炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

6節 天使と民の友人

「……ようやく行ってくれたわね。さて、ロロのところに行くか」

 シアラはそう言って立ち上がり、待ち合わせ場所だった倉庫から出た。その姿には天使の輪も羽もない。服装も大天使に支給される天使の制服ではなく、綺麗ではなく、汚くもない中級くらいの身分の服装だ。

「ロロ、いる? 」

 シアラは、もといた倉庫からはそう離れていない集落にあるひとつの小さな小屋に入って声をかけた。滅多に笑わないはずの顔に微笑みを浮かべていた。

「シー? いるよ」

 今にも消えそうな細い声がシアラの呼び掛けに答えた。

「ロロ! どうしたの? 昨日よりも顔色が悪い……」

「シー、ごめんね。シーがロロのためにくれたご飯、お貴族様にとられちゃった……」

 この世界には貴族が有利になる法しかない。貴族は自分の管轄している土地の民から何を奪ったとしても法で裁かれない。そのため、多くの民は食料不足で死んでいった。

「ロロ……気にしないで、食べ物ならいくらでもあげる。それに……あいつなら明日死ぬから」

「あはは……シーの予言なら間違いないね。じゃあ、いただきます」

 ロロはシアラの渡した果物を美味しそうに頬張った。

 ロロはただの民だ。だが、ロロはシアラの友人だ。初めはただの指名の対象でしかなかったが、いつのまにか友人になっていた。けれど、シアラは天使である限り寿命までしか助けることはできない。それは、シアラの悩みだった。

「ロロはたくさん食べなきゃダメ。他の人が来てもこの果物はあげちゃダメだからね」

「シー今日はもう行っちゃうの? また明日、お話ししに来てね」

 ロロはまだ幼い。生まれてすぐから命の危機だった彼女のためにシアラは食べ物を与え、生かしていた。ときどき貴族にせっかく渡した食料を奪われること以外はムカつくこともなく仕事をしていた。親のいないロロにとっては母親や姉のような存在だ。

「明日は仕事があってこれないから、明後日になっちゃうけど、俺が来なくてもちゃんと食べて寝るんだよ」

「うん。シー、バイバイ」

 ロロが元気に手を振るのをシアラは笑顔で返し、その小屋から出た。

(ロロの寿命はあの病弱なからだには長すぎる。神と大天使は何を考えてるのか。長い寿命を与えるなら健康なからだと金も与えろよ)

 いつ死ぬかもわからない病気と環境なのにロロはまだ死ぬことができない。空腹と病気で辛いはずなのに元気に笑顔を見せるロロのためにシアラはあることを計画していた。

「明日、イロクに少し相談してみるか」

 倉庫に戻ったシアラは隅に座りながらそう呟いた。

 情が弱いのは、そうかもしれない。ただの民のためにこんなことを計画するなんてただの阿呆かもしれない。私利私欲のためにこんなことするなんて貴族よりもゴミかもしれない。だけど、たった二人の友人のため、仕方がない。

 シアラは決心した。

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