炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
8節 『ゆーちゃん』シリーズ
「よくわかりましたね、貴女の大好きな『ゆーちゃん』シリーズですよ。私には面白さは理解できませんでしたけど」
ズィミアは嫌みを言ったつもりだった。しかし、やはりアルゴライムには伝わらず、自信満々の笑みで返された。
「わからない人にはわからなくて良いんですよ。それが面白いことには変わらないのですから」
「……そうですか。これ、差し上げます。暇潰し程度に読んでください」
ズィミアは、本を机の上に並べてアルゴライムに渡した。もう十回ずつは読んだであろうこの推理小説。何度読んでも飽きることはないようだ。
「ああ、そうですね。暇潰しどころか私にとっては至福の時間ですけど」
「そうですか。じゃあ、私は用事も済ませたのでさよなら。用があったら読んでください」
そう言ってズィミアはそこを普通に歩いて去っていった。それを見送り、見えなくなったことを確認したアルゴライムは、ニカッと笑って本を手に取った。
そして、どこで覚えたのかこの空間に含まれる魔力を使って大きなソファを出した。誰にも認識されないことを理解したからか、そこに思いきり飛び乗って横になって本を読み始めた。
『ゆーちゃん』シリーズとは、作者の突然の死によって打ち切られてしまった推理小説、『殺し屋』シリーズの愛称だ。この愛称は、主人公の殺し屋が"ゆう"という名を名乗り、作者が"ゆーちゃん"とネットなどで呼んでいることから付けられた。
突然打ち切られてしまい、多くのファンが泣いた。けれど、完結しなくて良かったのかもしれない。この話は、何かを目的とした殺しを続ける"ゆう"のその目的を少しずつ解き明かしていくシリーズだった。
死んでしまったから誰も知らない。ゆうの本当の名前も、ゆうの本当の目的も知らない。だからこそこの小説が小説の話に収まっているのだとアルゴライムはどこかで確信していた。知らなくて良い。初めは知りたいと思っていたが、今ではそう思うほど本来の目的などどうでもよくなっていた。
作者の名前は何だったか。確か、"不知火 あゆみ"っていう名前だったはずだ。本の背表紙にもきちんとそう書いてある。ズィミアがこの本を偽装していなければの話だけれど。
「あー、やっぱり面白いですね。短編集になっているので読みやすいですし、その中できちんと話も繋がっている。少し頭を使わないと読めない話ですが、ゆーちゃんが本当に良い性格してますね」
アルゴライムは第一話を読み終えて、誰に伝えるわけではない感想を一人で呟いていた。その背後に、何者かが近づいていたけれど、アルゴライムは園子とに全く気づかず、今度は座って第二話を読み始めようと再び本を開いた。
「何をしている? 」
ビクッ
知らない声にいきなり話しかけられ、アルゴライムは驚いた。誰もアルゴライムのことを認識できないはずなのに、アルゴライムの知らない誰かが話しかけてきたのだ。
「あ、あなたは? 」
「私はナナ。何をしている? 」
アルゴライムに話しかけた声の持ち主は、アルゴライムの質問に答えると、再びさっきの質問を繰り返した。
「ナナさんっていうのですね。あなたこそ、ここで何をしているのですか? 」
「見回り。何をしている? 」
アルゴライムがナナの質問を無視して別の質問をしても、怒ったり苛立つ様子はなく、答えて同じ質問をするという繰り返しだった。アルゴライムは確信した。ナナは、感情のない管理者だと。
「私は神の指示でここで自由に過ごしています。あなたはなぜ私に話しかけたのですか? 」
「そう。神の指示で。私は、見回りをする者。あなたが不振な行動をとっているからエラーだと思い、話しかけた。神の客ならばそれで良い」
そう言うと、ナナは去っていった。アルゴライムはなんとなく、会話をしている気がしなかった。会話というよりも、AIと話しているような気分だ。定型文が設定されていて、それ以外は質問に答えるだけ。アルゴライムは、神の客だなんて一言も言っていない。しかし、そう判断された。神の指示という言葉がそう判断したのだろう。管理者とは、ほとんどがこんな風に会話をしているようでしていない者なのだろう。
「暇だから少し仕掛けてみたのだけど、動じないのね、貴女」
ヒトミが突然アルゴライムの前に現れてそう言った。
「仕事は良いんですか? 」
「任せてきたわ」
「てきとうな……。そんなことより、あれはいったい何なのですか? 気になって仕方がないのですけど」
神の仕事とは誰にでもできるものではないはずだ。それなのにこのヒトミのてきとうさには、不安さえ感じる。
「良いのよ。あれはね、名無。私が見たはじめのエラーで、自分には感情がないと思い込んでる管理者の一人よ」
アルゴライムの座っているソファにゆっくりと座りながらヒトミが言うと、ため息をついてヒトミは続けた。
「……やっぱり定型文しか話さないのね…………。それにしても私の客人ね……初めてあの定型文が使われた気がするわね」
「でしょうね。まあ、本でも読んでアノニムを待ちましょうか。私は読みたいので読ませてもらいますけど」
ヒトミはまだ話したそうにしていたけれど、それを強制的に打ち切ってアルゴライムは、本の世界に入っていった。そんなに面白いかな? ヒトミはそんな疑問を持ちながらも、アルゴライムが読んでいる本をコピーして第一話から読み始めた。
ズィミアは嫌みを言ったつもりだった。しかし、やはりアルゴライムには伝わらず、自信満々の笑みで返された。
「わからない人にはわからなくて良いんですよ。それが面白いことには変わらないのですから」
「……そうですか。これ、差し上げます。暇潰し程度に読んでください」
ズィミアは、本を机の上に並べてアルゴライムに渡した。もう十回ずつは読んだであろうこの推理小説。何度読んでも飽きることはないようだ。
「ああ、そうですね。暇潰しどころか私にとっては至福の時間ですけど」
「そうですか。じゃあ、私は用事も済ませたのでさよなら。用があったら読んでください」
そう言ってズィミアはそこを普通に歩いて去っていった。それを見送り、見えなくなったことを確認したアルゴライムは、ニカッと笑って本を手に取った。
そして、どこで覚えたのかこの空間に含まれる魔力を使って大きなソファを出した。誰にも認識されないことを理解したからか、そこに思いきり飛び乗って横になって本を読み始めた。
『ゆーちゃん』シリーズとは、作者の突然の死によって打ち切られてしまった推理小説、『殺し屋』シリーズの愛称だ。この愛称は、主人公の殺し屋が"ゆう"という名を名乗り、作者が"ゆーちゃん"とネットなどで呼んでいることから付けられた。
突然打ち切られてしまい、多くのファンが泣いた。けれど、完結しなくて良かったのかもしれない。この話は、何かを目的とした殺しを続ける"ゆう"のその目的を少しずつ解き明かしていくシリーズだった。
死んでしまったから誰も知らない。ゆうの本当の名前も、ゆうの本当の目的も知らない。だからこそこの小説が小説の話に収まっているのだとアルゴライムはどこかで確信していた。知らなくて良い。初めは知りたいと思っていたが、今ではそう思うほど本来の目的などどうでもよくなっていた。
作者の名前は何だったか。確か、"不知火 あゆみ"っていう名前だったはずだ。本の背表紙にもきちんとそう書いてある。ズィミアがこの本を偽装していなければの話だけれど。
「あー、やっぱり面白いですね。短編集になっているので読みやすいですし、その中できちんと話も繋がっている。少し頭を使わないと読めない話ですが、ゆーちゃんが本当に良い性格してますね」
アルゴライムは第一話を読み終えて、誰に伝えるわけではない感想を一人で呟いていた。その背後に、何者かが近づいていたけれど、アルゴライムは園子とに全く気づかず、今度は座って第二話を読み始めようと再び本を開いた。
「何をしている? 」
ビクッ
知らない声にいきなり話しかけられ、アルゴライムは驚いた。誰もアルゴライムのことを認識できないはずなのに、アルゴライムの知らない誰かが話しかけてきたのだ。
「あ、あなたは? 」
「私はナナ。何をしている? 」
アルゴライムに話しかけた声の持ち主は、アルゴライムの質問に答えると、再びさっきの質問を繰り返した。
「ナナさんっていうのですね。あなたこそ、ここで何をしているのですか? 」
「見回り。何をしている? 」
アルゴライムがナナの質問を無視して別の質問をしても、怒ったり苛立つ様子はなく、答えて同じ質問をするという繰り返しだった。アルゴライムは確信した。ナナは、感情のない管理者だと。
「私は神の指示でここで自由に過ごしています。あなたはなぜ私に話しかけたのですか? 」
「そう。神の指示で。私は、見回りをする者。あなたが不振な行動をとっているからエラーだと思い、話しかけた。神の客ならばそれで良い」
そう言うと、ナナは去っていった。アルゴライムはなんとなく、会話をしている気がしなかった。会話というよりも、AIと話しているような気分だ。定型文が設定されていて、それ以外は質問に答えるだけ。アルゴライムは、神の客だなんて一言も言っていない。しかし、そう判断された。神の指示という言葉がそう判断したのだろう。管理者とは、ほとんどがこんな風に会話をしているようでしていない者なのだろう。
「暇だから少し仕掛けてみたのだけど、動じないのね、貴女」
ヒトミが突然アルゴライムの前に現れてそう言った。
「仕事は良いんですか? 」
「任せてきたわ」
「てきとうな……。そんなことより、あれはいったい何なのですか? 気になって仕方がないのですけど」
神の仕事とは誰にでもできるものではないはずだ。それなのにこのヒトミのてきとうさには、不安さえ感じる。
「良いのよ。あれはね、名無。私が見たはじめのエラーで、自分には感情がないと思い込んでる管理者の一人よ」
アルゴライムの座っているソファにゆっくりと座りながらヒトミが言うと、ため息をついてヒトミは続けた。
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