マグ拳ファイター!!

西順

25

「どうする?」
 マヤが後ろを振り向かずにオレに訊いてくる。
「夜だから出くわすだろうとは思っていたけど、三匹もいたんじゃ、あの作戦は使えないわ」
 確かにそうだ。一匹の背に乗れば、他の二匹が襲い掛かってくるだろう。だが、あの作戦は森からちょっとだけ離れた場所だからできたのだ。例え相手が赤狼一匹だったとしても、森の中であれをやれば、そこら中の木々の枝葉が飛んできて、オレまでダメージを受けてしまう。
 だから一応森の中用の作戦も考えてある。
「来たわ!」
 オレたちがまだ打ち合わせもする前に、赤狼たちの方にこちらの居場所がバレてしまったようだ。
「どうするの!?」
 マヤの声が先程より上擦っている。それでも大盾でオレを守ろうと赤狼に向けて大盾を構えるのはさすがだ。だが、
「マヤ、邪魔」
 オレはマヤの首根っこを掴むと、グイとオレの後ろにどける。
「なっ!?」
 声にならない声を上げるマヤを尻目に前に出たオレ。そこへ赤狼三匹が横一列に大口開けて襲い掛かってくる。
(お誂え向きだな)
 オレは両手に持てるだけの銅貨を持つと、三匹を挟む左右の木々にダダダダダダッとそれを撃ち出す。
 三匹の赤狼がその間を通り過ぎ、オレに襲い掛かろうとした瞬間、メキメキメキッとオレの銅貨を受けた木々が倒れ込み、三匹の赤狼はその倒木の下敷きとなって押し潰されたのだった。

「フゥー」
 ギリギリのタイミングで上手くいって良かった。胆が冷えたからだろう、ゲーム中だというのに、額の汗を拭ってしまった。
「リン!」
 急に後ろから声を掛けられ、体を強引に180度回転させられる。そしてオレの正面にいるのは心配そうな顔をしたマヤだ。
「大丈夫!? ケガしてない!?」
 お前はオレのお母さんか。心配そうにオレの体を見回すマヤに、心の中で突っ込んでおいた。
「もう! そういう作戦なら先に言っておいてよ!」
「言おうとしたら襲われたんだよ」
 と倒木の下敷きになった赤狼を見ると、
「グルルルルルゥッ」
「うわっ、まだ生きてる!」
 驚いてマヤと二人、その場から飛び退くが、赤狼は木が重くて動けないようだ。そのことに二人して息を吐く。
「どうする?」
「やらない、ってのもなぁ」
 オレは腰からハッサンさんに貰った赤狼牙のナイフを抜くと、それを逆手に持ち替え両手で握り、動けない赤狼一匹一匹の頭骨突き刺しトドメを刺していく。
「リン、けっこう鬼畜ね」
 そんなマヤの言は無視して、オレは赤狼の魔核と素体となった赤い毛皮をポーチに回収していった。

「ここね」
 赤の森最奥の巨木の根本には、下へと続く階段が口を開けていた。しかも人工的な石積だ。
 その階段を降りていった突き当たりに、高さ5メートルはあるだろうか、両開きの扉があった。
「この先に……」
「ダンジョンコアが居るんだろうな」
 マヤと二人意を決し、オレたちは扉を開けた。

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