炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

12節 天使と悪魔は実力主義

「あぁ! イロク様が来られた! 」

 イロクが宮殿に着くと宮殿勤務の多くの悪魔がイロクの周りに集まった。

「やめろ。私の立場はあなた達よりも低い、様を付けて呼ぶのは上の者だけにしてください」

 報告や集会で宮殿に行くときには誰もイロクのことを気に止めないが、争いの時は違う。争いを終える救世主として敬われ、囲まれる。

 この対応がイロクは嫌いだ。どんなにくだらない理由で起きた争いだと言っても争いを終えることが大切なはず。その事を他の者にそれを期待し、押し付けて待つだけで自分は何もしない。

 こんな環境に長くいることを拒み、いつも通りなら大悪魔に果物を与えるだけだろう。だが、今回は違う。大悪魔の怒りを最低限に払いのけて近づくのはやめ、大天使の方に進むことにした。

「今回の怒りは私でも無傷では払い除けきれないな。まだ大天使の方に進んだ方がましだ」

 他の悪魔にも聞こえるように独り言を言ってから宮殿の中で天使が暮らす場所まで飛んでいった。やはり、誰もついてくることはない。

「あ、なんだ、イロクか。珍しいな、お前が争い中にこっちに来るなんてさ」

 入り口に着くとイロクは一人の天使に話しかけられた。見覚えがあるような無いような。シアラのように変な特徴があれば覚えられるのだが、天使はみんな同じようにしか見えないらしい。

「……聞きたいことがあってな」

 あるわけもないが、時間稼ぎのために適当に質問を考えた。

「何だ? 僕はただここに配置されただけだから詳しいことは知らないが」

「構わない。気になることがあるだけだ。知らないなら大天使に直接聞く」

 特に気になることがあるわけでもないが、いつもより大悪魔の怒りが強かったことだけは確かだった。なので、イロクはそれを確かめることにした。

「争い中だけど様くらい付けようぜ、イロク。確かに今回は大天使様が原因ではあるけどよ」

「大悪魔様も大概だろ。……で、その原因について聞かせてもらおうか」

 実は大まかな内容は後輩から聞いていたが、天使目線で聞くのも悪くない。そう思っただけだ。

 イロクは、白くて固い床に厚底の靴をコツンと音をたてて降りた。悪魔の黒い床に降りるのとはまた違う気分になる。音がよく響いて誰かがそこにいることが伝わるようになっている。

「僕も詳しいことは知らないけどね。大天使様が大悪魔様の大切にしてた大好物を勝手に食べたらしい。大天使様曰く、二人の共有の場にあったらしいけどな」

 ……果物を大切にとっておいたら腐るだろ。イロクはそう思いながらもそれを口には出さなかった。何かが矛盾している気がするが、又聞きだからだろう。話の真偽は本人たちに話を聞くしかない。

「そうか。じゃあ、大天使のところに通してもらえるかな? 」

 ニコリと優しく微笑んでイロクは目の前の天使に頼んだ。

「いや、通すわけないだろ。一応それでもお前は悪魔なんだから」

「……チッ」

 通してくれなければそれでいい。争いを長引かせるとこが出来てシアラの頼みを聞けるから。でも勝てるとわかっている戦いをするのはイロクの趣味ではなかった。力加減に気を付けないと宮殿ごと壊しかねない。

「早く争いを終わらせたいのは僕もだけど大天使様の命令には背けないからな。無理だろうが、かすり傷一つくらいは付けたいよ」

「殺さないようには頑張るさ、無理だろうけどな。私相手にお湯が煮だてばいいな」

 種族が違えば殺し合いは罪にならない。それが争い中ならなおさらだ。通すなという命令を守るために敵わない相手にも勝負を挑まなければならない。

 天使と悪魔は実力主義なのだ。

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