炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

17節 天使と悪魔が呆然

「そういえば、初日から思っていたことがあるんだが、言っても良いか? 」

 体力も話題も切れ始めた四日目に突入した頃、イロクが無意識の内に聞いていた。恐らくもう本来の目的は忘れているだろう。

「……どうぞ……」

「昔と矢の形変わってないか? もうそれ針だろ」

 射つはずだった矢を一本手にとってNo.2はよく見た。以前戦っていたときにはもっと矢の形を模していたが、今では白くて少し大きな針のような形をしている。こっちの方が気づかれないように音が出ずに素早く放てるからだ。

「……進化は続けるものですよ。気にしたら負けです……」

「そういうものか。顔色もよくなってきたし、No.2もそろそろ限界か? 」

 イロクは、飛んでくる矢を防いでいる影の真ん中で行儀よく足を抱えて座っていた。そこから顔を上げてまっすぐ見上げた先、飛んでくる矢の中心にいるNo.2はふわふわと浮かびながら話していた。

「……まあ、はい。あなたも眠たそうですね、限界ですか? ……」

 どの方向からも矢が放てるように浮いてはいるが、その体勢は重力に任せてダランとしているNo.2はイロクの方を見て言った。この二人はそれぞれ疲れが顔色と眠気に出る。

 お互いに疲れてきたのを確認したNo.2は、ためしに一本手に取って思い切りイロクに投げてみた。

「そろそろやるか? 」

 その飛んできた矢を手で止めてイロクは立ち上がった。そして、No.2の方を睨むように見て言った。

「……攻撃するのも飽きましたし、やりますか……」

 No.2は、体勢をきちんと立っているときの姿勢に直し、床に足をついた。軽く首を回して鈍りかけた体を整えた。その周りには、白い矢がぐるぐると回っている。

「そうだな。やるか」

 イロクがそう言って軽く手を握ると、イロクを中心に床がグツグツと黒い湯が煮だつように盛り上がった。それに反応してNo.2は後ろに跳ねる。回っている矢を一本取って黒い部分に刺すとその周辺は浄化され、元の色に戻る。

「……そういえば、今こうして戦ってるわけですが、どうしてでしたっけ……」

「さあ、忘れたな。まあ、どうせ後で思い出すだろ。あんまり喋ると舌噛むぞ」

 黒い靄をNo.2に向けて投げながらイロクはNo.2の疑問に答えた。イロクは黒い床に立ちながらNo.2の隙を探し、攻撃を仕掛ける。No.2は黒い床の面積を減らしながらイロクの攻撃を警戒する。

 攻守逆転で物理攻撃が主になるこれはすぐに決着がつく。どちらかの攻撃が相手に当たればそこで決着だ。お互いの特性上、命の賭けができないため、こうすると昔決めたらしい。

「……今までの苦労はなんでしょうね……」

「体調でも悪かったのか? いつもなら避けるのに」

 イロクが試しに出した拳がNo.2の脇腹に当たった。まさか当たるなんて二人と思っていなかっただろう。少しの間二人はポカンとしてから少し誤魔化すようにNo.2が口を開いた。

「……うるさいですね、私の負けで構いません。お陰で戦ってた理由を思い出しました。大天使様のところに案内するので付いてきてください……」

 戦う前までは青白かった顔を赤く染めてNo.2は飛び始めた。

「はいはい、じゃあ案内してもらおうか。No.2」

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