炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
21節 ちょっとだけ力を使わせて
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「五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日っ……!」
息が切れるまでワカナは呼び続けた。二人の天使と悪魔をどうにか撒いて白い建物が見えてきた。言葉を止めることも出来ずに息切れをしながらまっすぐその建物に向かう。このままでは壁に頭から衝突するのではないかと言うほどの迫力だ。
涙は乾き、ドライアイになっても目を真っ赤に腫らしてもまっすぐただただ飛び続けるワカナに初めはシアラも声をかけていたが、届いているかもわからないのに無駄だとやめてしまった。
「ああああああああああああああ」
叫ぶ。ワカナのその声は雨のように森に降る。家でやれば間違いなく近所迷惑だと怒られる類いの声量だ。シアラも思わず耳を塞ぐ。
「あぁっ! あぅっ! あぁ!」
息が切れたのか残ったものを吐き出すようにワカナが呻く。
シアラがここで口を挟んだ。
『……ワカナ、何が目的なの?』
さっきも同じことを聞いたが、その時には叫ぶだけで何も返されなかった。どうせ今回もそうなるであろうが、それでもシアラは気になる。出来るだけ冷静に聞こえるように落ち着いた声で尋ねた。
「ぁ……ぁた、あすける! たさける! 五日助ける!」
歯をギリッと鳴らしたかと思えばワカナはしっかりと意思を持って答えた。まさか返ってくるとは思っていなかったが、シアラは続ける。
『どういうことなの? 助けるっていっても何からどうやって?』
「しら……っない! もうっ怪我は……良くない! させない!」
幼子のようにワカナは叫んで主張する。ここが地上ならば地面に寝そべりバタバタと駄々をこねているだろう。
枯らした涙を再び流し、ワカナは何かに怯えるように叫ぶ。それを聞いてシアラは一つ思い、それを聞く。
『何を思い出したの』
その短い言葉にワカナは目を丸め、止まった。
ゆっくりと落ちていく。気を失ったのではとシアラは不安に思うが、もう地面に叩きつけられると思った直前にワカナはフワッとその場に留まった。
「私……五日、怪我、させた。七日さんが、でも、あのとき、あれ……? わからない。でも、でも、五日、いっぱい血流した。頭から血が出て、私、お姉ちゃんに怒られて……? あれ、何で私、あそこにいた? 何で私が怪我させた? あれ? あれ? あれ?」
手で顔を覆い、ワカナはぶつぶつと呪文のように呟く。それをワカナに見えなくてもシアラは頷いて聞き取る。そして、一つだけ可能性が頭を過る。
思い出す順番が違ったのだ。
麗菜にはやはり会ってはいけなかった。あそこでワカナを止めておけばよかった。あの嫌な予感はこういうことだったのだ。
そして、確信する。
ワカナがここに来てから何一つとして誰の思い通りにもなっていない。
ミコトもアノニムもヒトミもズィミアもコトもシアラもワカナさえもこんなことは望んでいないだろう。
シアラは感じとる。ワカナの周りに天使と悪魔が木陰に隠れて大勢いる。明確な殺意をもってワカナのことを睨み付けている。
一度冷静になる。ワカナは降りてきてからずっと自問自答を繰り返している。今は何を言っても今まで以上に何の効果もないだろう。
シアラは考える。考えて考えて考える。一つだけ作戦を思い付く。最後の手段にと思っていた事だが、ここでワカナに死なれては困る。いや、死なないであろうが、面倒事もシアラにはごめんだ。
シアラは目を瞑り、シアラの部屋にあるイロクに被せてある布を剥ぎ取る。優しく冷たい手を握り、心の中で頼む。
ちょっとだけ、俺にイロクの力を使わせて。
片手でイロクの手を握り、もう片方の手でワカナと交換した目に触れる。
『ワカナ……しばらく寝ててね』
子守唄を歌うように軽く優しい声でシアラはワカナに語りかける。ふっ、と何かに包まれるようにワカナの意識が途切れ、その体をシアラが自由に動かせるようになる。
『さて、と。どうせ俺の可愛い部下の役もいるんでしょうけど知ったことじゃないわ。この俺とワカナの命狙ったことを後悔しなさい』
「五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日五日っ……!」
息が切れるまでワカナは呼び続けた。二人の天使と悪魔をどうにか撒いて白い建物が見えてきた。言葉を止めることも出来ずに息切れをしながらまっすぐその建物に向かう。このままでは壁に頭から衝突するのではないかと言うほどの迫力だ。
涙は乾き、ドライアイになっても目を真っ赤に腫らしてもまっすぐただただ飛び続けるワカナに初めはシアラも声をかけていたが、届いているかもわからないのに無駄だとやめてしまった。
「ああああああああああああああ」
叫ぶ。ワカナのその声は雨のように森に降る。家でやれば間違いなく近所迷惑だと怒られる類いの声量だ。シアラも思わず耳を塞ぐ。
「あぁっ! あぅっ! あぁ!」
息が切れたのか残ったものを吐き出すようにワカナが呻く。
シアラがここで口を挟んだ。
『……ワカナ、何が目的なの?』
さっきも同じことを聞いたが、その時には叫ぶだけで何も返されなかった。どうせ今回もそうなるであろうが、それでもシアラは気になる。出来るだけ冷静に聞こえるように落ち着いた声で尋ねた。
「ぁ……ぁた、あすける! たさける! 五日助ける!」
歯をギリッと鳴らしたかと思えばワカナはしっかりと意思を持って答えた。まさか返ってくるとは思っていなかったが、シアラは続ける。
『どういうことなの? 助けるっていっても何からどうやって?』
「しら……っない! もうっ怪我は……良くない! させない!」
幼子のようにワカナは叫んで主張する。ここが地上ならば地面に寝そべりバタバタと駄々をこねているだろう。
枯らした涙を再び流し、ワカナは何かに怯えるように叫ぶ。それを聞いてシアラは一つ思い、それを聞く。
『何を思い出したの』
その短い言葉にワカナは目を丸め、止まった。
ゆっくりと落ちていく。気を失ったのではとシアラは不安に思うが、もう地面に叩きつけられると思った直前にワカナはフワッとその場に留まった。
「私……五日、怪我、させた。七日さんが、でも、あのとき、あれ……? わからない。でも、でも、五日、いっぱい血流した。頭から血が出て、私、お姉ちゃんに怒られて……? あれ、何で私、あそこにいた? 何で私が怪我させた? あれ? あれ? あれ?」
手で顔を覆い、ワカナはぶつぶつと呪文のように呟く。それをワカナに見えなくてもシアラは頷いて聞き取る。そして、一つだけ可能性が頭を過る。
思い出す順番が違ったのだ。
麗菜にはやはり会ってはいけなかった。あそこでワカナを止めておけばよかった。あの嫌な予感はこういうことだったのだ。
そして、確信する。
ワカナがここに来てから何一つとして誰の思い通りにもなっていない。
ミコトもアノニムもヒトミもズィミアもコトもシアラもワカナさえもこんなことは望んでいないだろう。
シアラは感じとる。ワカナの周りに天使と悪魔が木陰に隠れて大勢いる。明確な殺意をもってワカナのことを睨み付けている。
一度冷静になる。ワカナは降りてきてからずっと自問自答を繰り返している。今は何を言っても今まで以上に何の効果もないだろう。
シアラは考える。考えて考えて考える。一つだけ作戦を思い付く。最後の手段にと思っていた事だが、ここでワカナに死なれては困る。いや、死なないであろうが、面倒事もシアラにはごめんだ。
シアラは目を瞑り、シアラの部屋にあるイロクに被せてある布を剥ぎ取る。優しく冷たい手を握り、心の中で頼む。
ちょっとだけ、俺にイロクの力を使わせて。
片手でイロクの手を握り、もう片方の手でワカナと交換した目に触れる。
『ワカナ……しばらく寝ててね』
子守唄を歌うように軽く優しい声でシアラはワカナに語りかける。ふっ、と何かに包まれるようにワカナの意識が途切れ、その体をシアラが自由に動かせるようになる。
『さて、と。どうせ俺の可愛い部下の役もいるんでしょうけど知ったことじゃないわ。この俺とワカナの命狙ったことを後悔しなさい』
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