炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

13節 ミカンとオムライスと飴

「何だって?」

 ボソリと呟いた七日にアノニムが焦れったいなと言うように苛つきながら七日に尋ねた。

「私たちの目的はこの空間の何処かにいるワカナを探すこと。ここは私の管理下でもハルカの管理下でもないから甘くないよぉ」

 アノニムの言葉を無視するように七日は麗菜に言った。いや、アノニムにも言ってはいるが苛つかれてもただの迷惑だと切ったのだ。そして、麗菜が尋ねた。

「若菜を探せばいいんでしょ、簡単じゃない」

「それが甘いっつってんの」

 不思議そうに尋ねた麗菜にアノニムのイライラが移ったかのように七日が強く言う。想像していた返しだったからか、余計に腹が立つ。

「はぁ……いい? ここは狭くない、ワカナはどんな姿かわからない、ここに連れてこられたのは私たちとワカナだけじゃないかもしれない。……これでわかってもらえたかなぁ」

 七日はこの空間の広さを知らない。だが、闇雲に歩いても端にぶつからないということは知っている。

 七日はこの空間の性質を知っている。誰かの記憶の中にある姿が今のワカナの姿ならばこの中の誰も見たことの無いワカナかもしれない。

 七日はこの空間に入る条件を知っている。あの赤い光を見れば強制的に連れてこられる。コトは事前に知っていたので目を瞑っていたが、周りに他の天使や悪魔がいてその光を見なかったとは言い切れない。

 七日は失敗を自覚している。この空間は完全に七日の管理下ではないとはいえ、他の者よりは自由がきく。この空間に入るときに近くにいてもらいたい者を掴んでおくくらいならできる。七日は確かに掴んだつもりだった。アノニム、麗菜、ハルカ。そして、ワカナも掴んでいたはずだった。しかし、それは六日だった。その失敗を強く自覚している。

「……つまりはそのワカナを見つければいいってことだろ」

 何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせたアノニムが七日に眉をピクピクとさせながら尋ねた。

「そう」

「でも見つけたところでな、どうせワカナは放心状態か頭おかしい状態だぞ? どうすんだ」

 短く答える七日にアノニムはさらに尋ねる。

「……麗菜、ワカナが確実に食い付く好きなものは?」

 七日が麗菜に視線を向けて尋ねた。頭に指をコツコツと当てながら麗菜はどうにか思い出す。そんなことせずとも覚えているのだが、他にもなかったか念入りに考えてから麗菜は答えた。

「ミカンとオムライスと飴……だったはず。間違いないはずよ」

「あー、うん。そんなことだろうと思った」

 夕飯に困ったらオムライス。甘いものがほしくなったら飴を舐める。こたつに入ったらミカンに真っ直ぐ手を伸ばす。ワカナはそんな子だったと記憶していた。現に飲み物はお茶も好きだが自動販売機やコンビニで買うものは果汁たっぷりのオレンジジュースだった。

「ミカン味の棒つきキャンディーを強く思い浮かべて」

 七日が二人に言う。そして、目を瞑ってオレンジ色で透明のキャンディーを頭の中に思い浮かべる。麗菜とアノニムも七日のように目を閉じる。

 三人が何かの違和感を感じて目を開くと、手の中にいつの間にかキャンディーの棒を握っていた。

「意識だけなら釣るのは楽だし、これで釣れる。……たぶん」

「何かすごく不安なんだけど」

 ギュっと棒を握って言う七日に麗菜がボソリと不満を漏らした。

「まあ、希望的観測……。なんだろ」

 パシッと飛ばしたキャンディーをカッコ付けて取りながらアノニムは七日に笑いかけた。

「そゆこと」

 七日がぎこちない笑みをアノニムに返して見せた。

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