炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
9節 七日はもっと小さい
七日の背、腰の辺りから黒い粘土のような長い腕が六本生えてきた。輪郭があるようで実体がない。触れられる気もするが触れれば流砂のように崩れてしまう気がして仕方がない。そんな腕が七日を囲むようにしていた。
「あれを捕まえて」
ガクンと落とした頭で見上げるように六日を睨んだ七日が低い声で黒い腕に命じた。
「……若菜さん、あの七日擬きはあなたが倒します?」
クスッ、と笑った六日がワカナに話しかけた。七日はそれに驚き腕を止め、後ろに下がった。
「……わか、りました。……私たちの可愛い妹を、偽った、そんな罰。私が……、私が、私がお姉ちゃんなら、私は、私は、私は、……許さない」
六日の言葉にワカナが答えた。始めは糸で吊られたように右腕を七日の方に向けた。そして、ゆっくりだが七日を指差し、ワカナは顔をあげた。
その顔には純粋な怒りのみが浮かべられ、赤い瞳を光らせていた。
「待って、待って、待って、私は七日、ワカナの知ってる七日だよ!」
ワカナの背から七日のものと同じような黒い腕が数えきれないほど生え、それは七日に向けてコントロール何て考えていないように威力とスピードだけで飛んできた。七日はそれを自分の腕で払いながらワカナに呼び掛ける。
「嘘! 七日はもっと小さい!」
「ワカナが生きてた頃からも私はワカナより背が高かったし!」
「知らない! 私は小さくない!」
何も考えずにワカナは腕を一度攻撃すれば崩れる鞭を七日に振りかざし続けた。そして、感情的になって口喧嘩を続ける。ワカナも七日も意識せずとも腕を使える。しかし、七日は防御に徹することしかできず、もし六日が何かをすれば七日に対応することはできない。それに気づいていないわけではないが、七日は何も出来ずにワカナの言葉に返し続けた。
「墓穴掘ってるってわかんないのかなぁ!」
「知らない! 私の事好きなら黙れ!」
「それはおにーちゃんだけだから! ってかおにーちゃんはいつまで気絶してんのよ! 朝からじゃない!」
五日の事が頭に過ると、そういえば早朝から五日が訪ねてきたことを七日は思い出した。どうして殺したとか、説明しろとか言って突然攻撃をして来たので五日の頭を殴って気絶させておいた。もっと手加減しておけば今一人でワカナの相手をすることも無かったんだろうなと七日は後悔する。もう手遅れ過ぎることだが。
「知らない知らない! 偽物黙れ!」
「本物だって言ってるの! ワカナさぁ、もう少し手加減してくれない? 本当に私死にそうなんだけど!」
頭を抱えて呻くように叫ぶワカナに七日は加減を知らないのか思っていることを投げる。意識はしていないのに影を使うのは疲れるのか七日は額に汗を浮かべ、ワカナを睨み付けている。
「知らない! だって殺すから!」
「アァ! もう! 何でっ……!」
わかんないかなぁ! 七日がそう言おうとしたとき、若菜から生えている黒い腕が先の方から白く崩れ始めた。砂のようにさらさらと色が白に変わり、風に乗って消えていく。
「敬意が足りない。やり直しだな」
ワカナの黒い腕を崩した張本人が脂汗を流しながらワカナに言った。二人の天使と悪魔に抱えられ、顔と左手だけをワカナ達の方に向けたアノニムだった。
「もう回復したの?」
「千切れてたりした訳じゃないからな。頭も打ってなかったし。でも回復してたら助けは借りてないがな」
思い通りに動かない体を支えてもらいながらアノニムは七日が尋ねたことに答える。
「おいおい、そんな顔するなよ。まるで私がワカナをいじめているみたいじゃないか」
スッと七日から目を見開き、不思議そうにキョロキョロと黒い腕が暴れていた場所を見つめているワカナに視線をずらしてアノニムが言った。呼ばれた気がしてワカナがアノニムの方を見ると、ワカナは微かに口を開き、ボソリと呟く。
「……部外者は…………黙れ」
その言葉を言い終えると、ワカナは右腕を前に出し、その手から火の玉を出してアノニムに向けて飛ばした。
「ワカナ、頭にリボン、手には手袋まで付けているのに敬語も使えなくなったのか。やり直しだと言ったはずだ」
アノニムの目の前でワカナの炎は消えた。怯えて強く目を瞑ったアノニムを支えている天使と悪魔が驚いて目をぱちぱちとさせている。その二人の真ん中でアノニムがワカナの目をじっと見つめてニコッと怪し気に笑っている。
「いなくなれ!」
「……敬語」
ワカナがまた火の玉をアノニムに飛ばす。
「アァァアァアアアァァァァ!」
またアノニムのすぐ前で炎は消えた。落ち着きをなくしたのかワカナは何も考えずに炎をアノニムに飛ばし続ける。
「……落ち着け」
アノニムがそう言っても聞こえていないようにワカナは叫ぶ。目には涙を浮かべ、表情は怒りから恐怖や怯えに変わっている。
「はぁ……。お前ら、そろそろ一人で飛べるから宮殿に避難してろ。あとは七日と私でどうにかしてやるから」
アノニムは小さくため息をついて自分の左右にいる天使と悪魔に言った。その二人は頷いて逃げるように宮殿まで飛んでいき、アノニムはそれを確認すると七日の近くまで飛んでいった。
「どういう仕組み?」
移動してもアノニムの前で消える炎を見て七日がアノニムに尋ねた。
「ふん……今のワカナは見習い魔術師以下の魔術の使い方だからな。私がどうこうする必要もない」
鼻で笑いながらアノニムは言う。
「私にとってはかなりの魔力ぶつけられてたんだけどぉ……」
「七日は魔術使わないからな。それより、こんな見た目のやつに炎をバカみたいに撃つとか人としてもワカナはどうかしてるみたいだな」
眉を顰めて七日は疲れたと言うように影と一緒に手をプラプラとさせながら舌を出した。そりゃ魔術という面だけで見れば今のワカナはダメダメだと言われても仕方がないが、戦闘という面で見れば力任せに相手を潰そうという今のワカナはある意味優秀だ。アノニムから見れば赤子の手を捻るよりも簡単なことでも魔術の知識しか持っていない七日にとってのワカナはラスボス手前の中ボス位の力はあるのではないか。
「確かに、傷治ってないじゃん」
「痛くはないんだがな」
アノニムの腕は真っ直ぐ伸びているが、多くの切り傷が走り、口の端にもまだ血を吐いたときのものが残っている。ワカナは怪我人に本気で魔法を撃つようなやつではなかったのにとアノニムが哀れむようにニタァ、と笑った。
「アアアアアァァァァァァァァァ! 何で! 何で! 何でェ!」
全く火の玉がアノニムに届かないことを泣きながらワカナは叫んだ。
「……ねぇ、何でおねーちゃんは何もしないの……?」
七日が狂ったように泣き叫ぶワカナを見て小さく呟いた。
「あのワカナ、確かに六日なら止められるはずだしな」
「何で止めないんだろう……って思ってね」
不思議そうに七日がアノニムに言う。
「アアァァアアアアァァァァァァァァァァ!!!」
「これじゃあ薫の時と変わらないじゃないか」
アノニムが呆れたようにワカナを見上げるように睨んで言う。そろそろワカナの叫び声も耳障りに思えてきたのだろうか、不機嫌そうに落ち着いたアノニムの目付きを鋭く細める。
「アァアアア……アァ? あ、あ、あ、カオ? 薫?」
ワカナが叫ぶのをやめて目を丸くして聞こえてきた名前を復唱した。
「ん? あ? ……薫だ。カーオールー」
言葉に反応してくれたとニマッと笑ったアノニムが楽しむようにワカナに近寄り、ゆっくり言った。
「薫……アハ、薫薫薫! 薫ならここにいますよ! ここ!」
一気に幼子のように笑ってワカナが左手を勢い良く宙に投げ出した。そして、その先に空間が割れたように黒い闇が顔を出した。
「……は」
その闇の中に倒れて胸と首を指が肉に埋もれてその肉を抉り出している薫がいた。ワカナは薫の中に自分の持つ熱の一部を埋め込み、ワカナが作った闇の空間に薫を閉じ込めていた。
それを見て何も言えないアノニムが小さく言葉を溢し、ワカナは幸せそうに笑いながらその空間を閉じた。
「苦しい! 熱い! 私幸せ!」
本当に幸せそうに笑いながらワカナはアノニムと七日に叫んで言う。火の玉を投げていたときよりはだいぶ落ち着いたようだ。
それに、どうやら七日が楽しみにしていたものもこの場に着いたようだ。運は七日たちに味方している。
「あれを捕まえて」
ガクンと落とした頭で見上げるように六日を睨んだ七日が低い声で黒い腕に命じた。
「……若菜さん、あの七日擬きはあなたが倒します?」
クスッ、と笑った六日がワカナに話しかけた。七日はそれに驚き腕を止め、後ろに下がった。
「……わか、りました。……私たちの可愛い妹を、偽った、そんな罰。私が……、私が、私がお姉ちゃんなら、私は、私は、私は、……許さない」
六日の言葉にワカナが答えた。始めは糸で吊られたように右腕を七日の方に向けた。そして、ゆっくりだが七日を指差し、ワカナは顔をあげた。
その顔には純粋な怒りのみが浮かべられ、赤い瞳を光らせていた。
「待って、待って、待って、私は七日、ワカナの知ってる七日だよ!」
ワカナの背から七日のものと同じような黒い腕が数えきれないほど生え、それは七日に向けてコントロール何て考えていないように威力とスピードだけで飛んできた。七日はそれを自分の腕で払いながらワカナに呼び掛ける。
「嘘! 七日はもっと小さい!」
「ワカナが生きてた頃からも私はワカナより背が高かったし!」
「知らない! 私は小さくない!」
何も考えずにワカナは腕を一度攻撃すれば崩れる鞭を七日に振りかざし続けた。そして、感情的になって口喧嘩を続ける。ワカナも七日も意識せずとも腕を使える。しかし、七日は防御に徹することしかできず、もし六日が何かをすれば七日に対応することはできない。それに気づいていないわけではないが、七日は何も出来ずにワカナの言葉に返し続けた。
「墓穴掘ってるってわかんないのかなぁ!」
「知らない! 私の事好きなら黙れ!」
「それはおにーちゃんだけだから! ってかおにーちゃんはいつまで気絶してんのよ! 朝からじゃない!」
五日の事が頭に過ると、そういえば早朝から五日が訪ねてきたことを七日は思い出した。どうして殺したとか、説明しろとか言って突然攻撃をして来たので五日の頭を殴って気絶させておいた。もっと手加減しておけば今一人でワカナの相手をすることも無かったんだろうなと七日は後悔する。もう手遅れ過ぎることだが。
「知らない知らない! 偽物黙れ!」
「本物だって言ってるの! ワカナさぁ、もう少し手加減してくれない? 本当に私死にそうなんだけど!」
頭を抱えて呻くように叫ぶワカナに七日は加減を知らないのか思っていることを投げる。意識はしていないのに影を使うのは疲れるのか七日は額に汗を浮かべ、ワカナを睨み付けている。
「知らない! だって殺すから!」
「アァ! もう! 何でっ……!」
わかんないかなぁ! 七日がそう言おうとしたとき、若菜から生えている黒い腕が先の方から白く崩れ始めた。砂のようにさらさらと色が白に変わり、風に乗って消えていく。
「敬意が足りない。やり直しだな」
ワカナの黒い腕を崩した張本人が脂汗を流しながらワカナに言った。二人の天使と悪魔に抱えられ、顔と左手だけをワカナ達の方に向けたアノニムだった。
「もう回復したの?」
「千切れてたりした訳じゃないからな。頭も打ってなかったし。でも回復してたら助けは借りてないがな」
思い通りに動かない体を支えてもらいながらアノニムは七日が尋ねたことに答える。
「おいおい、そんな顔するなよ。まるで私がワカナをいじめているみたいじゃないか」
スッと七日から目を見開き、不思議そうにキョロキョロと黒い腕が暴れていた場所を見つめているワカナに視線をずらしてアノニムが言った。呼ばれた気がしてワカナがアノニムの方を見ると、ワカナは微かに口を開き、ボソリと呟く。
「……部外者は…………黙れ」
その言葉を言い終えると、ワカナは右腕を前に出し、その手から火の玉を出してアノニムに向けて飛ばした。
「ワカナ、頭にリボン、手には手袋まで付けているのに敬語も使えなくなったのか。やり直しだと言ったはずだ」
アノニムの目の前でワカナの炎は消えた。怯えて強く目を瞑ったアノニムを支えている天使と悪魔が驚いて目をぱちぱちとさせている。その二人の真ん中でアノニムがワカナの目をじっと見つめてニコッと怪し気に笑っている。
「いなくなれ!」
「……敬語」
ワカナがまた火の玉をアノニムに飛ばす。
「アァァアァアアアァァァァ!」
またアノニムのすぐ前で炎は消えた。落ち着きをなくしたのかワカナは何も考えずに炎をアノニムに飛ばし続ける。
「……落ち着け」
アノニムがそう言っても聞こえていないようにワカナは叫ぶ。目には涙を浮かべ、表情は怒りから恐怖や怯えに変わっている。
「はぁ……。お前ら、そろそろ一人で飛べるから宮殿に避難してろ。あとは七日と私でどうにかしてやるから」
アノニムは小さくため息をついて自分の左右にいる天使と悪魔に言った。その二人は頷いて逃げるように宮殿まで飛んでいき、アノニムはそれを確認すると七日の近くまで飛んでいった。
「どういう仕組み?」
移動してもアノニムの前で消える炎を見て七日がアノニムに尋ねた。
「ふん……今のワカナは見習い魔術師以下の魔術の使い方だからな。私がどうこうする必要もない」
鼻で笑いながらアノニムは言う。
「私にとってはかなりの魔力ぶつけられてたんだけどぉ……」
「七日は魔術使わないからな。それより、こんな見た目のやつに炎をバカみたいに撃つとか人としてもワカナはどうかしてるみたいだな」
眉を顰めて七日は疲れたと言うように影と一緒に手をプラプラとさせながら舌を出した。そりゃ魔術という面だけで見れば今のワカナはダメダメだと言われても仕方がないが、戦闘という面で見れば力任せに相手を潰そうという今のワカナはある意味優秀だ。アノニムから見れば赤子の手を捻るよりも簡単なことでも魔術の知識しか持っていない七日にとってのワカナはラスボス手前の中ボス位の力はあるのではないか。
「確かに、傷治ってないじゃん」
「痛くはないんだがな」
アノニムの腕は真っ直ぐ伸びているが、多くの切り傷が走り、口の端にもまだ血を吐いたときのものが残っている。ワカナは怪我人に本気で魔法を撃つようなやつではなかったのにとアノニムが哀れむようにニタァ、と笑った。
「アアアアアァァァァァァァァァ! 何で! 何で! 何でェ!」
全く火の玉がアノニムに届かないことを泣きながらワカナは叫んだ。
「……ねぇ、何でおねーちゃんは何もしないの……?」
七日が狂ったように泣き叫ぶワカナを見て小さく呟いた。
「あのワカナ、確かに六日なら止められるはずだしな」
「何で止めないんだろう……って思ってね」
不思議そうに七日がアノニムに言う。
「アアァァアアアアァァァァァァァァァァ!!!」
「これじゃあ薫の時と変わらないじゃないか」
アノニムが呆れたようにワカナを見上げるように睨んで言う。そろそろワカナの叫び声も耳障りに思えてきたのだろうか、不機嫌そうに落ち着いたアノニムの目付きを鋭く細める。
「アァアアア……アァ? あ、あ、あ、カオ? 薫?」
ワカナが叫ぶのをやめて目を丸くして聞こえてきた名前を復唱した。
「ん? あ? ……薫だ。カーオールー」
言葉に反応してくれたとニマッと笑ったアノニムが楽しむようにワカナに近寄り、ゆっくり言った。
「薫……アハ、薫薫薫! 薫ならここにいますよ! ここ!」
一気に幼子のように笑ってワカナが左手を勢い良く宙に投げ出した。そして、その先に空間が割れたように黒い闇が顔を出した。
「……は」
その闇の中に倒れて胸と首を指が肉に埋もれてその肉を抉り出している薫がいた。ワカナは薫の中に自分の持つ熱の一部を埋め込み、ワカナが作った闇の空間に薫を閉じ込めていた。
それを見て何も言えないアノニムが小さく言葉を溢し、ワカナは幸せそうに笑いながらその空間を閉じた。
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