マグ拳ファイター!!

西順

46

「はあ……どうするんだ……はあ……」
 マーチに今後の方針を尋ねる。全速力街まで逃げてきたせいで息が上がっている。
 しかし、あんな知恵の回る魔物が徘徊しているとなると、あの林で特訓を続けるのは無理だな。肉がこれで足りるか分からんが、今後はトレシー内での特訓に切り替えよう。
「どうする、もない。ゴブリンが出たらまず冒険者ギルドに報告するのが鉄則」
「そうなのか?」
「はぐれが一匹でうろついてたならともかく、パーティーを組んで襲撃してきた。街の緊急事態に相当する」
「そんなにヤバイ状況なのか?」
 真剣な顔でコクリと頷くマーチ。
「ゴブリンは一匹だと増えないが、二匹以上になると子供を作ってどんどん増えていく。早めに退治しないと増えすぎたゴブリンどもが街を襲い始める」
 それは……! 確かに緊急事態だな。
「よし! 冒険者ギルドに急ごう!」
 オレとマーチは冒険者ギルドに急行した。

「ゴブリンパーティー!?」
 オレらの言に受付のお姉さんの声が裏返る。その発言で一階にいた冒険者たちの視線が一気にオレたちに集中した。
「場所は!?」
 紙とペンを出したお姉さんが真剣に尋ねてくる。それと同時にもうひとりいたお姉さんに目配せし、された方はどこかへ行ってしまった。
「ここから南東の林です」
「どんなパーティー編成だったか分かる?」
「えっと〜」
 どんなと言われてオレが困っているとマーチが助け船を出してくれた。
「私たちが見たのは刃物を持った前衛三匹だけ。でも茂みに隠れたところから弓と風魔法の攻撃を受けた」
「魔法まで!? 相当数いると考えるべきね」
 風魔法? もしかしてさっき受けた強風か? う〜む。魔法まで使うとか、相当賢いな。
「ゴブリンが出たのは本当か!?」
 そこに現れたのは鋼であろう胸鎧に腰に細身の剣を佩いた赤い長髪の女性だった。
「ギルマス!」
 受付嬢のお姉さんがそう言ったところから、彼女がこのトレシーの冒険者ギルドのギルドマスターだと分かった。
 ギルマスさんは受付にいるオレたちに一度視線を向けると少し驚いた顔をしたが、すぐにその顔は真剣なものになり、受付嬢に手渡された紙に目を通す。
「間違いじゃないんだな?」
「あいつらの姿を私が間違うはずがない」
 マーチとギルマスのやり取りがなんだかギスギスしている。何か訳有りか?
 「分かった。すぐに領主に連絡を。おい、 お前ら! ゴブリン狩りだ!!」
 『うおおおおおお!!』
 一階の冒険者たちから鬨の声が上がる。
 なんかスゲエ大事になってきたな。などとオレが思っていると、スッとギルマスの手がオレの首に伸びてくる。
「な、なんすか!?」
 いきなり女性に迫られドギマギするオレ。
「ああ、悪い。プレートを見せてもらっても構わないか?」
 ああ、冒険者ギルドのプレートが見たかったのか。オレは首に掛けて服の下に仕舞っていたドッグタグのようなプレートを取り出す。
「ふむ、銀か。と言うことは最近アインスタッドやツヴァイヒルのダンジョンコアを回収して回っているのは君か?」
 へぇ。さすがにギルマス間では情報の共有がなされているんだな。
「そうです。オレともうひとりでダンジョンコアの回収をしました」
 得心したギルマスは頷くと、
「では、そのもうひとりと一緒に、ゴブリンが出たという場所まで私を案内してくれ」
「私が信じられないっていうの?」
 マーチが食って掛かる。
「そうじゃない。より正確な情報が欲しいというだけだ」
 う〜ん、またゴブリンと戦うことになるかも知れない不安はあるが、盾役のマヤが増えるならもう少し立ち回れるか。それに、
「もうひとりパーティーに加えていいですか?」
「? あまり弱いようだと逆に足手まといだぞ?」
「大丈夫だと思います。マーチの兄のブルースですから」
 驚くギルマス。その驚き方からこの兄妹とは何かあるのだろう。詮索する気はないが。
「いいだろう。同行を許可する」
 こうしてオレたちはまたゴブリンと遭遇した場所にトンボ返りすることになった。

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