炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

42節 これだから若者は

「笑ってる暇があるなら話せ。雑談はそのあと」

「ウフフ。そうね、この世界の一年は地球での五秒くらい。初代神のいる世界では二、三秒くらいだから後で無駄話する時間くらいはあるわね」

「は? 時間はないんじゃ……」

 ずっと時間がないと言っていたヒトミが無駄話をする時間はあると言うのだ。アルゴライムが考えられるのは一つ。騙されていた。

 無性に腹が立っていた。何度騙せばこいつは気がすむのか。一度殴っておけば、もう懲りてこんなバカなことはしなくなるのではないか。いや、それで懲りるのならば、既にこんなことはしないはずだ。

 などとアルゴライムの中で三秒間ほどの論争が行われ、ヒトミはバカであると結論付けられた。これはもう二度と覆されないだろう事実としてアルゴライムの心に深く強く付けられた。

「実は、私が知ってる世界で一番時間が早く流れる世界に来てるのよ」

 まるで誉めてほしそうにする子供ガキのようにフフンと自慢するようにヒトミは言った。

「ソウデスカ、デハ、ハヤク、ヨウケンヲ、ハナシテクダサイ。ハヤク」

「なんか、片言になってない? 」

「ナッテナイ。ハヤク」

 結論付けた後、アルゴライムは考えることをやめることにした。

「なんか、管理者達と話し方が似てるからやめてくれない? 消したくなるから」

「……」

「無言もやめてくれない? その目も。怖いから」

 目を開く気もないままの表情でアルゴライムは静かにヒトミを見た。見ていたのは目ではなく、ぼんやりと全体をだ。何を考えているのか全くわからない顔でそんなことをされると、色々な意味で怖い。

 例えば、ヘッドホン着けながら自転車をこいでいて、その自転車を止めて歩いていたら巡回中の警察に会い、目が合うくらい怖い。そのくらい、地味に怖い。

「いや、私もあなたの素が見えないので怖いんですよ? 話に聞いていたあなたと、第一印象のあなた、今のあなたはすべて別なので、かなり謎です」

 アルゴライムがガタンと身を揺らし、ヒトミにそう言うと、ヒトミは嗤った。そして、言った。

「仕方ないじゃないの。わからなくなるくらい長い時間を生きて、覚えられないほどの情報を得て、普通でいられるわけがないじゃないの」

 その言葉を言っていたヒトミは、悲しそうで、ただの寂しがりな一人の少女のようだった。

 そうだ。魔術師として生きていて突然神の権力を持ち、神になったのだ。しかも、望んですらいないのに永久とも言える命を得てだ。それは、寂しい。

「それも、最近まではアレに操られてたと言うか、洗脳されてたと言うか……だったし。普通でいられるわけがないじゃないの。全く……これだから若者は」

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