炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

32節 悪魔と宮殿の資料室

「ヒサ! ラウカ! 話がある! 」

 人目も気にせずにつかつかと大天使と大悪魔の仕事部屋に入り、名前を叫んだ。他の天使や悪魔が聞いているなかでこう呼ぶのはおかしい。建前だけでも尊敬していなければならないのだ。

「イロク、私たちからも話があります……」

「ちょっと僕たちの質問に答えてもらう」

 イロクが入った部屋はピリピリと仕事モードの大天使と大悪魔が話し合いをしていていきなり入ったイロクのことを見ているところだった。そして、普段は感じない威圧を受けながら怒っているだろう二人に呼ばれるがまま仕事部屋の奥にある資料の部屋に連れていかれた。

「立場上、先に話を聞く」

「助かります。こっちに来てください……」

 大天使がイロクを部屋の奥に案内する。たしか奥には民や天使、悪魔の寿命をまとめたものがあったはず。天使と悪魔の寿命はあらかじめ決まっているわけではないから死んでから記録されるが。

「天使たちから連絡が来ていないと、数日前言いましたよね……」

「内容が同じようで安心した。言ってたな」

「兄ちゃん、なにか知ってるのか? 」

 いつもは整理されているのに何故か散らばっている特に新しい資料を拾いながら大天使は説明を始めた。大天使が言っている天使は小屋でイロクがすでに見ていた。話す内容はまったく同じことだ。大悪魔はイロクに何を知っているのか問いただした。

「皆死んでたんだろ、天使に殺されて。ついでにそこペアの悪魔も皆生け贄として」

 小さくため息をついてからイロクは右手を腰に当てて話した。そして、言い終わることとほぼ同時に自分の額を左指で軽く叩いて。

「あ、角だ」

 前まではなかった白くて小さい角が前髪を掻き分けるように二本生えていた。本体でないときにはどうしてもなかったらしい。


「直るなんて思ってませんでしたよ。昔の大悪魔様にやられた傷……」

「傷ってか……バラバラ」

「あのときから兄ちゃん同じミスしてるんだよな」

 処分すべき資料と処分してはいけない資料を間違えて焼却するというミスをイロクはこれまでに両手も両足も使っても足りないほどしている。記念すべき十五回目のミスの時に前の大悪魔にバラバラにされたのだが、なんとか影だけ残って生きていたので本体の欠片を少しずつ集めながら仕事をしていた。

 そして、その間にも同じミスをしてつい最近にも同じミスをしたばかりだった。

「話がそれましたね。イロクが言った通りです。そして、寿命が変わった民が大勢います。おそらく以前あなたが焼却して始末またものにもあったと思われます」

「私は関係ないぞ。その証拠にその事をこうして急いで報告に来てる」

 イロクは、鋭い疑いの眼差しを向けられていることに気がつくと両手をあげて手のひらを見せながら無実を証明しようとした。

「いいよ、ナノカに聞けばわかるしさ。そもそも僕は兄ちゃんのこと疑ってないし」

「私も疑ってるわけではありません。念のため確認しただけです……」

 それを疑うって言うんだ。という言葉をグッと飲み込んでイロクは大天使の手から資料を取って読み始めた。天使悪魔天使悪魔天使悪魔と綺麗に交互に殺されていた。

 何でこうも几帳面に殺せるのか。と思いながらイロクは、名前と人数を確認した。

「これ下にいたの全員じゃないか」

「はい。大事件として認識していいですね」

「バカ、事件で済むわけないだろ。あとは任せるから勝手にやってくれ」

 事件どころか同族殺しの禁忌に触れている。シアラの命はもうないだろう。そこにいる三人は言葉に出さずに説明した。

「兄ちゃんの話聞いてない」

 イロクが資料室を出ようと扉に手をかけたとき、肩に大悪魔の手が置かれた。逃がさないと言わんばかりの圧を当てられている。

「ダメか」

 イロクはその場から逃げるのに失敗した。

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