炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
39節 天使の白い矢
イロクはだんだんと見ているのが辛くなっていった。目を伏せ、聞こえないと言い聞かせ、ただそこにいた。
「──え」 
周りの声は突然大きくなり、イロクのとなりの悪魔も何かを叫んでいた。
「すまない、頼むから少し静かにしてくれな――」
何も聞きたくないイロクにとってその叫びは不快でしかなかった。騒ぐなとは言えない。が、せめて隣の悪魔には静かにしてもらいたい。
そのとき、イロクが顔をあげたことが間違いだった。
宮殿の中央。白と黒が真ん中で分断される配色。そこに相応しくない鮮やかな色が色水を溢したように広がっていた。
「ヒサ、先生のことは敬いなさいって俺教えたわよね? 」
誰にも聞こえなかっただろう声がイロクにだけは聞こえた。
その声の主、シアラは大天使の左胸に刺した矢を抜いた。
本当だったら血濡れている筈の矢が白く光っているのは何故だろう。シアラがそれを手放したら地面に落ちるよりも先に消えたのは何故だろう。
イロクはそんなどうでもいいことを考えていた。他にも、今シアラがこっちを見ていないか。とか楽しそうに笑ってるように見えるとか。
「ラウカぁ。お兄ちゃんが悲しむようなことはしないって俺との約束でしょ? 未来が見える俺にはそんなことしても無駄だって教えたわよね? 」
シアラは大悪魔の手を掴んでそう言っていた。その手で何をしようとしたかはわからないが、殺そうとしたのだろう。
何本ものトゲの付いた白い円盤をシアラは出し、大悪魔の顔目掛けて押し付けた。そして、視界を制限しているうちに左胸を矢で刺 す。
「ごめんね、ラウカはイロクくらい強いから顔潰しちゃった」
イロクはそんなシアラをじっと見て気づいていないが、周りの天使と悪魔はかなりのパニック状態になっている。
そんななか、その元凶の天使はイロクを見てにこりと微笑んでいた。
意識はあるのに意識が途切れる。聞こえるのに聞こえない。シアラの笑顔しか目に入らない。きっと頭は混乱している。
「何の騒ぎだ──」
そう言って金色の長い髪を持った黒い目の天使でも悪魔でもない者が降りて来た。この世界で一番の責任者の神様だ。代理が死んだ。だから来たのだ。
イロクに笑顔を向けていたシアラが神の方を向いた。高圧的だとしか思い出せない昔一度あっただけの神とシアラが話している。
今度こそシアラが殺されるのだとイロクは確信した。
もう見たくなかった。その場にいることを拒否した。
他の天使と悪魔のパニックに紛れてイロクはその場から走って消えた。宮殿を出て、シアラの小屋でもなく自分の家へ向かった。
誰もいない。誰も帰ってこない、訪ねてこない家で寝込んだ。体調が悪いわけでも眠たいわけでもない。それでも布団に入り、窓すら目に入らないように寝転んでただ時間が過ぎるのを感じていた。
どのくらい経ったか日が昇り、沈み、昇りを何度繰り返したか。イロクは一つのことが気になり、宮殿まで行くことにした。
久しぶりに制服に手を通す。シアラとお揃いのブーツを脱ぎ捨て、弟に贈られたブーツを履く。かなり身長が盛られるブーツだが気に入っている。髪を結うのが面倒だ。イロクのトレードマークとも言えるお団子はない。左目の青い目を光らせてイロクは家から出た。
「──え」 
周りの声は突然大きくなり、イロクのとなりの悪魔も何かを叫んでいた。
「すまない、頼むから少し静かにしてくれな――」
何も聞きたくないイロクにとってその叫びは不快でしかなかった。騒ぐなとは言えない。が、せめて隣の悪魔には静かにしてもらいたい。
そのとき、イロクが顔をあげたことが間違いだった。
宮殿の中央。白と黒が真ん中で分断される配色。そこに相応しくない鮮やかな色が色水を溢したように広がっていた。
「ヒサ、先生のことは敬いなさいって俺教えたわよね? 」
誰にも聞こえなかっただろう声がイロクにだけは聞こえた。
その声の主、シアラは大天使の左胸に刺した矢を抜いた。
本当だったら血濡れている筈の矢が白く光っているのは何故だろう。シアラがそれを手放したら地面に落ちるよりも先に消えたのは何故だろう。
イロクはそんなどうでもいいことを考えていた。他にも、今シアラがこっちを見ていないか。とか楽しそうに笑ってるように見えるとか。
「ラウカぁ。お兄ちゃんが悲しむようなことはしないって俺との約束でしょ? 未来が見える俺にはそんなことしても無駄だって教えたわよね? 」
シアラは大悪魔の手を掴んでそう言っていた。その手で何をしようとしたかはわからないが、殺そうとしたのだろう。
何本ものトゲの付いた白い円盤をシアラは出し、大悪魔の顔目掛けて押し付けた。そして、視界を制限しているうちに左胸を矢で刺 す。
「ごめんね、ラウカはイロクくらい強いから顔潰しちゃった」
イロクはそんなシアラをじっと見て気づいていないが、周りの天使と悪魔はかなりのパニック状態になっている。
そんななか、その元凶の天使はイロクを見てにこりと微笑んでいた。
意識はあるのに意識が途切れる。聞こえるのに聞こえない。シアラの笑顔しか目に入らない。きっと頭は混乱している。
「何の騒ぎだ──」
そう言って金色の長い髪を持った黒い目の天使でも悪魔でもない者が降りて来た。この世界で一番の責任者の神様だ。代理が死んだ。だから来たのだ。
イロクに笑顔を向けていたシアラが神の方を向いた。高圧的だとしか思い出せない昔一度あっただけの神とシアラが話している。
今度こそシアラが殺されるのだとイロクは確信した。
もう見たくなかった。その場にいることを拒否した。
他の天使と悪魔のパニックに紛れてイロクはその場から走って消えた。宮殿を出て、シアラの小屋でもなく自分の家へ向かった。
誰もいない。誰も帰ってこない、訪ねてこない家で寝込んだ。体調が悪いわけでも眠たいわけでもない。それでも布団に入り、窓すら目に入らないように寝転んでただ時間が過ぎるのを感じていた。
どのくらい経ったか日が昇り、沈み、昇りを何度繰り返したか。イロクは一つのことが気になり、宮殿まで行くことにした。
久しぶりに制服に手を通す。シアラとお揃いのブーツを脱ぎ捨て、弟に贈られたブーツを履く。かなり身長が盛られるブーツだが気に入っている。髪を結うのが面倒だ。イロクのトレードマークとも言えるお団子はない。左目の青い目を光らせてイロクは家から出た。
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