炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

6節 前の神

 前の神は、異常を発生させている者に神界から落とされたという事実を信じたく無かったのだ。だからか、落ちた世界を残った魔力を使って色々と変えてしまった。その世界の様子を偵察に行くことも不可能になってしまった。

 もちろん、その世界は消滅させなければならない。しかし、それも不可能なくらいに外部とのすべてが遮断されてしまい、その世界のなかだけでの輪廻が廻っていた。それは、特に問題があるわけでもなかったが、何とかして一人の生命体をその世界に送り込んだヒトミは知ってしまった。

 その世界は、神界を含むすべての世界を破壊し、無に返すためだけに存在していた。無に返すことは、何もなかったかのように消えてなくなるということ。つまり、消えたあと、誰の記憶にも残らず、何もない空間だけが残る。誰も困らない。しかし、一つだけ問題があった。

 神はいつの間にかそこに存在し、いつの間にか意思が生まれた。そして、今に至る。問題とは、神の存在があやふやだということだ。存在しなければいけないのに、存在意図が全くの不明。何故か存在している神のマニュアル。ヒトミとアノニムが考え抜いた結果、恐らくさらに上の存在がいる、という仮説まではたどり着いた。そして、すべてが無に返っては、その者の思う壺だということも、理解した。

 思い通りにさせたくない。そして、思い通りにすることが無いだろう最善手、それをアルゴライムに打たせようとしているのだ。

「理由はわかりました。ですが、その最善手というのが気になりますね。教えてはいただけないのですか? 」

 ヒトミから軽く説明をし終えると、アルゴライムは納得した表情を浮かべていた。しかし、自分が手を打つのに教えてくれない最善手のことが気になって聞いた。

「悪いけど、今はまだ生命体である貴女に教えることは無理ね。それと、アノニムが戻るまであと数日あるはずだから、くつろいでいるといいわ。でも……」

 言いかけたとき、ヒトミは立ち上がって目を瞑った。すると、机のある周囲五メートル辺りに、赤い線が現れた。

「その線からは出ないでね。貴女は生命体なんだから」

 ヒトミは、アルゴライムに忠告をすると、そのまま消えていった。恐らく理由はわかる。この赤い線内で結界のようなものが張ってあり、アルゴライムの存在を外部に漏らさないためだろう。

「数日ですか……。疲労で倒れますよ。それにしても、この数日をどう過ごせと? 」

 何もない空間。眠気もなければ、暇を潰せるような物もない。せめて本の一冊でもあれば。アルゴライムは願った。しかし、そんなものがあるはずもない。

コツっ

 そんな暇に怒りも表しているアルゴライムの元に、一人の来客だ。後ろから近づいていたため、足音が聞こえてくるまでその存在に気がつかなかった。しかし、この状況でアルゴライムに用がある者など一人しかいない。特定するのは、容易いことだった。

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