炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

15節 突き飛ばします、殴り飛ばします、殺します。

『そんなことで泣いてるのね、イロクにしては可哀想な程弱い奴』

 一人だけ空気も読まずにワカナだけに聞こえる声で言った。ワカナはうるさいとも耳を塞いでその声を聞かない選択をすることもできない。見えていなくても退屈そうに言っていることだけがわかる。

『そんなので同情しちゃうなんて、俺役もワカナも弱いわね。いや、ワカナは同情なんてしないわね』

「……私は同情なんてしませんよ。私が死んだ後いつどこで誰が死んだかなんて興味ありませんし」

 ワカナは五日の話を聞いて一つ思い出したことがある。思い出すほどのことでもない当たり前のことだが。

 ただここにいるワカナもあゆみも五日も、ここにいるわけではないがシアラも一度以上死を経験している。そして、死んでしまえば終わりだということは違うと知っている。今話して見えて聞こえて誰かと会えている。よく考えずとも死んだからなんなのだとワカナは思うのだ。

「若菜、そんな言い方良くないわ。貴女だって麗菜を失って辛かったでしょ? 死んで苦しかったでしょ? 」

「べつに。私は覚えてないことも多いですし、死んだ代わりにムカついたら焼き払うことも呪い殺すこともできるようになりました。どうも思いませんね」

 あゆみが奥から顔を出してワカナに説教するように言った。ワカナは何と言われてもそれほどではなかった。麗菜が死んだという事実を受け入れる前に自信も死んでしまったし、熱によって死んだが、今はその熱を使って炎を操っている。辛く苦しいよりも驚きと便利さの方が勝っていた。

「……若菜の言う通りだ。過ぎたことより先を考えろとはいつの時代でも誰もが言うことだし、七日に会おうと思えば会えて話も聞けるがそうしないのは俺だ。……気分転換に散歩してくる。部屋は用意しておいたし、お前らは寝てろよ」

 あゆみが五日の方を心配そうに見ていた。その視線を振り払うように五日は立ち上がって扉の方に歩きながら若菜のこともあゆみのことも見ないで言った。そして、どちらの返事も待たないまま扉から森に出ていった。

「二階の赤い扉の部屋、若菜が使える部屋だから。そこで好きに過ごして良いわ。でも明日の朝までは出てこないで、絶対に」

 あゆみは五日が出ていった扉を見つめてから目を伏せてワカナに言った。何か辛いことでも思い出したのか窒息したような赤黒い苦しそうな顔をしていた。

 ワカナはそんなあゆみの顔を見て関わらない方がいいと判断し、言われた部屋を探しに階段を上った。

 二階は中央に廊下があり、両側にカラフルな扉の部屋が四つある。すべてが同じ大きさでかなり広めなことは外からでもわかる。白、黒、灰、赤の扉があり、ワカナに用意されたのは赤の部屋だ。まだ他人の家な気が強くて躊躇いがあるが、ワカナは扉を押し開いた。

「普通……ですね」

 何もないのか客室感満載なのか物置き化しているか埃が溜まっているとワカナは考えていたが、そんなことはなかった。ベッド、空のタンス、テーブルと椅子があり、カーペットまで敷かれていて誰かが住んでいる部屋、というイメージだった。

「シアラ、話があります」

『何? 変なことでも思い出した? 』

 ベッドと椅子を見比べてからベッドにふかっと座ったワカナがどこを見るわけでもなく壁を見つめてシアラに話しかけた。

「はい。思い出したというよりは思った、頭に浮かんだことですが、これから少しの間は何かあったときに頼ることになると思うので伝えておきます」

 階段を上っている間にふと頭に浮かんだ。誰に言われたかどうかもわからない、思い付いただけかもしれないが、伝えておいて何の損ものだ。

「私はもう怒ったら隠さないで行動に移します。その時になんですけど、私が敬語を忘れれば相手を突き飛ばします。手袋を外せば殴り飛ばします。リボンを外したら殺します。困ったら止めてください。止まりませんが」

 俯いて笑い、何故か少し楽しそうにワカナはシアラに伝える。そんな余裕はないかもしれないが、一つの例えとして言っている。これはワカナが関係ない誰かを殺すだろうと言っているだけだ。シアラには何も関係ないが。

『知らないわよ。だけど俺は優しいから止めてあげるわ』

「ありがとうございます」

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