炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

32節 遥か昔の記憶part17

「っ……ヒナ! ? 」

 ヨルカは、出ない声を無理やり出して、ヒナの名前を呼んだ。

「……」

 ヒナの返事はなかった。ヨルカは、目と口を塞がれ、段々と意識を失っていった。何か、薬草で作られた粉を吸わされてしまったのだ。

「目を……潰せ」

 ヨルカの意識が完全に途切れる前に、誰かがボソリと小さな声で呟いた。誰の声かはヨルカには判断できなかった。が、意識が途切れた瞬間、痛みを感じた気がした。


 ヨルカが気が付くと、冷たい地面に倒れていた。縛られたりはしていないようだ。

「やっぱり……目はないか」

 ヨルカが目に手を当てると、眼窩にそのまま指が入っていき、滑る血液が指についた。

 足も縛られていないようで、天井が低い場所に監禁されているようでもないようなので、ヨルカは立ちあがり、服についた汚れを祓った。

「服も無傷……体も痛むところなんてない。……ところで、ここはどこ? 」

 視覚からの情報を得るのは絶望的だ。必然的にヨルカは、空気の流れに耳を傾けた。

さー

 弱く、優しい風が自然に吹いている。葉の揺れる音も聞こえてきた。どうやらここは、あの建物の近くではなく、屋敷があった森の中のようだ。それも、屋敷跡地のすぐ近く。

「焦げ臭い……」

 歩いてみても、ジャリッという音はしなく、屋敷の中や、目の前ではないことが、見えていないヨルカでもすぐにわかった。

「……目を潰されて、森の奥にでも捨てられたのかな? 確かにこれなら街に行く方法はわからないし」

 周りの静かさから、街の近くでないこともすぐにわかった。そして、屋敷からそう遠くなく、町から遠く離れ、吸血鬼にとって相性が悪く、人間の近づかない場所。ヨルカは一つの考えにたどり着いた。

「湖……か」

 下手に行動すれば、水に落ち、身動きが取れなくなる。そして、ここから移動しようとしても、周辺には何もない。ヨルカにとって、この空間はできればいたくない場所だった。

バサッ

 ヨルカは、羽をしまい、エネルギーを節約できるようにした。いえば、省エネモードである。



 その時だ。ヨルカの右足が熱くなった。痛みだ。しかし、切れた痛みではなく、殴られたような打撲の痛みだ。

「え……? なんで? さっきまでどうとなってもなかったのに」

 次に痛んだのは左足だ。しかし、そのときに擦れたような痛みも伴い、その痛みの正体がわかった。

 ヨルカは、足元を手で探った。そのときには痛みの原因が飛んでくることがなく、腕に痛みが走ることはなかった。

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