炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

48節 強制

「やはり、アノニムはアノニムなのですね」

 アルゴライムは、声が笑っていた。表情は変わることがないが、笑っていた。

「そろそろ黙れ、館に着いたぞ」

 目を動かすことができないからアルゴライムは見えなかったが、血の臭いがすることと、アノニムが言っていることで、そうなのだろうと疑わなかった。実際、そこは館の目の前であった。

「ア、アノニム! ? いったい何をするんですか! ? 」

 アノニムは、アルゴライムの目を閉じた。唯一見ることができていた目の前の景色さえも閉ざされ、目の前すらも真っ暗な空間になってしまったアルゴライムは、動揺を見せた。

「暗いとこ、苦手だったかい? 」

「そういうわけではないのですが、普通に驚きます。せめて一声かけてからにしてください! 」

 嘘だ。アルゴライムには、若菜として地球にいた最後の記憶、暗闇と痛みの記憶は脳に根付いてしまい、トラウマと化していた。できれば早く消してしまいたい記憶ではあった。

「苦手でしょうけど、我慢してください。今のあんた、なかなかホラーだからな」

「え? 」

 ホラーとは言われたものの、全く心当たりのないアルゴライムは、何のことだかわからなかった。普通に話しているつもりだし、特に変な気も起こしてないからだ。そして、狂ってもいない。

「あのな、客観的に考えろよ? あんたは知り合いの目がパッチリと見開かれた状態の死体を見たいかい? 」

 想像してしまった。想像されたのは何故か榊 六日だったが、その目が見開かれて死んでいる姿をアルゴライムは想像してしまったのだ。

 吐き気がした。いや、実際にはそんなことなかったが、そんな気がした。想像とはいえ、明らかな死体を目にすることは初めてだったからだ。

「……調子悪そうだね、まあ仕方ないか。それと、話すのもやめてほしい。無表情で口も動いてないのに声が聞こえるのは、私から見ても怖い」

「……確かに、それは認めます」

 無表情の屍から声が聞こえるなど、ゾンビのようなものだ。ただ腐っていないということだけで、死に戻りのことには変わらない。それは、常人の思考では、明らかに恐怖というものを感じるものだった。

「そういうことだ。もう黙っていてな、心の声なら聞こうと思えば聞けるわけだからな」

「そうなんですか! ? じゃじゃあ、色々と知ってるわけですよね、色々と」

 心の声が聞こえると言うアノニムの言葉を聞いて、アルゴライムはつい大声を出してしまった。

「うぅるっさい! 少し黙っていてくれな、やりたくなかったが、強制だ」

「っ! ? 」

 アノニムがパチンッと指を鳴らすと、アルゴライムの声が突然でなくなった。いや、それが死んだ身体としては当然のことなのだが、アルゴライムは驚いていた。

「悪いが、魔力を切らせてもらった。攻撃以外は何もできないようにした。その声は魔力の応用だったんだ。無意識だったようだがね」

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