炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
3節 昔話をしようか
「個体名、ワカナ。貴女に神である私からひとつ、指示を下すわ。その前に、貴女には私のことを少しでも知ってもらわないと困るのよ。だから、少しだけ、昔話をさせてもらうわ」
ヒトミは、今までろくに見ていなかったアルゴライムの方をしっかりと向いて話した。昔話。アルゴライムにとって、長くて嫌なことを思い出すこの言葉は、大嫌いな言葉だった。少なくとも、この数日間では、いい思いなど全くしていない。けれど、聞かないという選択肢はなかった。
「聞かなければ話は進みそうにないですね。……これで、良いお茶とか椅子があれば、見た目は楽しいお茶会になるのですが、どうします? 」
神界では喉が乾くという概念がない。そして、重力という概念もないため、皆そこに辛うじて足をつけているような状態であり、立ち続けていても一切疲れない。そんななか、アルゴライムが話を聞く条件として提案したのはお茶と椅子だった。
「……個体名errorNo.20、アノニム。用意してちょうだい。もちろん、地球の物を用意してね」
「はいはい。全く……アルゴライムはやっぱり面倒なやつだな。良いけどさ」
アノニムは、ヒトミに命令されて渋々魔力を具現化し、机と椅子。そして、色も香りも温度も絶妙な、美味しそうな紅茶も出した。
満足そうな笑みを浮かべて、アルゴライムは、椅子に座り、紅茶を口にした。
「アールグレイですね。私、好きなんですよ」
アルゴライムの笑みは、さらに明るいものになった。それを見てか、ヒトミとアノニムも座り、紅茶を飲んだ。
「あら、本当に美味しい。たまには良い仕事するのね、アノニムも」
「たまには余計だ」
三人は、加減も知らないように紅茶を飲んでは注ぎ、飲んではまた注ぐということを繰り返していた。そして、誰もそんなこの状況に疑問を持っていなかった。
しかし、アノニムがいきなり立ち上がった。
「私も仕事に戻ろうと思っていたのですが、戻らなくて正解でしたね。貴女達だけを置いていったら、次の私の休みまで延々とこの紅茶を飲むという作業を繰り返してますよね? 」
アノニムの大声が、響くことはなかった。どこまでも壁がなく、続く空間だからだと思うが、周りを歩いている者が誰も反応を示さなかったからかもしれない。聞こえていないわけではない、しかし、一切の興味を持たないのだ。
「まあ、私はそれでも良いのよ。神を消滅させる理由なんて無いわけだし、アルゴライムはここにいるし」
ヒトミは、紅茶を飲みながら、マイペースに答えた。
「そういうわけにはいかない。それに、いいから昔話をしてくれ。私が仕事から戻るまでにはその話を終わらせておくんだ。いいな」
ほとんど捨て台詞のようにアノニムは言って、どこかに消えてしまった。面倒くさがりやと理不尽が二人、この空間に残された。話をしないのもするのも二人の自由ではあるが、しなかったら後が怖い。
数分の沈黙と数杯の紅茶の後、ヒトミは、ゆっくりと口を開いた。
ヒトミは、今までろくに見ていなかったアルゴライムの方をしっかりと向いて話した。昔話。アルゴライムにとって、長くて嫌なことを思い出すこの言葉は、大嫌いな言葉だった。少なくとも、この数日間では、いい思いなど全くしていない。けれど、聞かないという選択肢はなかった。
「聞かなければ話は進みそうにないですね。……これで、良いお茶とか椅子があれば、見た目は楽しいお茶会になるのですが、どうします? 」
神界では喉が乾くという概念がない。そして、重力という概念もないため、皆そこに辛うじて足をつけているような状態であり、立ち続けていても一切疲れない。そんななか、アルゴライムが話を聞く条件として提案したのはお茶と椅子だった。
「……個体名errorNo.20、アノニム。用意してちょうだい。もちろん、地球の物を用意してね」
「はいはい。全く……アルゴライムはやっぱり面倒なやつだな。良いけどさ」
アノニムは、ヒトミに命令されて渋々魔力を具現化し、机と椅子。そして、色も香りも温度も絶妙な、美味しそうな紅茶も出した。
満足そうな笑みを浮かべて、アルゴライムは、椅子に座り、紅茶を口にした。
「アールグレイですね。私、好きなんですよ」
アルゴライムの笑みは、さらに明るいものになった。それを見てか、ヒトミとアノニムも座り、紅茶を飲んだ。
「あら、本当に美味しい。たまには良い仕事するのね、アノニムも」
「たまには余計だ」
三人は、加減も知らないように紅茶を飲んでは注ぎ、飲んではまた注ぐということを繰り返していた。そして、誰もそんなこの状況に疑問を持っていなかった。
しかし、アノニムがいきなり立ち上がった。
「私も仕事に戻ろうと思っていたのですが、戻らなくて正解でしたね。貴女達だけを置いていったら、次の私の休みまで延々とこの紅茶を飲むという作業を繰り返してますよね? 」
アノニムの大声が、響くことはなかった。どこまでも壁がなく、続く空間だからだと思うが、周りを歩いている者が誰も反応を示さなかったからかもしれない。聞こえていないわけではない、しかし、一切の興味を持たないのだ。
「まあ、私はそれでも良いのよ。神を消滅させる理由なんて無いわけだし、アルゴライムはここにいるし」
ヒトミは、紅茶を飲みながら、マイペースに答えた。
「そういうわけにはいかない。それに、いいから昔話をしてくれ。私が仕事から戻るまでにはその話を終わらせておくんだ。いいな」
ほとんど捨て台詞のようにアノニムは言って、どこかに消えてしまった。面倒くさがりやと理不尽が二人、この空間に残された。話をしないのもするのも二人の自由ではあるが、しなかったら後が怖い。
数分の沈黙と数杯の紅茶の後、ヒトミは、ゆっくりと口を開いた。
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