マグ拳ファイター!!

西順

70

「で、どうなんだ?」
 その後数日が経過した。
 オレはブルースに件の少年の尾行をさせて、本日はその報告会だ。人前で話せる話題じゃないので、オレとブルースの部屋で行われた。
「リンの言った通り、少年自体はプレイヤーと繋がっていなかった」
「そうなんですの?」
 「ああ、少年は八人程のグループに所属していて、そのリーダーが…」
「黒幕なのね?」
「いや、街の裏を仕切る顔役と繋がっていて…」
「じゃあその顔役が…」
「貴族と繋がっていた」
「じゃあ、誰が繋がってるの?」
「いや静かにしてくれるからファラーシャ嬢! これはブルースの報告を聞く会だから!」
 たまらずオレは変な状況を作り上げたファラーシャ嬢に突っ込みを入れていた。
「だいたい何でまだいるの? 国に帰ったんじゃないの?」
「ふふ。私の勘が、まだ何かがあると訴えていたのです!」
 ああ、勘で行動するタイプかあ、面倒臭〜い。
「……報告続けていいか?」
「……どうぞ」
 オレはファラーシャ嬢を一瞥してからブルースに先を促すように告げた。
「その貴族が、プレイヤーを屋敷に匿っていたんだ」
 なるほど。
「じゃあ、その貴族を捕縛すれば万事解決ってことか」
「が、そうはいかないんだ」
「何でだよ?」
 ブルース以外全員首を傾げる。例え貴族だろうと、領主の許可が下れば捕縛対象になるはずだ。そのための領主特権の赤札のはず…………って、
「まさか!?」
「そのまさかだよ」
 オレの考えを読んだブルースが頷きで返してくれるが、他の者は皆首を傾げたままだ。
「要は、領主が今回の件の黒幕ってことだよ」
「「「「「ええ!?」」」」」
 そりゃ驚くよな。でも厄介だなぁ。領主特権の赤札なのに、領主が裏で糸引いてちゃ、捕まえようがない。と本来ならなるんだろうけど、
「ファラーシャ嬢」
「ええ、心得ているわ。じい。今すぐアウルム王家に面会の打診を」
「はい」
「あ、できるだけ隠密に進めてください。ことがバレると領主に握り潰されますから」
「分かっております。お気遣いありがとうございます」
 おじいさん執事はオレの余計なお世話にも恭しく礼をして部屋から出ていった。
「ハァーーーーーー」
「長いため息ですね」
 ファラーシャ嬢にそんなことを揶揄される。
 そりゃため息も吐きたくなるだろう? 鴨ネギどころか、面倒が面倒を背負ってやって来たんだ。
「これなら黒幕が海賊の方が100万倍マシだ」
 とそんなことをオレがこぼすと、
「そうか、じゃあ海賊の方も報告しよう」
 マジでー? まだ何かあるのかよ?
「確定ではないが、人工宝石の幾らかは海賊経由で国外に流れていると考えていい」
 聞きたくなかったー、その情報聞きたくなかったよー。
「それってオレたちが手を出す案件かな?」
「何言ってるのリン!? 当然退治するに決まってるでしょ!?」
「乗りかかった船、禍根はここで後腐れなく断っておくべき」
「そうですわ! 無辜の民草のため、ここはガツンッと海賊をやっつけましょう!」
 女子組、元気だなぁ。ブルースは何か平然としてるし、オレだけか? 疲れてるの。
「オーケー、やってやんよ! その後一週間は遊び呆けてやるかんな!」
「お! リンもやる気になった! その意気だよ!」
 マヤに合いの手を入れられ、気分は上がるが、そもそもオレ、ゲームを遊んでるんだよね?

「で? 海賊ってどの海賊?」
 海賊と言ってもここの海域は日に一回は海賊が出るような場所だ。どの海賊か特定しないといけない。オレの問いにブルースが頷き口を開く。
「まだ噂程度の情報だが、海賊と繋がりのある貴族がいるらしい」
 また貴族!
「ここ(フィーアポルト)の貴族はどんだけ腐ってんだよ? まさか領主じゃないよな?」
「違う。この港街から北の方を任されている貴族だ」
「北の海賊か」
 フィーアポルトの海賊には大きく分けて二種類いる。北と南だ。
 南の方が数は多いが、一隻一隻は小型船で、持ってる武器もショボいのに対して、北は速度の出る中型船を操り、武器もそれなりのモノを持っている。
「なるほど。貴族がパトロンとして付いてると考えれば納得いくか」
 と言うか、ちょっと考えれば想像つきそうなのに。まぁ、あの一週間は激務でそれどころじゃなかったからなあ。
「んで、その貴族の名前は?」
「サヴァ子爵だ」

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