炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

36節 大天使と大悪魔の見かけ倒し

「心配ですか……? 」

 イロクがいなくなった資料室で大天使は悩んでいる様子の大悪魔に尋ねた。

「え、あ、ああ。本来なら僕が心配される側なんだけどな、爆発したから」

「シアラの死体が届かないことを祈りますか……」

 二人はさっきイロクが走って出て行った扉に手をかけた。そういえば、大天使がかけた鍵はあけられていないのにイロクが出て行ったということは無理やり開けられた。大天使としての力を使わなければ所詮こんなものかと落ち込む。

「そう落ち込むな、あのくらいの施錠なら僕でも解除できる」

「それはフォローじゃなくて追い打ちというんです……」

 もう開いている扉をゆっくり開けて大天使と大悪魔は資料室の外に出た。二人はまさかこの先で出待ちされているなんて思ってもみていない。

「大天使様、大悪魔様。先ほど狂ったみたいに笑ったイロクがここを猛スピードで突っ切っていったのですが何かあるのではないですか」

 心配そうな顔の名前も思い出せないほど地味な天使が大天使に尋ねた。そりゃそうだ。いつも冷静で殺し合いやカオルの相手をしているとき以外は比較的常識的に見える。一部の天使と悪魔を除けばただの出世しない力がある悪魔なのだ。

「問題ありません。イロクは仕事をしに行っただけなので……」

「解散。お前ら自分の仕事をしろ、この件はもう僕たちだけで平気だ。ナノカ、カオル、中央を使えるようにしろ」

 大天使と大悪魔は二人で顔を見合わせてからクスッと笑い、仕事モードの目をキリッとさせた表情に変えた。少なくとも見た目だけは仕事のできるかっこいい上司だ。

 現実では大天使は仕事はできるが時々病むし、大悪魔は寝込むことが多いから仕事はできない、兄に対してのわがままがひどい、下手すりゃ死ぬ。イロクやカオルやナノカは下っ端天使と悪魔の尊敬を何度折りたくなったことか。自分達も尊敬されているから言ってはいないけれど。

「……はい。掃除をしてセッティングをしますので、大悪魔様、用途を教えてください」

「裁判ですよ……」

 ナノカは大悪魔に尋ねたのに答えたのは大天使だった。

「……かしこまりました、大天使様。では、私たちは準備に取りかかりますので……」

 お前が答えるなと言うような顔をしているナノカを見てカオルが大天使の言葉に答えた。

「あ、ナノカ待ってくれ」

 下っ端が全員部屋からいなくなったことを確認するとイロクはナノカを呼び止めた。

 ナノカがその方を見ると大悪魔が踞っている。

「はぁーーーーーーー。どうしたんですか、大悪魔様」

「露骨に嫌な顔しないでくれ。僕の部屋から胃薬持ってきてほしいんだ」

 どうせそんなことだろうと思ったとナノカが大悪魔の方へ近づき、しゃがんだ。

「その程度なら常備してますよ、これで間違いないですね」

「ああ、ありがとう」

 兄はおかしい、兄の好きな天使は恐らく死ぬ、そして兄はそれを喜んでいる。弟であり責任を背負う身分の大悪魔には胃痛を回避できないほどの事態らしい。

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