マグ拳ファイター!!

西順

82

「良かった~! 生きてるよ~!」
 トゥナ伯爵とのあれやこれやの後、船から港に降りると、オーロ王女に泣いて抱きつかれた。
「ね、だから言ったでしょ。死んでないって」
 ファラーシャ嬢がオーロ王女の頭を撫でながら慰めている。
 何事? と周りを見れば、全員がオレを白い目で見ていた。これはオレが何かやったパターンだな。
「え? 何かごめんなさい」
「ごめんなさい、じゃねぇよ! 大変だったんだぞ、あの後!」
 しこたまキレるアキラ曰く、死罪死罪と宣っていたオーロ王女だったが、実際に人が目の前で死んだのを見たのは初めてだったそうだ。自分の言った一言でクビチョンパである。相当なトラウマをオレはオーロ王女に与えてしまったらしい。
 あまりのショックに王女は延々と泣き続け、「周りが復活するから」といくらなだめても泣き止まず、それはトゥナ伯爵(影武者)の事情聴取の時もそんな感じで、トゥナ伯爵(影武者)や人工宝石の作り手も何が何やら分からず、皆一緒になって相当参っていたそうだ。
 うむ。想像するだけで笑えるな。オレが全く戻ってこないことも、王女が泣き止まない理由の一因だったろうけど。
 そんな中でブルースがトゥナ伯爵の様子がおかしいことを指摘し、ここで影武者だと発覚。全員で急いで港に駆け付ければ、事はすでに終わっていたという話である。
「ひぐっ、ひぐっ、あなたはもう、死ぬの禁止だからね」
「あ、はい」
 オーロ王女に、というか幼い少女に涙顔でこう言われては、yes以外に返事の仕様もないというものだ。
「しかしあの段階でよくトゥナ伯爵が影武者だって気付いたな?」
 アキラが頭を掻きながら訊いてくる。
「こっちは保険だよ。そっちが本命。もしもを考えて行動しただけさ。当たったのは偶然だよ」
「へぇ~。まあ、それでもスゴいけどな」
 ホントにスゴいと思っているのやら。

「しっかし、スゲエな」
 オレたちは今、波止場に腰を下ろしながら、トゥナ伯爵が逃亡用に用意していた船から下ろされる積み荷を眺めている。ちなみにオーロ王女はオレの腕にしがみついたまま、泣き疲れて眠っていた。
 船から下ろされた金銀財宝が詰まった積み荷の数、50箱を超えていた。
「あれって、総額どれくらいになるんだろうな?」
 オレがポロッとこぼした言葉に目ざとく反応したのは、王女のお付きの青年だった。
「ざっとではありますが、100億ビット程かと」
「100億ビット……」
 ちょっと想像がつかないのですが、それって積み荷何箱分?
「そのうちの一割が皆様への報酬となります」
「「「「「はあ!?」」」」」
 思わずその場にいた全員で聞き返してしまい、その声に驚き王女が起きてしまった。
「うるさいわよ」
「「「「「すいません……」」」」」
 眠って人心地ついた王女は落ち着いたのだろう。オレに念押しで「死ぬの禁止!」と言って王都へと去っていった。

「本当に良いのか? オレたちが半分もらって」
 海王の真珠亭に場を移し、オレとブルースの部屋で、報酬の相談をアキラが所属するクラン「無双前線」のリーダー星☆剣 燎さんとしていた。分け前は無双前線とオレたちパーティーで五分五分である。そのことに星☆剣 燎さんがえらく恐縮している。
「こちらからお願いして承けてもらった依頼でもありますしね。大変だったってこともアキラから聞いています。オレの分、上乗せで6:4にしますか?」
「いやいやいや! さすがにそれは、半分で十分だ」
 言って星☆剣 燎さんは自分たちの常宿に帰っていった。恐縮してたわりには、帰りの足取りはルンルンだった。

「てな訳で、オレたちの取り分は一人一億ビットだ」
 皆神妙な顔である。それはそうだろう。額が額である。人生の半分くらい遊んで暮らせそうな金額だ。星☆剣 燎さんの前ではそんなそぶり見せていなかったが、オレも内心びびっている。と、
「私は辞退いたします」
 口を開いたのはファラーシャ嬢だった。
「私は別に報酬のために戦ったのではありません。自国の民のために戦ったのです。ですからこれは皆様で山分けしてください」
 マジか!?
「いや、さすがにそういう訳にはいかないだろ」
 オレの言葉に同意するようにマヤ、マーチ、ブルースが頷く。
 その後何度か押し問答をして、半額の5000万ビットを報酬として受け取ることにファラーシャ嬢は同意してくれた。残る5000万ビットはオレたちの今後の活動資金だ。
「私、働いてお金を稼いだの、初めてです!」
 そう言いながらファラーシャ嬢は自室へと戻っていく。それに続くマヤにマーチ。部屋にはオレとブルースだけが残された。
 やおらオレが鈴を取り、それを鳴らすと、支配人が部屋にやって来た。
「何の御用でございますか?」
 恭しく頭を下げる支配人。
「何の御用って訳でもないけどね。支配人さんの役者っぷりを褒めようと思って」
「は?」
 「とぼけなくてもいいですよ。あの夜、海賊を呼び込んだの支配人さんでしょ?」
「…………」
「まあ、そっちにはそっちの事情があったんだろうから、この話はこれくらいにしておきましょうか。あ、柑橘ジュースをオレとブルースの分、持ってきてもらえますか?」
「承知しました」
 それだけ言うと支配人は部屋を後にした。
「いやはや、世の中海千山千だらけだねえ」
「お前が言うのか?」
 とはブルース。こっちも言いたいよ。お前が言うのか? って。

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