炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

42節 天使と悪魔の昼寝坊

 イロクが目覚めると、何故か目の前にナノカがいた。部屋には自由に出入りできるとは言っても朝起きて目を開けたら顔を間近で除き込まれてるなんて驚くに決まっている。

「な,なんだ…? 」

「……時間をご確認ください。そうすればわかるので」

 ナノカの言葉は半分、いや、九割呆れていた。恐る恐る時計を見てみると昼前。昼前とはいえあと数分もすれば正午を迎える程度の昼前だ。

「……早く着替えて会議室に来なさいと大天使様に一時間以上前に言われまして、伝えに来ました。私は着替えもあるので出ていきますから来てくださいね? 」

「目が笑ってないですナノカさん。あの、怒んないでください。寝過ぎたことは謝るんで……出てくの早くない? 」

 朝から無駄にテンション上がるの大変だなぁ、とか思いながらとりあえず意識を他の方に向けながら座って目を閉じた。低血圧というものだ。

 朝弱いことを知っているとはいえ、あまりに遅いと怒鳴られる可能性があるからと、ノソノソと明らかに主張が激しい大悪魔の制服の方に歩いていった。

 ただでさえ制服は着にくいものなのにさらにその面倒さをプラスした最悪な福田とイロクは思っている。白いアクセント無しの完全真っ黒の服だ。

 急いで着ても十分弱かかる服を慣れない手つきで出来るだけ早く着ていく。ナノカが出ていってから三十分ほどたっている。時計を確認してイロクは急いでお団子を結って部屋を飛び出す。

 いや、飛び出そうとした。大悪魔は見た目だけでも偉そうに尊敬されるようにしなければならない。服の裾を整えて静かに扉を開けた。

「お、そ、い」

「やー、待たせたなー」

 何故か部屋を出るとその正面にシアラとナノカが待っていた。 

「ナノカが全部見てたから全部聞いたわよ? 思考放棄と現実逃避はやめてよね? 」

「いや、少しは理解できたんだから良いだろ? 」

「ナノカ」

 目が笑っていない笑顔でシアラはイロクに言いたいことを言った。あぁ、こわいこわい。

 理解ができたと言うイロクにシアラがナノカに目を向けた。ナノカが頷いたということは本当に理解したと言うことだ。何なのこの結束。

「じゃあ、今回だけは許すわ。俺の気が変わる前に会議室に行きましょう」

 結局目は笑っていなかった。

 シアラの行動に対するイロクの解釈はこうだ。

 すべてはイロクのため、ロロは良い子だからおまけ、他の民の結果は偶然。難しく考えるのをやめて単純にそういうことにしたのだ。それが正しい。

「シアラ……さん? 怒ってます……? 」

「もう怒ってないわ。それより公の場で変な態度とらないでくれる? 皆が見るわよ」

 その場には誰もいなかったが確かにそうだ。いや、それなら大天使が大悪魔の部屋の前にいるのも充分変なことだが。

「あ、ごめん」

 イロクは、姿勢をただして襟を何度かパタパタとさせてシアラの隣に並んだ。さっきみたいに斜め後ろから様子を伺うようにしてはただの部下にしか見えない。これでこそ天使と悪魔の上に立つ存在だろう。

 結局会議室に着くまで誰にも会わなかったが。

「ナノカ、仕事はさせとけ」

 仕事をしていれば誰かしらには会うはずなのに。そう思ってイロクはナノカに指示を出しておいた。

「……はーい。では仕事に戻るので二人でごゆっくりお話しくださいね」

 ごゆっくりとは言われても会議室の扉は目の前なのだが。扉くらい開けていってもらいたいものだ。

 仕方なく怒られている立場なのでイロクが扉に手を掛けて開くと、中には神がいた。

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