炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

50節 任務、完了いたしました。

「リリス、待たせたな。良いものを持って帰ってきたぞ」

 アノニムは館だったものの中に入ると、迷わずに地下の図書室に向かった。案の定、本を山のように積んでいるその真ん中にリリスはいた。

「そんなに遅くなってないわよ。待ってないわ。ところで……良いものってな──」

 本の間からひょい、とリリスが顔を出してアノニムを見ると、リリスはまるで石になったかのように固まってしまった。それは、動けないだけのアルゴライムを死んでいると勘違いしたからだ。

「あんたの探していたアルゴライムだ。良いものに違いはないだろ? 」

ガッ

「これ、貴女がやったの? 」

 リリスは、アノニムの腕からアルゴライムの身体を乱暴に奪い取った。触っていても話せるような状態だとは気がつかない。焦っているのか、感情が高ぶっているのか、正確な判断ができそうな状態ではなかった。

「いいや、違う。向こう側の敷地で倒れていたから持って帰ってきたんだ」

「ライムを物扱いしないで! 」

「死体は物だ」

 アノニムの発言に怒ったリリスが大声を出して反論した。しかし、その言葉を待っていたと言うかのように、アノニムは間を開けずに答えた。

「そんなことないわ! だって生きていた吸血鬼なんだもの! ≪闇よ、暗き重いその力で目の前の者を潰せ! ≫」

ズンッ

 リリスが唱えた詠唱は、闇を利用した重力の魔術だ。中級程度の弱い魔術ではあったが、アノニムが相手であろうと、一瞬の隙を作るには便利な魔術だった。

「≪闇よ……≫っ! 」

 強めに潰し、煙が上がったせいでよく見えなかったが、アノニムは平然とそこに立っていた。そして、にこにこと笑顔を浮かべていた拍手をしていた。

「才能あると思うよ。その重力魔術さ、使いようによってはなんでも潰せる。……本当にもったいないよ」

「は? ……アノニム、貴女何者なのよ! それに、っ! 」

ズブッ

 リリスが話していると、いつの間にか刃渡りの長い、剣のような物がリリスの胸を貫いていた。

「……え………………? 」

「リリスが死ぬことがわかっていたからもったいないと言ったんだ。あと、私はあんたたちの言う神にもっとも近い、しかし神じゃない。管理者というものだ」

 アノニムは、何故かパアッと笑顔になった。アルゴライムの魔術で作った剣が、リリスの身体を貫いたことがそんなに面白いのか、作戦が成功したことがうれしいのか、生命体の笑顔そのものだった。

 そして、アノニムはアルゴライムの魔力切断を切った。

「リース……」

 アルゴライムは、アノニムが魔力を解放したことを悟ると、リリスの名前を呼んだ。

「ライム! 貴女、生きてい……」

 血を流しながらも、リリスはアルゴライムに向けて普通に話続けた。しかし、途中まで話したところで、突然息絶えてしまった。アルゴライムが再び攻撃をしただけだ。しかし、今度は気づかれないように、超速効性の呪いをかけた。呪いを操るのは容易い。それがどんな呪いであってもだ。

「死んだよ、呪いの濃度をそんなに濃くしなくても死んだのに」

「念には念を入れただけです。死んだのなら用はありません、早く殺してください」

 アルゴライムは、目を開けることができることを知っていたが、そうはしなかった。死んでしまったリリスを見たくないだけだ。それも、自分が殺してしまったのだから……。

「全く、せっかちは嫌われるぞ」

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