炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
2節 一緒に食べようか
▼▼
「ねぇおねーちゃん! どうしておにーちゃんを置いてくの?」
七日が尋ねた。六日に手を引かれて新しい家に引っ越すのだ。五日を置いて、厳しい顔をした六日と二人だけで新しい生活をするのだ。
「……いいから黙って着いてきて。あんなの……兄さんだなんて認めない」
流れるがままに頷き、流れるがままに進学し、流れるがままに生きているだけの五日に愛想を尽かして六日は家を飛び出した。何故その兄に怒りを感じたのかまでは六日自身も理解していなかったが、とにかく我慢ができなくなったのだ。
七日を後ろ手に引き、振り返ること無く六日は最寄りの駅まで歩く。つい夜に家を出てしまったが、これから新居に向かうのは間に合わないので泊まるのだ。
六日がこちらを向かないことを良いことに七日はニタァと笑みを浮かべた。
「じゃあおねーちゃん、約束して。おにーちゃんと連絡も年賀状も無しは無しだよ!」
七日はいつもの七日の顔をして言う。ピクリと一瞬だけ六日の顔が七日の方に向いたが、結局前を向いたまま「そうね」と返した。
ここまでは七日にとってプラスに働いていた。このままいけば何も問題なく終わらせることができる。誰からも見られないことを確認し、七日は悦に入った笑みを浮かべた。
「七日は、私に着いてきてくれますよね」
全く新しい生活をはじめてしばらくした時だった。朝食の片付けをしながら六日が突然七日に尋ねた。
「当然だよ。私が今頼れんのはあんな親でも連絡先すら知らない他の姉さん兄さんでもなくておねーちゃんだけなんだしさ」
七日は愛想笑いを浮かべて答えながら食器を運ぶ。この問の意味が七日にはわかっていなかったが、七日の答えを聞いた六日の怪し気な笑みがその意味になり、七日の計画が狂った。
その頃からだった。六日は怪しい本をかき集め、読むわけでもなくただ楽しそうに本を開いて紙を愛おし気に撫で、書いている文字を目でなぞり始めた。意味はきっと理解していない。外出頻度は極端に減り、部屋に籠り、七日が作らなければ何も食べることもなかった。
「……おねーちゃん、おにーちゃん何か言ってる?」
「え? あ、何、七日。私に着いてきてくれるんでしょ? あんな兄さんのところになんて行かないよね」
二年以上が経ったある日、七日が夕食を六日の部屋に運ぶついでに尋ねた。その言葉に六日は開いていた本を閉じ、隣にあった山にそれを積んで七日の方を向いて答えた。部屋が薄暗いせいか六日の目には光がなく、虚ろに七日を見つめていた。
「そういうことを言ってるんじゃないよ。連絡はしてるんでしょ、何も無いのかって」
「あぁ……。ほとんど連絡なんてしてませんよ。それより夕飯ですか、久し振りに一緒に食べようか」
六日の顔にほんの少しだけ恐れを感じた七日が片眉だけ強く顰めて不機嫌に強く言った。そんな風に言われても六日は表情を仮面のように微塵も動かさず、答え、立ち上がろうとした。ゆらりと体を大きく揺らしながら六日は立ち上がる。例えるならば煙が立ち上るように音もなく、しかしゆらゆらと。
「良いけど」
「ありがとう」
仕方無さそうに七日が持ってきた食事をそのまま置かずに言うと、笑顔で六日が礼を言う。しかしその目には生気というものが消えていた。
「私ね、七日にとっても大切なお話があるのですよ」
六日がワカナのすぐ後ろで小さく呟く。
「……ご飯食べながらで良い?」
「フフ、元からそのつもりよ」
ビクッと驚いた七日が盆に乗せた汁物を溢さないようにとそちらに集中する。そして、嫌々答えた。それの何が楽しいのか六日は上品に笑って見せる。
「……」
無言でリビングまで戻り、ダイニングテーブルに七日は持っていた盆を乗せ、キッチンから自分の分を持ってくる。電気はついているのに気のせいか暗い気がする。この薄暗さではせっかく作った夕飯の美味しさも半減してしまう。
「いつもありがとうね、私が作ってあげられたら良いんだけど……」
思ってもいないことを六日は言う。リビングにいる六日を見るのはいつ振りだろうかと七日は思いながら六日の言葉を流し、尋ねた。
「で、話って何? おねーちゃん」
七日はちらりと目だけで六日の方を見る。やはりその笑顔に謎の恐怖を感じてしまう。その恐怖の正体がわからない分余計に心を煽られる。
「あぁ、そうね。ねえ、七日は魔術について何か知っている?」
そう尋ねて六日は味噌汁を器から啜った。七日は六日が言ったことを理解できないと言うように目を見開き、理解すると信じられないと箸をカランと落とした。
「ねぇおねーちゃん! どうしておにーちゃんを置いてくの?」
七日が尋ねた。六日に手を引かれて新しい家に引っ越すのだ。五日を置いて、厳しい顔をした六日と二人だけで新しい生活をするのだ。
「……いいから黙って着いてきて。あんなの……兄さんだなんて認めない」
流れるがままに頷き、流れるがままに進学し、流れるがままに生きているだけの五日に愛想を尽かして六日は家を飛び出した。何故その兄に怒りを感じたのかまでは六日自身も理解していなかったが、とにかく我慢ができなくなったのだ。
七日を後ろ手に引き、振り返ること無く六日は最寄りの駅まで歩く。つい夜に家を出てしまったが、これから新居に向かうのは間に合わないので泊まるのだ。
六日がこちらを向かないことを良いことに七日はニタァと笑みを浮かべた。
「じゃあおねーちゃん、約束して。おにーちゃんと連絡も年賀状も無しは無しだよ!」
七日はいつもの七日の顔をして言う。ピクリと一瞬だけ六日の顔が七日の方に向いたが、結局前を向いたまま「そうね」と返した。
ここまでは七日にとってプラスに働いていた。このままいけば何も問題なく終わらせることができる。誰からも見られないことを確認し、七日は悦に入った笑みを浮かべた。
「七日は、私に着いてきてくれますよね」
全く新しい生活をはじめてしばらくした時だった。朝食の片付けをしながら六日が突然七日に尋ねた。
「当然だよ。私が今頼れんのはあんな親でも連絡先すら知らない他の姉さん兄さんでもなくておねーちゃんだけなんだしさ」
七日は愛想笑いを浮かべて答えながら食器を運ぶ。この問の意味が七日にはわかっていなかったが、七日の答えを聞いた六日の怪し気な笑みがその意味になり、七日の計画が狂った。
その頃からだった。六日は怪しい本をかき集め、読むわけでもなくただ楽しそうに本を開いて紙を愛おし気に撫で、書いている文字を目でなぞり始めた。意味はきっと理解していない。外出頻度は極端に減り、部屋に籠り、七日が作らなければ何も食べることもなかった。
「……おねーちゃん、おにーちゃん何か言ってる?」
「え? あ、何、七日。私に着いてきてくれるんでしょ? あんな兄さんのところになんて行かないよね」
二年以上が経ったある日、七日が夕食を六日の部屋に運ぶついでに尋ねた。その言葉に六日は開いていた本を閉じ、隣にあった山にそれを積んで七日の方を向いて答えた。部屋が薄暗いせいか六日の目には光がなく、虚ろに七日を見つめていた。
「そういうことを言ってるんじゃないよ。連絡はしてるんでしょ、何も無いのかって」
「あぁ……。ほとんど連絡なんてしてませんよ。それより夕飯ですか、久し振りに一緒に食べようか」
六日の顔にほんの少しだけ恐れを感じた七日が片眉だけ強く顰めて不機嫌に強く言った。そんな風に言われても六日は表情を仮面のように微塵も動かさず、答え、立ち上がろうとした。ゆらりと体を大きく揺らしながら六日は立ち上がる。例えるならば煙が立ち上るように音もなく、しかしゆらゆらと。
「良いけど」
「ありがとう」
仕方無さそうに七日が持ってきた食事をそのまま置かずに言うと、笑顔で六日が礼を言う。しかしその目には生気というものが消えていた。
「私ね、七日にとっても大切なお話があるのですよ」
六日がワカナのすぐ後ろで小さく呟く。
「……ご飯食べながらで良い?」
「フフ、元からそのつもりよ」
ビクッと驚いた七日が盆に乗せた汁物を溢さないようにとそちらに集中する。そして、嫌々答えた。それの何が楽しいのか六日は上品に笑って見せる。
「……」
無言でリビングまで戻り、ダイニングテーブルに七日は持っていた盆を乗せ、キッチンから自分の分を持ってくる。電気はついているのに気のせいか暗い気がする。この薄暗さではせっかく作った夕飯の美味しさも半減してしまう。
「いつもありがとうね、私が作ってあげられたら良いんだけど……」
思ってもいないことを六日は言う。リビングにいる六日を見るのはいつ振りだろうかと七日は思いながら六日の言葉を流し、尋ねた。
「で、話って何? おねーちゃん」
七日はちらりと目だけで六日の方を見る。やはりその笑顔に謎の恐怖を感じてしまう。その恐怖の正体がわからない分余計に心を煽られる。
「あぁ、そうね。ねえ、七日は魔術について何か知っている?」
そう尋ねて六日は味噌汁を器から啜った。七日は六日が言ったことを理解できないと言うように目を見開き、理解すると信じられないと箸をカランと落とした。
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