炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

26節 遥か昔の記憶part11

 キューバルの部屋の前まできたヨルカは、また気まずさで立ち止まっていた。ノックをしようとしているが、手が動かないで硬直している。知らない者が見れば完全に不審者のようなものだ。

「ヨ、ヨルカ様? どうかされましたか? 」

 あまりの不審さに、使用人がヨルカに話しかけた。

「別に、何もないわよ」

 ヨルカは、なんとか緊張が解けて扉を叩いた。

コンコンコンッ

「お姉さま、ヨルカよ。来ました」

「……入りなさい」

 謎の間を感じられていた。おそらく、キューバルも気まずいところがあるのだろう。ヨルカの手は震えていたが、扉を思いきり開けた。

「失礼します。お姉さま」

 ヨルカが部屋にはいると、キューバルはどこに片付けたのか、ベッドと机と椅子が二つ。それ以外は部屋からなくなっていた。

「よく来たわね、ヨルカ。ゆっくり話をしましょう」

 キューバルはやけに冷静に話した。そして、立ち上がると、部屋にいた使用人を外に出し、鍵を閉めた。

「お姉さま、私は三日後、工場に戻ります。それだけが言いたかったので、部屋に戻ります」

 ヨルカはそのまま、部屋を出ていこうとした。そのときだ。少し離れていたはずのキューバルが、ヨルカの腕をつかんで止めた。

「何? お姉さま」

 ヨルカは少し動揺しながらも、声を震わせることなくキューバルに問いた。ヨルカが見たものは、今まで見たことのないキューバルの姿だった。

 涙目で、微かに怯えたように震えた、まるで幼い子供のようなキューバルだったのだ。

「ねえ、ヨルカ。話を聞かせてくれる? 貴女と話がしたい」

 ヨルカはその目に逆らうことができなかった。姉が誰にも見せて来なかった弱い面を、見せているのかもしれない。そう思ったからだ。

「……お姉さまが話題をくれるなら話してもいい。でも、疲れてるから早く寝たい」

「ええ、いいわ。なぜ、ルータスに話したの? 」

 ヨルカは、その言葉を聞くと、キューバルの手を振りほどき、叫んだ。

「その話はしない! そんな話をするために帰ってきたんじゃない! 私は、この家を出るために帰ってきたの! 」

 ヨルカは、言い過ぎたと思いつつも、逃げるように自分の部屋まで走った。また逃げてしまった。その罪悪感と後悔が襲ってきて部屋に入って鍵を閉めた。

「はぁ……はぁ……」

 距離を走ったわけでもない。速く走ったわけでもない。精神的にとても疲れた。そして、勢いのまま窓と扉の鍵を壊し、密室を作り出した。鍵の開かない、誰も入ることも出ることもできない部屋。

「あ、これじゃあ工場に帰れないじゃん」

 ヨルカが冷静になってはじめに言った言葉だった。ヨルカはそのまま泣き崩れ、扉に背を向け寄りかかり、足を抱えて座り込んだ。

「まあ、松明持ってこられても私は平気だし、お姉さまも無事だし、皆は逃げるだろうから大丈夫か……。どうせ来ないだろうし」

 こうしてヨルカが一人、部屋に籠った。

 カーテンを締め切り、昼は薄暗く、夜は真っ暗な部屋だ。使用人が何人も心配して扉を叩いてきた。それでも出ることはできない。鍵を壊してしまったから。

 そして三日後、事件は起きた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品