャ嬢だ。
「そのような説もあると、お父様が言っていました」
 そのような説、か。まあ、ゲームの世界何だから、地球みたいに丸い必要は無いよな。地動説だろうが天動説だろうが、ゲームを進める上で関係無さそうだ。
「悪い、変なこと言ったな先進めてくれ」
 ブルースは一度嘆息して、場の雰囲気を入れ替えると、続きを話し始めた。
「ゲローというドラゴンは、ここより北東にある山に巣を持つ、わりと大人しいドラゴンだったそうだ」
「大人しい? かなり暴れてたが?」
 アキラが首を傾げる。実際に見たのはアキラだけだからなんとも言えんが、巨人の戦士50人を相手にするのだから、相当な暴れっぷりだろう。
「そうやって暴れ回るようになったのは、ほんの一週間前かららしい」
 そうなのか。これは何かあったと考えるべきかな?
「その暴れっぷりは凄まじく、すでに三つの街と村がやつの冷凍液(リキッドブリザード)で壊滅させられたそうだ」
 シンとなる部屋。誰かのゴクリと唾を飲み込む音が聴こえる。
「で、事態を重く受け止めた女王が、国中に緊急事態宣言を発令したのが先日のこと。同時にゲローを倒せる勇者の募集も始まった」
「そんなときにオレたちが現れ、アキラがドラゴン退治だぁ! っと叫んだ訳ね」
 皆の白い目がアキラに向けられる。
「あ、はは、すいません」
「謝ったからどうなるって話じゃないよなあ。今回のゲロー討伐にオレたちは組み込まれなかったけど、多分次回からはオレたちも、そのドラゴンと戦うんだろうなあ」
 オレの発言に、オレを含め全員がため息を吐くのだった。勝てる気がしない。

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