炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
36節 孤独
「いいですよ……もう」
ヒナが目付きを緩めて諦めたようにそう言った。アルゴライムはずっとニコニコとしながら聞き返した。
「じゃあ、自分で言ってもらえますね? もちろん」
「……私は、今まで一度も吸血鬼のことを恨んだことなどありません。メイリス様についてきたのは、殺されないようにするためだけです。どうせ他の方も同じですよ」
ヒナは、メイリスから少し離れて、少し目付きを鋭くさせて言った。メイリスの顔は、少し青ざめていて、周りの狼たちを見ていた。そして、その狼たちも顔を背けたまま、一匹もメイリスの方を見ようとしなかった。誰も味方はいなかった。メイリスは、その事実を叩きつけられたのだ。
その様子を、アルゴライムは無表情で見つめていた。アルゴライムは、純粋な恨みを持ち続ける者は決して嫌いではない。アルゴライムは絶対に理由をなしに生き物を傷つけたくないのだ。それなのに、メイリスは変わってしまった。
もしも、メイリスが純粋な恨みのまま、吸血鬼を嫌い続けていたのであれば、アルゴライムはすぐにメイリスを殺していた。そんな素直な魂は、消してしまうには惜しいと思っているからだ。だが、今のメイリスは違う。無くしてしまったとしても、惜しくない。アルゴライムはそう思ったのだ。
メイリスのようなタイプは、孤独を嫌うあまり、無意識に味方を作りたがる。そんな者に孤独を叩きつけたのだ。一番傷つかせるには、これが一番だとアルゴライムは知っていたのだ。
「メイリス、吸血鬼を嫌うことをやめにしてください。そして、私の頼みを一つ聞いてください」
「な、何よ。私は、吸血鬼を嫌わなければいけないの。貴女にはわからないでしょうけどね、約束があるのよ」
「そんなもの知りません。良いから聞いてください」
どうにか言葉を発しようとしているメイリスに向けて、アルゴライムはこれ以上無いほどに冷たくあしらった。その言葉に反論するほど、メイリスの気力は残っていなかった。
「私の屋敷に行ってリースを殺してきてください」
アルゴライムは、座り込んでいるメイリスの腕を拾うように掴んで冷たく淡々とそう言った。
「その間に私はお姉ちゃんと話がありますので、帰ってこなくて良いです。……早く行ってください。目障りですから」
話を聞こうともせずに、アルゴライムはメイリスを思い切り投げ捨てて、トキューバの屋敷のなかに入ろうとした。
「そんなに睨まなくても、メイリスとお姉ちゃん以外に用はないので何もしませんよ」
アルゴライムは振り向かずにそう言った。すると、アルゴライムを睨んでいた狼たちは、一匹、また一匹と屋敷から去っていった。誰も、メイリスの側によるものはいなかった。
「……可哀想な方ですね。私が用を済ませて出てきたときにそこにいたら、そのときには殺しますからね」
アルゴライムは、メイリスに向けてそう言うと、屋敷の中に入っていった。
屋敷の中は薄暗く、洋風のお化け屋敷のような雰囲気が漂っていた。キューバルは地下のどこかの部屋にいる。そういうことだけは、アルゴライムにもわかっていた。が、どこから地下に降りていくのかがわからなかった。
「隠れてないで出てきてくださいよ。案内もしてほしいですし」
ただでさえ暗い廊下にある影に隠れて数人の子供がアルゴライムのことを見ていた。メイリスに言っていたときとは違い、優しい声で子供に問いかけた。
「……お姉さん誰? 」
「誰々? 」
「メイリス様のお友だち? 」
「お姉さん人間? 狼? もしかして吸血鬼さん? 」
子供たちは、アルゴライムが声をかけると、口々にアルゴライムに聞き始めた。鬱陶しいとも思いながらも、アルゴライムはその子供たちをあやそうとした。
「吸血鬼だったらだめだよ! メイリス様がお話ししちゃダメって」
「あの地下室の吸血鬼もそうだもんね! 」
「君たち、お願いがあるのですけど、良いですか? 」
『地下室の吸血鬼』という言葉を聞いて、アルゴライムは子供たちに問いた。すると、子供たちはまた口々に答えた。
「何々? 」
「地下室に行きたいの? 」
「吸血鬼に会いたいの? 」
「それならこっちだよ! 」
アルゴライムは聞いていないのに答えが全て返ってくることに子供の無邪気さと単純さを思い知らされた。少し子供は怖いなと思いながらも、可愛らしいとも思っていた。
「ありがとうございます。話さなければならないことがあるのです。案内してくださったら、もう上で遊んでいてくれて構いませんよ、一人で帰ることができるので」
「わかった! 」
「えっとね、ここを降りたらその吸血鬼がいるよ! 」
「ばいばい! お姉さん! 」
「ばいばーい! 」
ほとんど一方的に話して子供たちは遊びに戻った。騒いで叫んで、本当に幼い元気な子供たちだった。
「……お姉ちゃん……」
子供たちが遠ざかっていくと、また静けさが戻ってきた。すると、一度死んで忘れていたヨルカの時のキューバルに会う気まずさが甦ってきた。
怖い。少し思いながらも、逃げるわけにはいかない。逃げてしまえば、自分の弱さだけが感じ取れてしまう。それだけは避けたかったのだ。
ヒナが目付きを緩めて諦めたようにそう言った。アルゴライムはずっとニコニコとしながら聞き返した。
「じゃあ、自分で言ってもらえますね? もちろん」
「……私は、今まで一度も吸血鬼のことを恨んだことなどありません。メイリス様についてきたのは、殺されないようにするためだけです。どうせ他の方も同じですよ」
ヒナは、メイリスから少し離れて、少し目付きを鋭くさせて言った。メイリスの顔は、少し青ざめていて、周りの狼たちを見ていた。そして、その狼たちも顔を背けたまま、一匹もメイリスの方を見ようとしなかった。誰も味方はいなかった。メイリスは、その事実を叩きつけられたのだ。
その様子を、アルゴライムは無表情で見つめていた。アルゴライムは、純粋な恨みを持ち続ける者は決して嫌いではない。アルゴライムは絶対に理由をなしに生き物を傷つけたくないのだ。それなのに、メイリスは変わってしまった。
もしも、メイリスが純粋な恨みのまま、吸血鬼を嫌い続けていたのであれば、アルゴライムはすぐにメイリスを殺していた。そんな素直な魂は、消してしまうには惜しいと思っているからだ。だが、今のメイリスは違う。無くしてしまったとしても、惜しくない。アルゴライムはそう思ったのだ。
メイリスのようなタイプは、孤独を嫌うあまり、無意識に味方を作りたがる。そんな者に孤独を叩きつけたのだ。一番傷つかせるには、これが一番だとアルゴライムは知っていたのだ。
「メイリス、吸血鬼を嫌うことをやめにしてください。そして、私の頼みを一つ聞いてください」
「な、何よ。私は、吸血鬼を嫌わなければいけないの。貴女にはわからないでしょうけどね、約束があるのよ」
「そんなもの知りません。良いから聞いてください」
どうにか言葉を発しようとしているメイリスに向けて、アルゴライムはこれ以上無いほどに冷たくあしらった。その言葉に反論するほど、メイリスの気力は残っていなかった。
「私の屋敷に行ってリースを殺してきてください」
アルゴライムは、座り込んでいるメイリスの腕を拾うように掴んで冷たく淡々とそう言った。
「その間に私はお姉ちゃんと話がありますので、帰ってこなくて良いです。……早く行ってください。目障りですから」
話を聞こうともせずに、アルゴライムはメイリスを思い切り投げ捨てて、トキューバの屋敷のなかに入ろうとした。
「そんなに睨まなくても、メイリスとお姉ちゃん以外に用はないので何もしませんよ」
アルゴライムは振り向かずにそう言った。すると、アルゴライムを睨んでいた狼たちは、一匹、また一匹と屋敷から去っていった。誰も、メイリスの側によるものはいなかった。
「……可哀想な方ですね。私が用を済ませて出てきたときにそこにいたら、そのときには殺しますからね」
アルゴライムは、メイリスに向けてそう言うと、屋敷の中に入っていった。
屋敷の中は薄暗く、洋風のお化け屋敷のような雰囲気が漂っていた。キューバルは地下のどこかの部屋にいる。そういうことだけは、アルゴライムにもわかっていた。が、どこから地下に降りていくのかがわからなかった。
「隠れてないで出てきてくださいよ。案内もしてほしいですし」
ただでさえ暗い廊下にある影に隠れて数人の子供がアルゴライムのことを見ていた。メイリスに言っていたときとは違い、優しい声で子供に問いかけた。
「……お姉さん誰? 」
「誰々? 」
「メイリス様のお友だち? 」
「お姉さん人間? 狼? もしかして吸血鬼さん? 」
子供たちは、アルゴライムが声をかけると、口々にアルゴライムに聞き始めた。鬱陶しいとも思いながらも、アルゴライムはその子供たちをあやそうとした。
「吸血鬼だったらだめだよ! メイリス様がお話ししちゃダメって」
「あの地下室の吸血鬼もそうだもんね! 」
「君たち、お願いがあるのですけど、良いですか? 」
『地下室の吸血鬼』という言葉を聞いて、アルゴライムは子供たちに問いた。すると、子供たちはまた口々に答えた。
「何々? 」
「地下室に行きたいの? 」
「吸血鬼に会いたいの? 」
「それならこっちだよ! 」
アルゴライムは聞いていないのに答えが全て返ってくることに子供の無邪気さと単純さを思い知らされた。少し子供は怖いなと思いながらも、可愛らしいとも思っていた。
「ありがとうございます。話さなければならないことがあるのです。案内してくださったら、もう上で遊んでいてくれて構いませんよ、一人で帰ることができるので」
「わかった! 」
「えっとね、ここを降りたらその吸血鬼がいるよ! 」
「ばいばい! お姉さん! 」
「ばいばーい! 」
ほとんど一方的に話して子供たちは遊びに戻った。騒いで叫んで、本当に幼い元気な子供たちだった。
「……お姉ちゃん……」
子供たちが遠ざかっていくと、また静けさが戻ってきた。すると、一度死んで忘れていたヨルカの時のキューバルに会う気まずさが甦ってきた。
怖い。少し思いながらも、逃げるわけにはいかない。逃げてしまえば、自分の弱さだけが感じ取れてしまう。それだけは避けたかったのだ。
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