仕事やめて神の代行者始めました

素人屋

プロローグ

つまらない、本当につまらない、大学を卒業してから良い会社に就いたけど、ただひたすら生きるためだと働いてなんの生き甲斐もなく消費されていく短い人生、会社は優良だし定時に退勤も出来る。給料もそこそこいいしボーナスだってある。休みは週二日あるし仕事内容にも不満はない、しかしふと思うのだ社会の歯車になって定年を迎え働けなくなったら終わり退職後は何をするでもなくただ人生と言う名の終末を迎えるまで死という恐怖に怯えながら生きていく、そんな未来に僕は絶望しか抱けなかった。

いっそ仕事をやめてどこか遠くで暮らそうとも思ったが、それでも最終的な目的地は同じで僕という蟻のように小さな命は高々長くて八十年やそこらで終わってしまうのだから、死んだ後の事は知らないがもし新しい命として生まれ変わってもこの輪廻からは逃れることは出来ないだろう、人は永遠に生きて死ぬこれを繰り返しその記憶だけをリセットされずっと同じことをさせられているのではないか、終わりなき旅感じることの出来ない永遠の苦痛これを仕組んだやつが要るとしたらそれはきっと悪魔か何かだろう。ゲームだったら無理ゲーと諦めて放置できるが、その選択肢はないようだった。

「まもなくーーーに到着します、お降りの際は…」

駅のアナウンスで現実に引き戻される。電車内はほぼ満員、運良く座席に座ることができたがそろそろアパートのある駅に着くらしい、僕は座席から立ち上がると人混みをかき分け出口へと向かう、こういう時は必ず手を挙げておかないと痴漢と間違われて例え故意でなくとも悪人扱いされてしまう、両手を上げながらなんとか出口までつくとドアが開き駅のホームへと踏み出した。丁度帰宅ラッシュもあって、ホームは人人人その雑踏の中を歩いていく。

「っつ」

途中すれ違った女と肩をぶつける。女は舌打ちをすると僕の顔を一瞬睨み付けた。

「すみません」

そう言いはなった時にはもう女の姿は人混みのなかに消えていた。なんだよ、携帯触りながら歩いてた癖に僕の方が悪いみたいじゃないか、僕も何で謝ってんだよそうだよ悪いのは僕じゃない。

「あの真ん中で立ち止まらないで下さい」

「あ、すみません」

……、やっぱりこの世界はつまらない俺は悪くない全部お前らが悪いんだ。僕が正義でお前らが悪、しかしあいつらからしたら自分が正義で僕が悪ってことになるのか、結局のところ正義と悪なんて白か黒、表か裏かだけの違いでそのどちらかにつくかでどちらも悪になりうるし正義にもなりうる、勇者は正義だけど魔王からしたら勇者は悪だしな、要はどちらの目線にたつかってことだ。そして選択はこの二つしかない、コインに表と裏しかないようにこの世には善と悪しかないのだ。

駅を出ると自分のアパートのある方角へと歩き出す。駅から徒歩十分と若干距離はあるが毎日通っているとそんなに遠くは感じない、商店街をくぐり抜け住宅街へと進んでいくこの辺りはこの時間になるともうほとんど出歩く人はいない、事実駅からここまですれ違ったのは二人しかいなかった。ふとある路地裏で足を止めた。なんで足を止めたのかは自分でも不思議だったがその路地裏に目をやると、辺りに街灯はなく真っ暗で路地の先は完全な闇だった。再び歩きだそうとした時だった。

「…ものよ、こちらに」

「え?」

思わず声を出してしまった。今誰かの声がしたよな?気のせいか?もう一度目を凝らし耳をすませ暗闇を見るが何も見えなかった。気のせいかそう思い通りすぎようとした時今度ははっきりと聞こえた。

「この世界に飽きたものよ、こちらに」

僕は再び路地に引き返すとその薄暗い路地へと入っていった。辺りは狭くなんとも言えない生臭さが鼻をついた。僕は何をやっているんだ?途中我に帰り引き返そうとしたが、またあの声が僕の足を止めた。

「この世界に飽きたものよ、こちらに」

振り返る、するとそこには暗闇のなかにぽっかりと空いた穴があった。

「なん、だよこれ」

どうやらその穴の中から声がしているようだ。

「汝望むならこの輪廻から解き放とう、さぁこちらに」

こちらってこの穴の中にか?





……、はっはっはっ馬鹿らしいこれは何かの間違いだきっと疲れてるんだよついに幻聴や幻覚が見え始めたか、僕は振り返ると来た道を戻り路地を抜け帰路についた。

玄関のドアを開ける、部屋は真っ暗で人気はないまぁ当然か僕は独り暮らしで彼女もいない、手探りで明かりを付けるとソファーに腰かけた。テレビをつけてチャンネルを回すが特に面白そうな番組もなくすぐに電源を切った。それにしてもさっきの声…、この世界に飽きた者か、いっそこの地球外にでもいけば乾ききったこの心も満たされるのだろうか、ふと時計を見ると十一時を回ろうとしている。

「もう寝ないとな」

明日も仕事、僕はソファーから立ち上がりシャワーを浴びるとベッドに横になる。

「人の役にたつ立派な人間になれ」

父親が口癖のように僕に言っていた言葉、最も父親は四年前に死んでしまい今は実家に母親一人で暮らしている。

人の役にたつか、あんなやつらのために生きろってことか?僕は先程のことを思い出しなから首を横に降る。どうせなら自分に賛同する人の役にたちたいよな。

「ふぁ」

急激に眠くなってきた、手元にあるリモコンを取ると明かりを消してまぶたを閉じた。

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